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相続に関する法律 アメリカ⑪
2015年12月25日

 

第4 部 アメリカ法

横浜国立大学 常岡史子

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より

平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会

法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

 

 

 

第3 章 配偶者と子の保護

 

1 生存配偶者の権利

 

1 夫婦財産制と婚姻財産

 

コモンローにおいては、配偶者は相続人とはされず、生存配偶者は、かん夫産権(curtesy right)又は寡婦産権(dower right)を有するのみであった121。しかし今日では、アメリカのすべての州において配偶者には無遺言相続権が認められている122。

 

ただし、その内容については、特に婚姻中の夫婦財産制によって相違が生じる。

アメリカの夫婦財産制は、イギリスのコモンローに由来する別産制(separate property)と、大陸法に由来しフランス、スペインからの入植者によってもたらされた共有財産制(communityproperty)に分かれる。

 

 

ポリー

「州によって法律が違うのは、ヨーロッパのどこの国からきた人が多いかで、少し変わってくるのですね。」

 

 

(1) 別産制と配偶者の相続権

 

別産制の諸州では、多くの場合、生存配偶者を保護するために、死亡配偶者の遺産について選択的相続分(elective share,forced share)を与える旨の制定法を置く。この選択的相続分は、婚姻中の収入によって獲得された財産に限られず、死亡配偶者のすべての財産を対象とする。ただし、非検認の財産移転にもこれが該当するかについては争いがある(後述第3 章16(2))。

 

 

(2) 共有財産制

 

共有制は、長らく8 州で行われてきたが(アリゾナ、カリフォルニア、アイダホ、ルイジアナ、ネバダ、ニューメキシコ、テキサス、ワシントン)、1984 年にウィスコンシンがこれに加わった123。アメリカにおける共有財産制の基本的な考え方は、夫婦の全収入及びその収入によって取得され

た財産は、両配偶者が別段の合意をしなければ、夫婦の共有財産になるというものである。

 

各配偶者は、共有財産の2 分の1 につき不分割の持分権を有する。一方配偶者が死亡すると共有財産制は解消される。死亡配偶者は共有財産の2 分の1 の持分権を持ち、これを遺言によって処分する権限を有する。一方、生存配偶者は、そもそもの自らの持分権として共有財産の2 分の1 を所有する。ULC が1983 年に公表した統一婚姻財産法典(Uniform Marital Property Act)は、communityproperty という語を避けmarital property という用語を用いつつ、共有財産制原則を採用していた。

 

 

 

 

 

2 家産(Homestead)の確保

 

ほぼすべての州で、生存配偶者と未成年の子らに、被相続人の債権者からの請求を免れ、家族住居を保証することを認める家産権法(homestead law)が置かれている。このような家産は、しばしば検認家産(probate homestead)と呼ばれる124。

 

各州法の内容は多様であるが、生存配偶者に家族住居(又は家族農場)をその生存中占有できる権利を与えるというのが一般的である。州によっては、家産とは被相続人によってその旨を生存中に証明されたものでなければならず、それは一定の公署に家産の宣言(declaration ofhomestead)を提出することによってなされるとする。

 

他の州では、検認裁判所に、不動産を家産として遺産から控除する権限を認めるところもある。

 

 

 

 

UPC§2-402(1990. rev.2008)は、家産手当(homestead allowance)を、遺産に対するすべての請求権から免れ、すべての請求権に優先するものと定義し、被相続人の生存配偶者(生存配偶者がいない場合には、被相続人の未成年子と未成熟子)は、22,500 ドルの家産手当の権利を有する

と規定する(この数字は§1-109 の生活費調整の公式に従う)。

 

また同条は、家産手当は、原則として、被相続人の遺言、無遺言相続、選択的相続権により生存配偶者や未成年子若しくは未成熟子に移転する諸権利や持分に加えて、さらに与えられるものである旨を明示的に定める。

 

家産手当につきこのように額を定めておくのは、遺産がそれ以下の価額の場合には遺産管理手続が免除され又は略式で処理されるであろうことから(UPC§§3-1201(a),3-1203, 3-1204.前述第2 章46)、そのような一定レベルの金額を挙げておくのが望ましいという考慮がある125。

 

なお、州法によっては、より高額の家産手当を認め、価額に関係なく被相続人のすべての債権者及び受遺者の請求から家族住居を守るところもある。

 

 

ポリー

「家に関する保護はとても強いですね。」

 

 

 

3 家族手当(family allowance)

 

すべての州において、裁判所には、遺産から生存配偶者(と未成熟子)に扶養料(maintenanceand support)を付与する権限が認められている126。この家族手当は、一定期間に限定することができ、1 年間というのが典型的である(UPC§2-404(1990)も同様)。

 

家族手当も、家産手当や他の免除財産とともに、生存配偶者が取得する他の諸権利に関わらず付与される。

州によっては、家族手当の最高額を法律によって固定するところもあるが、一般的には、当該配偶者の生活水準と結びついた相当の家族手当(reasonable allowance)という文言の規定となっている。UPC§2-404(a)(1990)も「相当な家族手当」と規定する。

 

また、UPC 同項は、遺産が債権者に弁済するのに十分でない場合には、家族手当を1 年を超えて継続することはできないと定める。被相続人の配偶者及び未成熟子の家族手当による扶養は、検認手続が終結した後は許されない。なお、人格代表者も、裁判所の命令なしに、一括27,000 ドル又は月2,250 ドル(ただし1年)を超えない範囲で家族手当を決定することができる(UPC§2-405)。

 

 

 

4 免除財産(exempt property)

 

家産以外にも、一定額まで被相続人の所有していた動産を取得する権利が生存配偶者や未成年子らに認められる場合がある。UPC§2-403(1990. rev.2008)は、生存配偶者(生存配偶者がいない場合には被相続人の子)が15,000 ドルまで、遺産から家財道具、自動車、服飾品、家電、身

の回り品を取得できると規定する。これらの品は、被相続人の債権者の請求から免除される。

 

家産手当や家族手当とともにこれらの免除財産も、遺言、無遺言相続、選択的相続分によって生存配偶者や子が取得する他の諸権利に加えて、付与される。なお、UPC§2-402 の家産手当や§2-404の家族手当と異なり、免除財産取得の権利は成人の子にも認められる。

 

 

5 寡婦産(dower)とかん夫産(curtesy)

 

 

コモンローは、寡婦は死亡した夫が婚姻中に取得し、夫婦の直系卑属によって相続されるすべての土地の上に寡婦産を有するとしていた。寡婦産は、夫が所有する土地の3 分の1 についての生涯不動産権(life estate)として寡婦に与えられた。

 

封建時代には、寡婦産は妻の扶養のために意味を持っていたが、多くの富が無体の人的財産(株や証券)や人的資本(教育や職業訓練によるもの)の形をとるようになった現在、寡婦産はもはや意味を有さなくなっており、大多数の州は、寡婦産を廃止している127。

 

 

 

一方、コモンローでは、夫は妻の土地に扶養利益を有しており、これはかん夫産と呼ばれていた。夫はその妻との間に子供が生まれるまではかん夫産を取得せず、また、夫は妻の土地の3 分の1 ではなく全部に生涯不動産権を与えられるという点を除けば、かん夫産は寡婦産と同様である。ごく少数の州ではかん夫産がなお残るが、それらは妻と同様の扶養利益を事実上夫に与えるための方途としてあるにすぎないとされる128。

 

 

 

 

 

6 生存配偶者の選択的相続分(elective share)

 

(1) 選択的相続分の概念

 

 

別産制の諸州はジョージアを除いて、家族手当や家産手当等の生存配偶者らの権利に加えて、被相続人の財産に対する選択的相続分(elective share, forced share)を生存配偶者に認める。

 

ジョージアは選択的相続分を定めない唯一の別産制州であるが、その代わりに少なくとも1 年間の配偶者扶養(及び未成年子扶養)を認める(Georgia Code §53-5-4(Pre- 1998 Probate Code))。

 

 

 

選択的相続分という用語は、生存配偶者が、被相続人の遺言に従って遺産を取得するか、又は当該遺言を放棄し被相続人の遺産の持分を取得するかの選択権を与えられることに由来する。選択的相続分の目的は、被相続人の財産形成に対する配偶者の寄与の清算(これは婚姻パートナーシップ理論に基づくといえる)と生存配偶者の適切な扶養にあるとされている。

 

ただし、選択的相続分の現実の規定化に際しては、パートナーシップ理論と扶養理論の間で緊張関係が生じうる。

すなわちパートナーシップ理論では、生存配偶者に被相続人が婚姻中に取得した財産の2 分の1を取得させるのが妥当であるということになり、他方、扶養理論では、相続分の割合は2 分の1より少ないとしても被相続人の全財産が対象となろう。

 

 

ポリー

「配偶者は、対等か一方(夫)が守るべき人なのか、州によって考え方が違うんですね。今はどちらも選べるようにしているってことでしょうか。」

 

 

 

UPC(1969)における選択相続分の規定は、生存配偶者に3 分の1 の持分を認めるというものであった。この3 分の1 という数字は、寡婦産(dower)に由来するものである129。扶養理論をベースとするこの選択的相続分概念は1990 年の改訂で大きく変更され、さらに現在では、生存配偶者は婚姻財産の50%(2 分の1)に等しい選択的相続分を選択する権利を有すると定められている(UPC2-202(a))。

 

この改正の主目的は、婚姻を経済的パートナーシップ関係とみる現代的婚姻観を反映させることにあった130。ただし、UPC(1969)であれUPC(1990)であれ、UPC を採択した諸州の多くは、選択的相続分に関する規定についてUPC のままではなく各々変更を加えており、その背景には、パートナーシップか扶養かについての考え方の相違が存すると指摘されている131。

 

 

(2) 選択的相続分の対象となる財産

 

多くの州法は、従来、選択的相続分として生存配偶者に被相続人の遺産に対する割合による持分(典型的には3 分の1)を認め、また、ここにいう遺産とは検認遺産を意味すると解していた。

 

しかし、非検認遺産の重要性が増すにつれて、これにも選択的相続分を拡大すべきではないかという議論が生じてきた。

いかなる非検認財産が選択的相続分に服するかを決定するため、各州法は、客観的基準を定める。多くの場合、検認遺産に加えて、純遺産(net estate)、選択的相続分遺産(elective estate)又は増加遺産(augmented estate)を構成する具体的な非検認財産を個別に列挙する方法をとって

いる。例としてニューヨークとデラウエアを挙げる。

 

 

(a)ニューヨーク

 

1965 年に、ニューヨークは純遺産(net estate)型の方法を採用し、数種類の非検認遺産を選択的相続分の対象に含ませることとした。現行ニューヨーク州法は、生存配偶者に50,000 ドルか又は被相続人の純遺産の3分の1 のいずれか大きい額の選択的相続分と、動産の免除(exempt property

にあたる)を認める(New York Code ETP§5-1.1-A(a)(2)(2008))。

 

選択的相続分に服する被相続人の純遺産は、検認財産及び以下の(i)から(ix)の非検認譲渡とされている((New York Code ETP5-1.1-A(b)(1)(A)-(I) (2008))132。

 

 

(ⅰ) 死亡予期贈与(死亡時にある有体人的財産(tangible personal property)の贈与)

 

(ⅱ) 死亡前1年以内になされた贈与、ただし、贈与税の年間控除額を超えない贈与を除く(2009年は13,000 ドル)

 

(ⅲ) トッテン(Totten)信託(savings account trust)

 

 

ポリー

「トッテン信託ってなんでしょう。」

 

(ⅳ) 共同銀行預金、ただし被相続人の持分額まで

(ⅴ) 合有不動産権及び夫婦全部保有不動産権、ただし、被相続人の持分額まで

(ⅵ) 被相続人以外の者に死亡時に支払われるべき財産

(ⅶ) 被相続人が占有権若しくは生涯収益権を保有し、又は撤回権若しくは元本を消費し、侵し若しくは処分する権限を保有する生前譲渡

(ⅷ) 年金プラン又はそれと同様のもの

(ⅸ) 被相続人が一般的な権利取得者指定権を保有していた財産

 

選択的相続分の額は、無遺言相続、遺言又は遺言代用手段によって被相続人から生存配偶者譲渡された、生涯不動産権以外のすべての権利の価額を控除して算定される(New York Code ETP5-1.1-A(a)(4)(2008))。

 

 

(b) デラウエア

 

デラウエアは、選択的相続分の対象となる遺産について、これは連邦遺産税の目的のための被相続人の総遺産額を言い、そこでは連邦遺産税還付金の申請が被相続人のためになされているか否かは関係ないものとすると定める(Delawere.Code§12-902(a)(2008))。

 

ただし、同条(a)項はさらに、選択的相続分遺産について、(1)IRC§2053、§2054 のもとで許される控除を減じ、かつ、

 

 

(2)夫婦の合有財産権に関するIRC§2040(b)のもとで被相続人及び生存配偶者の一定の合有財産権が連邦遺産税の目的において被相続人の総遺産に含まれる程度については、被相続人の連邦遺産税の目的のための総遺産は、[1977 年1 月1 日前に創設されたものも含めて]被相続人及び生存配偶者が、夫婦全部保有財産権者又は被相続人と生存配偶者のみが合有財産権者である場合において生存者財産権を伴う合有財産権者として所有するあらゆる財産権の2 分の1 を含むと規定する。

 

すなわちデラウエアでは、選択的相続分を規律するのに連邦遺産税法を用い、選択的相続分に服する財産は、原則として、連邦遺産税のもとで被相続人の総遺産に含まれうるすべての財産であるとする。したがって、撤回可能信託、POD 契約、合有不動産権等による非検認譲渡が被相続人の死亡時に課税されるのであれば、それらは生存配偶者の選択的相続分権の対象となる。

 

連邦税当局は検認財産と非検認財産の区別にはあまり注意を払わず、むしろ経済的利益が被相続人から他の者に移転したかどうかに注目するものであることから、選択的相続分に関するデラウエアのこの方法は、生前譲渡によって遺産税を回避しようとする被相続人らの長年の経験から進化してきたものと言われている。

 

 

 

(c) UPC

 

UPC(1969)は、増加遺産(augmented estate)という概念を導入した(これはニューヨーク州法の影響を受けたものとされる)。増加遺産とは、検認財産、一定種類の非検認譲渡及び時期を問わず婚姻中になされた生前譲渡を加えたものを言い、生存配偶者は、増加遺産の3 分の1 につき選択的相続分権を有するとする(UPC§2-202(1969))。

 

UPC§2-202(1969)は、増加遺産に加えられる非検認譲渡について、①被相続人が当該財産の占有権又は当該財産からの収益権を保有するよう

な譲渡、②被相続人が自分自身の利益のために撤回し、又は元本に手を付け若しくは処分することのできるような譲渡、③配偶者以外の誰かとの合有財産権における譲渡、④1 年ごとの、受贈者ごとに3,000 ドルを超える死亡前2 年以内になされた譲渡(3,000 ドルは当時の年間控除のもとでの連邦贈与税からの最高控除額)、⑤信託における生涯財産権及び、生命保険金や年金のように被相続人の死亡時に配偶者が被相続人に由来するものとして取得する財産を含む生存配偶者に被相続人の生存中に与えられた財産を、挙げていた。

 

 

 

①から④の譲渡を検認財産に加えて増加遺産とした目的は、被相続人が、生存配偶者の相続分権をわざと損なうために検認財産以外の手段によって他人にその財産を譲渡するのを阻止することにあるとされていた。

 

また、⑤は、被相続人が配偶者に対して生前に与えた財産を増加遺産に含めるものであるが、これは、生前の譲渡又は非検認譲渡によって十分に財産を与えられている配偶者が被相続人の遺言に反して選択的相続分の選択をし、適正な相続分以上のものを請求するのを阻止することを目的とした133。UPC1969年版のこの増加遺産の考え方は、多くの州で採用され、被相続人が支配権を持ち続けるような婚姻中の譲渡を増加遺産に加えるという概念は、諸州法に影響を与えた。

 

 

 

その後、UPC は1990 年の改訂において選択的相続分と増加遺産概念を再設計し、その結果、共有財産制により近い結果をもたらすに至った。UPC(1990)の中心的な考え方は、選択的相続分は、両配偶者の全財産を加えそれを婚姻の長さに基づく割合に従って分割するというものであった。

 

これは、別産制の法域における配偶者を共有財産制の法域における配偶者と同様に扱うことを念頭に置くものであり、UPC(1990)は、増加遺産に婚姻後の譲渡と同様、婚姻前になされた多くの譲渡を加える。

 

すなわち、増加遺産の価額は、物的財産か人的財産か、動産か不動産か、有体財産か無体財産か、どこに所在するかを問わず、(1)被相続人の純検認財産、(2)被相続人が第三者になした非検認譲渡、(3)被相続人が生存配偶者になした非検認譲渡、(4)生存配偶者の財産及び生存配偶者の第三者への非検認譲渡から成る全財産の総額をいうとする(§2-203(a))。

 

 

 

このようなUPC(1990)は、内国歳入法典(IRC)と似た考え方に拠ると指摘されている(IRCは、被相続人が実質的な支配を保有していた被相続人の生存中の譲渡財産を、他者から被相続人に与えらえた一般的権利取得者指名権に服する財産と同様に、遺産税に服させる)134。UPC(1990)

は、UPC(1969)のような寡婦の相続分の保護というよりも、選択的相続分を婚姻のパートナーシップ理論に従って規律することをねらいとするが、あわせて補充的選択的相続分額(supplementalelective share)の形で生存配偶者の最低限の選択的相続分額(50,000 ドル(現在は75,000 ドル))

を規定することによって、扶養理論との調整を図っている(UPC§2-202(b))。

 

 

 

その後、2008 年の改訂で、選択的相続分は、婚姻財産の平等な分割を規定するに至った(UPC現§2-202(a)は、生存配偶者は、増加遺産中の婚姻財産部分の価額の50%に等しい選択相続分額を取得する選択権を有すると規定する)。

 

また、婚姻財産と考えられ、分割に服する増加遺産に含まれうると考えられる各配偶者の財産の割合は、婚姻の長さをもとに段階的に調整されている(UPC現§2-202(b)Alternative A)。それによると、たとえば婚姻期間1 年未満の場合3%、1 年以上2年未満6%、2 年以上3 年未満12%、以後1 年刻みで年ごとに6%ずつ増加し、婚姻期間11 年以上からは年8%ずつの増加となり、15 年以上は増加遺産の100%が婚姻財産とされる。

 

さらに補充的選択的相続分額は、UPC§1-109(2008)のインフレ調整ルールに従い50,000 ドルから75,000ドルに増額された。

 

 

 

このように、UPC で選択的相続分算定の基礎とされる増加遺産は、両配偶者の全財産を対象とし、婚姻中に取得された財産のみではない。その理由として、増加財産の算定にあたり何が婚姻中に夫婦の協力によって取得された財産で、何が特有財産かを区別することが難しいということをUPC の起草者らが認識していたことが上げられる。

 

ただし、これは、各配偶者が婚姻前から有しあるいは親からの相続によって取得した財産も、他方配偶者の選択的相続分の対象になることを意味することに注意が必要である。

 

 

ポリー

「夫婦の中でどれが個人だけの力で維持して増加させたものかって決めるのは法律では難しいと思います。」

 

 

 

(3) 選択的相続分の取得と放棄

 

選択的相続分額が決定されると、生存配偶者は、まず遺言又は遺言代用手段(信託や生命保険等)によって自らに与えられる財産を取得し、この財産の価額が選択的相続分額(上述(2)。現行法では75,000 ドル)を満たさない場合には、その差額が、他のすべての受益者又は残余財産から按分して支払われることになる(UPC§2-209(1990. rev.2008))。

 

 

選択的相続分権は、死亡配偶者の遺言にもかかわらず、法定の相続分を取得する選択権を生存配偶者に与えるものである。そこで、夫婦はあらかじめ、生存配偶者が選択的相続分権を放棄する旨を合意できるかという問題が生じる。

 

典型的な放棄は、婚姻前契約において見られる。すべての別産制州は、婚姻前契約による選択権の放棄を法律で認め、また婚姻中に合意された放棄(婚

姻後契約による放棄)もほぼすべての州法によって認められている135。

 

 

婚姻前契約の執行力については、統一婚姻前契約法典(Uniform Premarital Agreement Act(UPAA)(1983))に規定がある。UPAA によれば、執行に異議を申し立てる当事者は、合意が①任意でないこと又は、②作成時に非良心的でありかつ執行に異議を申し立てる当事者が他方当事者の財産及び財政について公平で相当な開示をされていなかったことのいずれかを証明しなければならない。

 

UPC§2-213(1990. rev.1993)は、UPAA のこの執行基準を採用し、それを婚姻前契約と婚姻後契約の両方に適用する。

 

 

 

7 共有財産制における生存配偶者の権利

 

共有財産制州のうちアイダホ(Idaho Statutes§32-906) 、ルイジアナ(Louisiana Civil Code §2338, 2341)、テキサス(Texas Family Code §§3.001, 3.002)では、特有財産から得られた収益も夫婦の共有財産とする。その他の共有財産制州では、特有財産からの収益はやはり特有財産となるとする。

 

共有財産制州では各配偶者は、死亡時に共有財産の2 分の1 を処分する権限を有する。生存配偶者は他の2 分の1 の持分を有している。被相続人に属していた2 分の1 共有持分権について、被相続人はその特有財産と同様に遺贈等をなすことができる。

 

 

共有制州では、寡婦の選択権(widow’s election)として知られるエステイトプランニングが発展してきた。これは、全共有財産を信託に遺贈して妻にその生存中利益を支払い、残りは妻が死亡すれば他の者に与えるというものである。これは、夫の遺言のもとで、妻に、共有財産の2 分の1 の持分を放棄するかどうか、その代わりに全共有財産についての信託の利益を取得することとするかどうかの選択を求めることを意味する。

 

 

 

妻が夫の信託による利益の享受を選択する場合には、彼女は夫婦の共有財産に関する自らの持分権を放棄しなければならない。寡婦の選択権の目的は、夫の死亡時に、全共有財産の信託を設定し、妻の生存中すべての収益を妻に支払うことにあるが、妻が夫の遺言に従って信託の収益を取得することを選択すると、あたかも妻はその2 分の1 の共有持分を信託に譲渡し、交換として夫の2 分の1 の共有持分における生涯財産権を取得したかのように扱われる。

 

もし、妻が夫のこのような遺言に反する選択をしたときは、妻は共有財産の2 分の1 の持分を取得するが、夫の遺言によって彼女に遺贈された共有財産に関する夫の2 分の1 の持分における生涯財産権を失う。なお、寡婦の選択権には、遺産税及び贈与税上の優遇措置があるとされる136。

 

 

ポリー

「寡婦の選択権、ですか。妻から子へと夫が指定しておくということですね。日本の後継ぎ遺贈型受益者連続信託に似ていますね。アメリカの方が先です。」

 

 

 

寡婦選択権に代わるものとして、夫婦の生存中に全共有財産を撤回可能信託(revocable trust)に移転し、収益を夫婦の共同生活及び一方配偶者の死亡後は生存配偶者の生活のために支払い、残余財産は子供や他の者に与えるという方法がある。

 

この撤回可能信託は、一方配偶者が死亡すると撤回不能になる。ただし、これは、寡婦選択権のように遺産税及び贈与税上の優遇の対象とならない。撤回可能信託は、約因(consideration)のための寡婦の財産の交換ではないことがその理由とされる。

 

 

 

8 婚姻前の遺言から除かれている配偶者

 

コモンローでは、婚姻前の遺言は、婚姻又は後に子孫が生まれた婚姻によって、撤回されたものと解された。今日このコモンローのルールによる州はごくわずかであり、多くの州法では、婚姻前の遺言から除かれている生存配偶者には配偶者無遺言相続分を与え、その他の点では婚姻前遺言を有効としておくという方法によって対処がなされている。

 

UPC もこれによっており、遺言者の配偶者が遺言者の遺言作成後に婚姻した者であるときは、遺言者があたかも無遺言で死亡した場合のように、遺言相続分を取得する権利を有すると規定する(UPC§2-301(1990. rev.1993))。

 

この規定の目的は、死亡配偶者が婚姻前に作成した遺言を新たにせずに死亡したというミスを救済することにある。したがって、これは任意規定であり、婚姻前の遺言において生存配偶者が除外されたままになっているのが遺言者のミスではないことを証明することにより、覆すことができる(UPC§2-301(a)(1)(2))。

 

 

 

2 遺言で財産を与えられなかった子の権利

 

1 親の子に対する相続権の剥奪

 

ルイジアナ以外の全州において、子又はその他の直系卑属は、親による意図的な相続権剥奪に対して法律上の保護を与えられていない遺言者は、子に対して何らかの財産を残す義務を負わない。ただし、裁判実務においては、子供を保護するためにいくつかの法理が適用される。子の相続権を剥奪する旨の遺言は、遺言無効の申立(will contest)を招くことになろうし、遺言無能力や不当威圧、詐欺が争われる余地がある。

 

 

 

 

一方、ルイジアナは、フランス法に由来するものとして子のための強制的相続分(forced share)を規定する(legitime と呼ばれる)。これは、23 歳以下の子、精神的無能力である子、又は障害のある子の相続権剥奪に対して保護を与えることを目的とする(Louisiana Civil Code§1493(2008))。1995 年の憲法修正条項以前は、強制的相続分はすべての子に拡大されていた。

 

なお、子のための強制的相続分は絶対的なものではなく、ルイジアナ民法典は「正当な事由」(justcause)による子の相続権の剥奪を認める規定を置く。

 

すなわち、(1)子が親を叩くために手を挙げたことがあり、または実際に叩いた場合(ただし、単なる脅かしでは不十分である)、(2)子が親

に対する虐待、犯罪又は重大な権利侵害により有罪となった場合、(3)子が親の生命を奪おうとした場合、(4)子が、合理的な理由なしに、無期懲役又は死刑に相当する罪で親を訴えた場合、(5)子が、親が遺言をするのを暴力等によって妨げた場合、(6)子が未成年の時に親の同意なしに婚姻

した場合、(7)子が無期懲役又は死刑の有罪判決を受けた場合、(8)子が成年に達し親との連絡方法を知った後に、正当な理由なしに2 年間親と連絡を取り合わなかった場合に、親は子の相続権を剥奪することができる(Louisiana Civil Code§1621(A)(2008))。

 

 

 

2 意図しない除外からの子の保護

 

意図しない直系卑属の相続権剥奪の場合に対処する法として、遺言からの相続人の脱漏(pretermission)に関する法がある。これは、ミズーリ型とマサチューセッツ型に分類される137。

 

ミズーリ型では、相続人脱漏規定は、遺言で「指名されず又は財産を与えられなかった」子に利益を与えるために用いられる。したがってそこでは、子又はその他の相続人の相続からの除外が意図的なものであったことが遺言自体から明らかにされなければならず、この意図に関し外部証拠は許されない。

 

マサチューセッツ型では、子は、「そのような除外が意図的でありミスによって生じたのではないということが明らかでない場合には」、相続権を取得する。そこでは、相続権剥奪の意図の存在不存在を示す上で外部証拠が許される。

 

 

UPC§2-302(1990. rev.1993)は、遺言者が遺言の作成後に出生し又は養子となった子のために財産を与えることをしていない場合について、当該遺言が作成された後に出生したか又は養子となった子も無遺言相続分又は他の子と等しい持分等を取得できる旨を定める。

 

同条は、遺言作成後に生まれ又は養子となった子のみを保護するものであるが、州によっては、遺言が作成されたときに生存している子どもについても、後で生まれた子どもと同様に遺産の持分取得を認める法律を置くところもある。

 

 

なお、遺言よりも非検認譲渡(特に撤回可能信託)が好まれる傾向に対応するものとして、カリフォルニアは、相続人脱漏法に、遺言だけでなく撤回可能信託を含む。すなわち、CaliforniaProbate Code§21601 は、「遺言文書」(testamentary instrument) は遺言又は撤回可能信託を含み、「遺産」には撤回可能信託で保有されている財産も含むと規定する(cf. California Probate Code§21620-21621)。

 

 

 

ポリー

「カリフォルニアでは、遺言という言葉には、信託も含んでいるんですね。遺言とみなす、ではなくて遺言そのものということですね。」

 

 

 

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