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相続に関する法律 ドイツ⑤
2015年12月27日

 

第1 部 ドイツ法

神戸大学 浦野由紀子

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より

平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会

法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

 

 

 

第4 章 遺留分制度

 

1 遺留分権利者と遺留分

 

被相続人が相続人を指定した場合は、推定法定相続人は相続資格をもたない。また、被相続人は法定相続人を自由に廃除できる。このように相続人の指定や廃除によって相続資格を剥奪された法定相続人のうち、一定の者(近親)に対しては、遺留分として一定の財産額が保障されている。

 

遺留分権利者に遺留分剥奪事由(§2333ff.)がある場合32や、被相続人が遺留分権利者との間で相続ないし遺留分の放棄契約(§2346)33を締結した場合を除き、被相続人は死因処分によって遺留分権利者の遺留分権を排除することはできない。遺留分権は、ドイツ基本法14 条1 項によって保障された権利である。

 

 

遺留分権利者は、被相続人の配偶者(または同性パートナー)、直系卑属、父母である(§2303)。親等の遠い直系卑属や父母は、親等のより近い直系卑属がいる場合には、遺留分権利者とならない(§2309)。

遺留分(率)は、法定相続分の2 分の1 である(§2303Abs.1Satz2)。

 

遺留分権利者は、死因処分(遺言、相続契約など)によって相続から排除されている場合に遺留分請求権を持つ。遺留分権利者は、遺留分額(法定相続分の半分)に満たない相続分が定められた場合も、遺留分額との差額について、追加遺留分(Zusatzpflichtteil)を請求できる(§2305Satz1)。

 

 

 

遺留分権利者に対して、遺留分額(法定相続分の半分)に満たない遺贈が定められている場合は、遺留分権利者は、遺贈を放棄して遺留分を請求することができるほか、遺贈放棄せずに遺贈の価額と遺留分額の差額を追加遺留分として請求することもできる(§2307)。

 

また、被相続人によって一定の制限(Beschränkungen)や負担(Auflage)34が課されていることによって、遺留分権利者たる相続人に遺された(指定)相続分の価値が著しく損なわれていることがある。そのような場合にも、遺留分権利者は、相続を放棄し、代わりに遺留分を請求することができる(§2306Abs.1)35。

 

遺留分権利者に対して、死因処分により遺留分相当額が与えられた場合は、疑わしいときは、遺留分に相当する相続分で相続人指定がなされたとみるべきではない(§2304)。この場合には、当該遺留分権利者に対して遺留分相当額を遺贈する趣旨か、あるいは、遺留分権しか与えない旨を示す趣旨かのいずれかだと考えられる。

 

2 付加利得共通制と生存配偶者の遺留分

 

上述したように(第1 章13(2)(b))、生存配偶者の法定相続分は夫婦財産制によって左右されるので、その遺留分も夫婦財産制によって左右される。

 

付加利得共通制に服していた夫婦の一方が死亡した場合に、生存配偶者には「大きな遺留分」が保障される場合と「小さな遺留分」が保障される場合とがある。付加利得の一括調整がなされない(4 分の1 の増加分のない)法定相続分に基づいて算定される遺留分を「小さな遺留分」といい、付加利得の一括調整のために増加された法定相続分に基づいて算定される配偶者の遺留分を「大きな遺留分」という。

 

 

相続から排除された生存配偶者は、夫婦財産法上の付加利得調整請求権のほかに、相続人に対して遺留分を請求することができる。この場合に、生存配偶者の遺留分の算定にあたって基準となる法定相続分は、付加利得の一括調整のために増加された法定相続分ではなく、付加利得の調整のない状態の法定相続分である(§1371Abs.2)。

 

たとえば、もし生存配偶者が廃除されていなければ第一順位の血族相続人とともに相続したという場合は、生存配偶者の遺留分は、その法定相続分(4 分の1。§1931Abs.1)の半分である8 分の1 である。

 

 

相続法における増加相続分による付加利得の調整(§1371Abs.1)は、生存配偶者が法定相続人であることを前提として行われる。これに対して、夫婦財産法上の付加利得調整請求権は、生存配偶者が相続人でも受遺者でもない場合を前提として、認められる。

 

したがって、生存配偶者が、死因処分によって遺贈を受けたり相続人に指定されたりしている場合は、相続分の増加による付加利得の一括調整はなされず、(相続や遺贈を放棄しないかぎり)夫婦財産制に基づく付加利得調整請求権も生じない。

 

そこで、指定相続人または受遺者となっている生存配偶者は、死因処分によって与えられた遺産額が、「大きな遺留分」の額よりも少ないときは、大きな遺留分額との差額を追加遺留分として請求できる(§2305Satz1、§2307Abs.1Satz2)。

 

 

生存配偶者は、遺贈や相続を放棄して、その代わりに夫婦財産制に基づく付加利得の調整と小さな遺留分を請求することもできる。付加利得の実際の額によって、≪法定相続分+付加利得の一括調整(相続分の増加)≫と≪付加利得調整請求権+小さな遺留分≫のいずれが有利となるかは異なる。

 

夫婦が付加利得共通制に服していた場合における生存配偶者の法的地位は、以下の表のようにまとめることができる36。

 

すみれ

「表は省略です。コピーできないんですよ。」

 

 

3 遺留分額の算定

 

 

遺留分権は相続人に対する債権的請求権であり(§2317)、その額は、原則として、相続開始時の遺産の価額(§2311Abs.1)から遺産債務37の額を控除したもの(遺留分算定の基礎財産)に、遺留分率を乗じて算定されるが、以下の場合には、生前になされた一定の出捐が遺留分算定の基礎財産に算入され、遺留分額の調整がなされる(①②③)。

 

また、被相続人の財産の維持・増加に寄与した直系卑属がいる場合には、遺留分の算定にあたって、その寄与分が考慮される(④)。

 

①被相続人が遺留分権利者に対して生前にした出捐で、出捐がなされた際にその出捐額が遺留分に算入されるべきことを被相続人が表示していた場合には、出捐額を加算した基礎財産に基づいて算定された遺留分額から、その出捐額を控除したものが、出捐受領者たる遺留分権利者の遺留分となる(§2315Abs.1)。

 

 

②被相続人が直系卑属に対して生前になされた出捐が、法定相続において分割に際して調整されるべきものである場合(日本民法903 条にいう「持戻し」の対象となる特別受益がある場合。

 

  • 205038)、直系卑属の遺留分は、この調整義務を考慮した結果その者に割り当てられるであろう法定相続分に従って定まる(§2316Abs.1)。

 

 

③被相続人が相続開始前の10 年間に第三者(遺留分権利者・相続人も含まれる)に対して生前贈与(害意の有無は問わない)をしていた場合は、遺留分権利者は、≪相続開始時の遺産に当該生前贈与を加算した基礎財産に基づいて算定された遺留分の価額≫から≪現存遺産を基礎財産として算定された遺留分の価額≫を控除した額について、受贈者に対して遺留分の補充を求めることができる(遺留分補充請求権、§2325)。

 

生前贈与が遺留分算定の基礎財産に加算される際、その加算額は、贈与から1 年経過するごとに10 分の1 ずつ減額される(§2325Abs.3Satz1)。なお、被相続人が配偶者に対してした生前贈与39については、上記10 年の期間は、婚姻解消前には進行しない(§2325Abs.3Satz3)。

 

その理由は、配偶者間の贈与において贈与された目的物は、婚姻中は、通常、事実上夫婦の共有財産となった状態にあると考えられるからであると説明される。そのため、夫婦の一方の死亡によって婚姻が解消した場合は、何十年前になされた贈与であっても、遺留分算定の基礎財産に算入される40。

 

④直系卑属が被相続人の財産の維持・増加に寄与するような特別の給付をした場合にも、相続分の調整義務があるので(§2057a)、この場合も、直系卑属の遺留分は、この調整義務を考慮した結果その者に割り当てられるであろう法定相続分に従って定まる(§2316Abs.1)。

 

なお、日本法とは異なり、被相続人の財産の維持・増加に寄与する特別の給付は、直系卑属がしたものに限られ、生存配偶者がした寄与についてはこのような調整は認められない。

 

 

[②の具体例141]被相続人の血縁者でないX が相続人に指定されており、遺留分権利者は被相続人の子ABC の3 人である。遺産の価額は50000 ユーロである。A は10000 ユーロ、B は6000 ユーロの独立資金(Ausstattung)を、それぞれ生前の被相続人から受けている。この独立資金の出損

は、持戻しの対象である。

 

 

・この場合において、遺産額に生前の出損を加算した額(みなし相続財産)は、50000+10000+6000=66000

・遺留分権利者各自の一応の相続分(みなし相続財産×各自の法定相続分)は、ABC とも、66000×1/3=各22000

 

・§2050 により、具体的相続分は、A:22000-10000=12000、B:22000-6000=16000、C:22000

・したがって、遺留分は、A:12000×1/2=6000、B:16000×1/2=8000、C:22000×1/2=11000となる。

 

[②の具体例242]被相続人は、妻を単独相続人に指定した。被相続人と妻は、婚姻中、付加利得共通制に服していた。遺産は、100000 ユーロである。被相続人には息子ABC がおり、A は30000ユーロ、B は4000 ユーロの独立資金を被相続人から受けており、§2057a による調整義務を負っ

ている。

 

 

・まず、妻は§2057a に基づく調整義務者でも調整請求権者でもないので、調整によるABC の遺留分の算定のためには、まず妻の法定相続分(§1931Abs.1 と§1371Abs.1 により、50000 ユーロ)を遺産(10000 ユーロ)から控除する(§2316Abs.1Satz1、§2055Abs.1Satz2)。

 

・みなし相続財産は、50000(妻の法定相続分を控除した遺産)+30000+4000=84000・遺留分権利者各自の一応の相続分(みなし相続財産×各自の法定相続分)は、ABC とも、84000×1/3=各28000

 

・§2050 により、具体的相続分は、A:28000-30000=-2000、B:28000-4000=24000、C:28000である。相続分がマイナスとなったA は、遺産から何も取得しないが、何も返還する必要もない(§2316Abs.1Satz1、§2056)。BC の遺留分の算定の際には、A が被相続人から得た出捐は考

慮されない。

 

・改めて、BC の遺留分算定のためのみなし相続財産を算定し直すと、50000+4000=54000

・遺留分権利者各自の一応の相続分(みなし相続財産×各自の法定相続分)は、BC とも、54000×1/2=各27000

 

・したがって、具体的相続分は、B:27000-4000=23000、C:27000

・遺留分は、B:23000/2=11500、C:27000/2=13500 となる。

 

[③の具体例43]被相続人には妻はなく、一人息子S(遺留分権利者)がいる。被相続人は、血縁者でないX を相続人に指定し、S を廃除した。遺産の価額は20000 ユーロである。被相続人はXに20000 ユーロを生前贈与していた。

 

・この場合において、遺産のみを基礎財産とした場合のS の遺留分は、20000/2=10000

・遺産に生前贈与を加算した額を基礎財産とした場合のS の遺留分は、(20000+20000)/2=20000

 

・したがって、遺留分補充請求権は、20000-10000=10000 である。

・以上より、S は遺産全額(10000+10000(遺留分補充分)=20000 ユーロ)を取得することになる。

 

 

番人

「遺留分は、相手に請求するとすぐにもらえるのかな。それとも裁判所を通すのかな。」

 

 

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