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相続に関する法律 台湾⑩
2015年12月31日

 

第6部 台湾法

国立台湾大学 黄 詩淳

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より

平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会

法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

 

 

5 遺産分割

 

相続開始後の遺産共有状態は、遺産分割が行われるまでの過渡的なものであり、相続人は、分割を禁止する特別の定めがない限り、いつでも自由に遺産分割を請求することができる(台湾民法1164 条)。

 

 

 

遺産分割の対象となる財産については、台湾は日本よりその範囲が広いといえる。すなわち、日本において、可分債権と債務は共同相続人に相続分に応じて分割帰属し、遺産分割の対象とならないのみならず、特定遺贈などの目的物は受遺者に移転し、これも概念上、遺産分割の対象とならない。

 

これとは対照的に、台湾では、可分債権と債務は相続人に分割して帰属せず、特定遺贈にも物権的効力がないため、これらのものは全て遺産分割の対象となる「財産」にとどまる。

 

 

次に、遺産分割の方法について、台湾の学説は疑問もなく「遺言による分割方法の指定」、「協議分割」と「裁判分割」の三種類あると述べている46。台湾の民法相続編においては、遺産分割の方法に関する規定があるのは、「分割方法の指定」についてだけである(1165 条1 項)。

 

その他の分割方法に関しては、物権編の共有に関する規定を準用する必要がある。830 条第2 項は「公同共有物分割の方法は、法律に別段の定めがある場合を除いて、共有物分割に関する規定によらなければならない」と規定している。遺産も公同共有物に属するため、遺産分割の方法は、この

条文に基づいて一般的な共有物分割の規定が適用される。

 

すなわち、共同相続人は、まず協議の方法によって遺産分割を行い、協議により分割方法を定めることができないときにはじめて、裁判所に分割の裁判を提起することができる(824 条)。

 

6 台湾の相続制度の特徴

 

本章で述べてきた内容を今一度整理する。相続開始後、相続人が複数の場合に、遺産はまず相続人の共有に属する状態となる。中華民国民法は、かつての兄弟の同居共財の状況に鑑みた上で、相続開始後の遺産をなるべく一体として保つべく、この段階の遺産の法的性質を合有と定めている。

 

合有における持分が抽象的なものであるため、共同相続人は遺産に属する個々の財産について具体的な持分を有するわけではなく、それを処分することはできず、また遺産全体の相続分を処分することもできない。このことは遺産の一体性の維持に有利であるが、反面、迅速な処分が必要な場合、例えば、相場が高価な時に株式を処分しようというときは、合有の状態は不便である。

 

番人

「兄弟姉妹を含めて家族が同居していることが多かったのかな。」

 

 

合有の状態を解消するためには、遺産分割の手続が必要であるが、遺産分割の基準は法定相続分のみではなく、被相続人による意思表示(相続人に遺贈・相続分の指定・遺産分割方法の指定)がある場合はそれが優先する。

 

ただし、これらの意思表示が遺留分を侵害するなら、遺留分権利者は減殺を請求することができる。実際に、遺言に対して調査した結果、台湾の遺言受益者は、ほとんど法定相続人であり、第三者の割合が少ない47。

 

すなわち、遺留分減殺請求の当事者は、多くの場合は両方とも共同相続人である。遺産の合有および債権的効力しか有しない遺言による財産処分は、遺留分減殺請求を含む相続に関する紛争を遺産分割まで凍結させる。遺産分割の手続では、法定相続分・被相続人の遺言による財産処分・遺留分の問題を総合的に斟酌し、一括して解決することができる。

 

これに対して、遺言による財産処分には物権的効力がある場合には、遺言受益者は、他の共同相続人の協力を経ずとも単独で不動産の登記名義を自らに移転することができる。

 

この場合には、当該目的物がすでに受益者の単独所有物となり、もはや合有の遺産に属さないため、遺留分権利者は、遺産分割手続を経ず、直ちに当該目的物に対して遺留分減殺請求権を行使することが、理論的には不可能ではないが、台湾の判例(最高法院86 年台上字第2864

号、88 年台上字第572 号、91 年台上字第556 号判決)は、減殺請求により取戻した財産が合有の遺産に復帰し、遺留分減殺請求権者が遺留分に相当する遺産を取得するためには、やはり遺産分割を経由しなければならないとしている。

 

換言すれば、遺産分割は、遺留分減殺請求の前提となる手続であり、そこで遺留分の問題の解決が期待されている48。

 

 

 

 

実体法のみならず、手続法上も同様の結論が導きだされる。すなわち、2012 年6 月1 日の家事事件法施行前から、台湾では遺産分割事件も、遺留分の減殺請求に基づいた物の返還請求または共有物分割の事件も、地方裁判所の管轄である。

 

そのため、遺産分割の裁判の中で遺留分減殺請求の意思が示されれば、取り戻された部分が観念上遺産に復帰し、遺産分割の対象となる。新竹

地方法院94 年家訴字第27 号判決(遺産分割事件)は、このような扱いの具体例である。すなわち、被相続人は生前、係争土地を被告(子の1 人)に遺贈するという公正証書遺言を作成した。

 

 

被相続人には7 人の子がいる。係争土地の他には、めぼしい遺産がない。相続開始後、係争土地は「合有」の相続登記を経た。遺贈を受けていない原告ら(他の6 人の子)は、遺産分割の訴えを提起した。訴訟の中で、原告らは遺留分減殺請求を理由として、係争土地を、被告に8/14、原

告の各々に1/14 の持分で分割するよう求めた。裁判所は、まず民法第1164 条を根拠として、原告らの遺産分割請求権を肯定した。次に、被告は、「遺贈の目的物」が遺産の一部ではなく、遺産分割手続で分配すべきではないと抗弁したが、裁判所は、本件の受遺者が共同相続人の1 人であ

るから、遺贈の目的物を遺産分割の対象財産とすることは妥当であるとしている。

 

したがって、原告らの遺産分割の請求は認められた。この判決は、「遺産分割手続によって遺留分が保護される」見解を採用した実例である。

 

日本の状況は異なっている。日本では遺産分割事件は家庭裁判所の調停審判による解決が必要であり、遺留分減殺請求事件については地方裁判所の共有物分割訴訟の手続が必要である

 

。さらに、遺留分権利者が受遺者に対する減殺請求により取り戻した財産は、減殺請求者と受遺者の物権法上の共有関係に属すると判例49が解しているため、遺産分割手続で遺留分に関する問題は処理できず、別個の民事訴訟で決着させるほかない。

 

言い換えれば、日本では遺産分割の審判で共同相続人間の紛争をまとめて解決できないゆえに、別途で地方裁判所で遺留分減殺請求に関する

訴訟を提起する必要がある。

 

次の第3 章では、相続以外の制度の改正が相続に与える影響および最近の立法の動向について述べる。

 

 

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