〒903-0114沖縄県中頭郡西原町字桃原85番地 TEL098-945-9268 受付時間平日9:00~17:00

司法書士宮城事務所 > お便り > お便り > 相続に関する法律 アメリカ⑧

相続に関する法律 アメリカ⑧
2015年12月25日

 

第4 部 アメリカ法

横浜国立大学 常岡史子

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より

平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会

法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

 

 

 

 

3 遺言

 

1 遺言意思

 

(1) 遺言の定義

 

UPC は、同法典で使用される用語に関する一般的定義規定を§1-201 に置く。遺言については、同条(57)項が、「遺言」は、単に遺言執行者を指定し、他の遺言を破棄又は修正し、後見人を指名し、又は無遺言相続によって移転する被相続人の財産の承継について一人若しくは複数の者の権利を明白に剥奪し若しくは制限する追加条項及び、いかなる遺言証書をも含むと規定する。

 

(2) 遺言能力

 

遺言をなす能力があるためには、遺言者は成人(多くの州及びUPC§2-501(1990)では18 歳)でなければならず、かつ「(1)自己の財産の性質と範囲、(2)自分が財産を与えようとしているまさにその相手、及び(3)当該財産についてしようとしている処分について、一般に認識しかつ理解する能力を有し、かつこれらの要素を相互に関係づけ、当該財産の処分に関する混乱のない願望を形成する能力を有していなければならない。」80と解されている。

 

多くの州法において、遺言能力は、契約を締結しあるいは撤回不能な生前贈与を履行する能力よりも低い精神能力でよいとされている81。契約と贈与の能力基準は、無能力の契約者や贈与者が生存中に経済的な損失を被り、困窮に陥る危険からこれらの者を守るために設定されている82。

 

それに対して、遺言者については経済的損失や困窮に対する配慮は後退し、遺言の自由と私的自治がより重視される。遺言能力の要件は、正常な能力を有する者が自分の望む処分をした場合、たとえ後に能力を喪失しその状態で別の遺言をしたとして、正常時になした遺言が実現されることを保証するものといえる。

 

 

すみれ

「ここから先の不当威圧、強迫、詐欺も怖いのでとばします。」

 

 

(3) 遺言に対する不当威圧、強迫、詐欺

 

(a) 不当威圧(undue influence)

 

不当威圧による遺言は無効である。遺言の一部が不当威圧によってなされたものであるときは、遺言のその部分は無効となり、この無効部分を除いた残余部分のみでも遺言者が遺言をなした意図を否定することなく遺言の趣旨が保たれる場合には、残余部分のみの遺言も有効となる。不当威圧によってなされた生前の譲渡も同様である。

 

リステイトメントは、「(a)贈与による譲渡は、不当威圧、強迫又は詐欺によってなされた限度において無効である。(b)贈与による譲渡は、不法行為者がそのような威圧を贈与者に行使し、その結果贈与者の自由な意思が威圧によって制圧され、贈与者がさもなければしなかったであろう贈与的譲渡を贈与者にさせたという場合に、不当威圧によってなされたものとなる。」83と規定する。

 

多数の法域において、不当威圧の事案は証明責任(説得責任:burden of persuasion)と絡むと指摘されている84。遺言の検認請求者は遺言の有効性を証明する責任を負うが、これは多くの場合適正な遺言作成であることを示すことによって容易になされる。

 

それに対して、検認に異議を申し立てる者(contestant)は、不当威圧の推定を生じさせる事実を証明することにより直接または間接に不当威圧を証明する責任を負う。不当威圧の推定を生じさせるためには、検認異議申立人が威圧者と遺言者の間の信頼関係の存在85と、一つ又は複数の追加的な疑わしい状況(この点については、威圧者が遺言をさせたことで十分とする法域もあれば、信頼関係にある者が遺産の大部分を取得すること、被相続人の知的能力が弱っていたことを求める法域もある)を証明しなければならない。不当威圧の推定が生じた場合には、立証責任が転換される。

 

なお、遺言に不検認異議条項(no-contest or in terrorem clause)が入れられる場合がある。これは、遺言の検認異議を申し立てた受益者は、当該遺言でその受益者のためになされた遺贈等を取得しないかわずかな印のみのものしか取得しないと規定する条項である。

 

これは、遺言に関する無用の訴訟や家族間の争いを防ぐものではあるが、同時に、遺言能力の欠如や不当威圧によってなされた遺言の有効性を争うことを逡巡させることにつながる86。多くの州は、検認異議についての蓋然性ある原因(probable cause)がない限り、不検認異議条項を有効と認める。蓋然性ある原因の基準は、UPC§2-517、§3-905 とリステイトメント87でも採用されている。

 

(b) 詐欺(fraud)

 

詐欺は、遺言者が誤った説明によって騙され、そのような誤った説明がなければしなかったであろう遺言をした場合に認められるとされる。誤った説明は、遺言者を騙す意図と、遺言による処分に影響を与える目的の両方をもってなされなければならないと解されている88。詐欺によってなされた遺言条項は無効(invalid)である。

 

当該遺言の残余部分は、詐欺が全遺言に影響を与え又は詐欺によって無効となる部分が残余部分と切り離すことのできない内容を持つものでなけれ

ば、有効である。

 

(c) 強迫(duress)

 

不当威圧が明らかに強制(coercive)となった場合には、強迫となる。リステイトメントは、「不法行為者が不法行為をすると脅かし又は不法行為をなし、それによって贈与者がさもなければしなかったであろう贈与的譲渡をするように強制した場合には、贈与的譲渡は強迫によってなされたものである。」89とする。強迫によって強いられた譲渡は無効(invalid)である。

 

(d) 相続の期待に対する不法な妨害

 

リステイトメントは、相続又は贈与に対する故意の妨害について、「詐欺、強迫又はその他の不法行為によって、他者がさもなければ受け取ったであろう第三者からの相続財産又は贈与を取得することを故意に妨げた者は、その相続財産又贈与の損失についてその者に対し責任を負う。」90と定める。

 

これは、相続や贈与に対する期待への故意の侵害を、訴訟の有効なcause として認めるものである。そこでは、賠償を請求する者が、当該侵害行為がそれ自体不法行為を含むこと(詐欺、強迫又は不当威圧であること)を証明しなければならないとされている91。

 

この訴訟は、遺言の検認や有効性を争うものではなく、不法な侵害に対して不法行為者に対し損害賠償を請求するものであるから、たとえば、遺言検認異議に関する諸州法の短期消滅時効には服さず、不法行為に関する消滅時効規定に従うことになる。また、この訴訟は遺言の検認異議の申立ではないので、不検認異議条項(no-contest clause)も該当しない。

 

相続や贈与の期待に対する不法な侵害を訴訟のcause として認めることについて、諸州は概ね肯定的であるが、たとえば、検認異議による救済を求めるのが適切である場合には、これを先に申し立てるべきことを述べる裁判例もある92。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

ポスト20151208