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相続に関する法律 台湾⑪
2015年12月31日

 

第6部 台湾法

国立台湾大学 黄 詩淳

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より

平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会

法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

 

 

 

 

第3 章 最近の立法の動向

 

1 生存配偶者の保護——夫婦財産の清算に関連して

 

第2 章12(1)では、配偶者相続分に関する規定について、1975 年に疑問が提起されたことに言及した。その後、配偶者相続分は修正されてはいないが、剰余財産分配請求権の導入およびそれが夫婦一方の死亡時に適用されうるという解釈により、実質的に生存配偶者の保障が図られている。

 

1 剰余財産分配請求権の創設(1985 年)

 

1985 年の民法改正の際には、夫婦財産制の剰余財産分配請求権に関する1030 条の1 が新設された。

 

すなわち、「(1 項)聯合財産関係が消滅したときは、夫または妻が婚姻関係存続中に取得し、現有する原有財産から、婚姻関係存続中に負担した債務を控除した後に、剰余があるときは、双方の剰余財産の差額は、平均で分配しなければならない。

 

ただし、相続またはその他無償で取した財産は、この限りでない。(2 項)前項の規定による平均分配が明らかに公平を失するときは、裁判所は、その分配額を斟酌して減少することができる。(3 項)第一項の剰余財産差額の分配請求権は、請求権者が剰余財産の差額があることを知った時から二年間行使しないことによって消滅する。聯合財産関係消滅のときから五年を経過したときもまた同じである」となっている。

 

その立法理由は、内助の功に対する公平な評価であるといわれている。

 

 

当時の台湾の法定夫婦財産制は、「聯合財産制」と称し、スイスの(当時の)法定夫婦財産制である財産併合制(Güterverbindung)に類似しており、夫婦財産の管理・用益・処分権が夫にある。

 

夫婦一方の死亡は、1030 条の1 の「聯合財産関係が消滅したとき」に該当すると解されるため、剰余財産分配請求権が発生し、まずは夫婦財産の清算を経てから、残りの財産は相続財産として、民法相続編のルールにしたがって、生存配偶者と他の相続人に相続されることとなる。

 

この解釈は学説に広く支持されている。下級審裁判例は分かれており50、最高法院はまだ判決を下していないが、最高行政法院は相続税の前提問題として、死亡時の剰余財産分配請求権を肯定しつづけてきた51。このように、生存配偶者の保護に関して、夫婦財産法的な解決と相続法的な解決の両

方を認め、配偶者相続分を引き上げずに問題が解決された。

 

 

番人

「台湾の家族関係の法律はスイスを参考にしたんだ。」

 

 

2 一身専属性の付与(2002 年)

 

2002 年には夫婦財産制が大きく改正され、具体的には、かつての「聯合財産制」が廃除され、代わりに「夫婦別産制」が法定夫婦財産制となった。ただし、1030 条の1 の規定する剰余財産分配請求権はなお維持されている。つまり、法定夫婦財産制は、婚姻関係中の夫婦別産制と解消時の剰余財産清算という二本柱から構成されている。

 

 

 

 

1030 条の1 は削除されずに存在しているが、若干の修正が加えられた。本来、1030 条の1 の下で、仮に死亡者が剰余の少ない配偶者であれば、死亡配偶者は、生存配偶者に剰余財産の分配を請求する権利があり、この権利は相続される。

 

これにより、死亡配偶者の相続人は、生存配偶者に対して剰余財産の分配を請求することができる。これは、夫婦財産の清算という性質からは、

自然的な結論といえる。しかし、一部の論者は、剰余財産の分配はあくまでも夫婦間に限られるべきであり、夫婦以外の第三者が剰余財産の分配により利益を得ることに強く反対している。

 

このような見解もあって、2002 年民法改正では1030 条の1 第3 項が追加された(議員立法)52。それによれば、「第一項の請求権は、譲渡又は相続されることがない。但し、既に契約によって承諾された場合、或いは既に起訴された場合はこの限りでない」のである。

 

立法理由は、「剰余財産分配請求権は夫婦の身分関係に基づいて生じるものであるため、夫婦の一方が死亡したときは、剰余財産分配請求権はその相続人に相続されるべきではない。また、夫婦の離婚後、一方の債権者は代位して他方に対して剰余財産分配請求権を行使してはならない。

 

その他、夫婦のいずれもその期待権を他人に譲渡してはならない。…」と述べ、本項の趣旨が剰余財産分配請求権の相続性と譲渡性(移転性)を否定することにあると明言している。

 

 

 

 

この一身専属性とは何を意味するのかについては、これまでは必ずしも詳細に検討されてはいない。すなわち、夫婦間の剰余財産分配の請求権・義務を、扶養請求権・扶養義務と類似するものとして、権利も義務も相続されないと理解すべきなのか、あるいは、剰余財産分配の請求権・

義務を慰謝料請求権・義務と類似するものとして、権利が相続されないものの義務は相続されると捉えるべきなのかがここでの問題である。

 

その結果、剰余の少ない配偶者(権利者)が死亡した場合に、その相続人は、確かに剰余の多い生存配偶者(義務者)に対して、夫婦財産の清算を

主張できなくなる。逆の場合すなわち剰余の多い配偶者(義務者)が死亡した場合に、剰余の少ない配偶者(権利者)が、死者の相続人に対して剰余の分配を主張できるかは定かではない。

 

いずれにせよ、学説53はこの「一身専属権」の規定を強く批判している。その理由は以下の通りである。

 

 

 

(1) 取引の安全を害する。剰余の少ない被相続人の剰余財産分配請求権が相続されないと、相続債権者の弁済を受ける機会は減ってしまう。その他、相続の場合のみならず、離婚の場合もまた、剰余財産分配請求権を有する配偶者と取引した第三者は、債権者代位権(民法242 条)と詐害行為取消権(244 条)を行使できず、取引の安全を害する54。

 

(2) 剰余財産分配請求権は、夫婦の共同生活における協力により生じたものであるが、財産権であることは否めない。法定財産制の解消前には、それは停止条件付きの債権であり、性質上は財産権である。そのため、それを行使及び帰属上一身専属的な権利として定め、あたかも非財産

的な損害賠償請求権のように扱うことは、妥当でない55。

 

その他、「身分関係に基づいて生じる」請求権もまた、必然的に一身専属的であるわけではない。例えば、民999 条の定める結婚の無効または取消によって発生する財産上の損害賠償請求権は、条文上、一身専属権となっていない。

1056 条離婚による財産上の損害賠償も同様である56。

 

(3) わが国が参考としたスイス法とドイツ法は、剰余共同制において、剰余財産分配請求権の一身専属性を認めていない57。

 

3 一身専属性の削除(2007 年)

 

以上のような学説の反対を受け、2007 年には1030 条の1 第3 項の一身専属の規定が削除された。その理由は、剰余財産分配請求権は確かに夫婦の身分に基づいて生じたものであるが、その本質が財産権であり、一身専属性を有さないということである。

 

さらに立法説明では、一身専属の解釈を採ると、剰余の少ない被相続人には剰余財産分配請求権があるものの、相続されず、その相続人にとっては不公平であり、また、一身専属の故に、剰余の少ない配偶者(すなわち債務者)の債権者が、代位して、剰余の多い配偶者に対して分配請求権を行使できず、不当であると指摘されている58。

 

 

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