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相続に関する法律 イングランド⑥終
2015年12月20日

 

第3部 イングランド法

千葉大学 金子敬明

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より

平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会

法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

 

 

 

第8 章 相続法のメカニズム外での財産移転119

 

先述のように、イングランド及びウェールズでは、年間の死者数のおおよそ半分の事例についてしか、grant の付与はなされていない。しかしgrant は、被相続人が有していた銀行口座を払い戻したり、被相続人名義の土地の登記名義を移転させたりするには必要不可欠な書類であるはずである。

 

すみれ

「ふー。半分はgrantが付与されるように何かしら相続に関する手続きをふんでるんだ。あと半分の人は。」

 

 

もちろん、非常に遺産の規模が小さいときには、grant が必要でなくても不思議ではないが120、それだけでは、半分ほどの事例でgrant が必要とされないという事態は説明されないであろう。

 

 

すみれ

「たしかに。それ」

 

 

では、grant なしでどのように被相続人の財産が移転されているのであろうか121。これは、以下の1のような、相続法のルールの中で、grant なしでの処理を例外的に認めるということもあるが、2~4(特に3)のように、相続法の外のメカニズムで処理されている部分が非常に大きい。

 

また4は日本法の死因贈与とは根本的な発想が異なっており、実際上そこまで大きな意義を持つものではないが、相続法の外のメカニズムの1 つとして、便宜上ここで説明しておきたい。

 

 

すみれ

「相続法の外のメカニズムか。なんだろ。」

 

 

1 少額の金融資産

 

The Administration of Estates (Small Payments) Act 1965 は、共済組合等の一定の金融機関であって、被相続人が5000 ポンド以下の額を保有している場合について、その払い戻しにつきgrant の提示を要求せずに、遺言または無遺言相続ルールに基づく相続受益者に対して払い戻すことができる、と定めている。

 

但し、これは金融機関側の義務でなく権限にすぎず、金融機関側は本来の原則通りにgrant の提示を要求することもできる。

 

同法律は、通常の銀行などには適用がないが、実際には銀行なども、裁量的に、grant の提示なしに払い戻しをしている。場合によっては、2 万ポンドもの額をそのようにして払い戻すこともあるという122。

 

 

すみれ

「一人でできると楽だね。銀行の懐も深いのかな。」

 

 

2 受取人指定(nomination)

 

1と同一の法律に基づいて、一定の金融機関においては、口座名義人死亡時の受取人指定(nomination)をすることができる。この受取人指定は、後の婚姻、後に別途なされた受取人指定、被指定者の先死亡、によって撤回されるが、後の遺言によっても撤回されない。

 

また、これとは別に、生命保険の保険金について契約者兼被保険者たる被相続人が生前に、その保険の約款に基づき保険金受取人を指定し、あるいは信託を設定しておけば、その受益者として指定された者が、相続のメカニズムの外で当該保険金を受け取ることができる。

 

死亡年金の場合にも、同様にその定めによって、一定の範囲内で被相続人が受取人を選定することができる場合がある。もっとも、死亡年金の場合には、より一般的には、年金の受託者に受取人を定める完全な裁量権があり、ただ被相続人は当該受託者に対して手紙で希望を伝えて、受託者の裁量権行使を誘導する、ということがおこなわれている。

 

 

すみれ

「受取人を指定しておくことができるんだ。手紙もあるんだ。」

 

3 joint tenancy

 

既に何度か出てきたように、銀行口座、株式、土地などについて、joint tenancy の形態で保有することができ、その場合、名義の移転のためには、被相続人の死亡証明書があれば足りる。

もっとも、joint 形式での銀行口座の保有については、特に何もなければ生残者からの全額の引出し請求が認められるはずであるが、銀行はその請求を拒否することができることに取引条件上定められているのが通常である。

 

例えば、被相続人が、単独で保有していた財産を生前に売却し、その代金をたまたま誰か共同で保有しているjoint account に入金したところ、その直後に被相続人が死亡した、というような事例では、当該被相続人の人格代表者による、遺産のために払戻しを請求するつもりなので残高の払戻しをしないでほしい、との銀行へのリクエストが正当なものである場合もありうる。

 

 

すみれ

「皆で持っていて、一人が亡くなると自動的に他の人のところへいくんだね。」

 

4 死因贈与(donatio mortis causa)

 

死因贈与が有効であるための要件は、贈与者によって当該贈与が自らの死を条件とするものであることが意図されていること、贈与者によって死を勘案しておこなわれたものであること、死亡の前に贈与者が対象物の「支配dominion」を手放したこと(指輪それ自体を渡したり、対象物の入っている金庫のカギを渡すなど)であり、日本法の死因贈与とはだいぶ異なる。

 

死因贈与は、死亡時までは撤回可能であるが、撤回なしに死亡すると、死亡時点で贈与は完全に効力を有する。もっとも、受贈者への移転手続が別途必要となる場合があり、そのときには、人格代表者が対象物を受贈者のための信託として保有することになる。

 

すみれ

「形見、のようなものかな。」

 

 

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「それでもまだ自由なものがあるとすれば、おのれ自身の衰退を予見し、それに先んじて備える能力がそれである。自由とは自分の外に条理の秩序を制定すること、条理を書かれたものに託すこと、制度に助力を求めることである。」

困難な自由 著 エマニュエル・レヴィナス 訳 内田樹 より

 

 

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