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相続に関する法律 イングランド⑤
2015年12月20日

 

第3部 イングランド法

千葉大学 金子敬明

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より

平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会

法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

 

すみれ

「遺言に関しては流します。」

 

第4 章 遺言法

 

1 遺言の作成

 

1 方式要件

 

遺言については、方式強制がある(WA1837, s.9)。同条の最新の実質的改正は1982 年法Administration of Justice Act 1982. 以下、同法律を「1982 年法」と呼ぶ)によるものであり、それによると、1982 年1 月1 日以降に死亡した被相続人については、方式面での遺言の有効要件として、以下の5 つが要求される18。

 

(1) 書面であること。書面の材質や、用いた筆記用具の種類に特に制約はなく、また手書きでもタイプしたものでもかまわない。市販の遺言キットの空欄を埋めただけでもかまわない。

 

(2) 遺言者の署名。フルネームを自ら書くのでも、意図的にそれに代わるものとして書かれたマーク(イニシャル、ゴム印、×印、拇印など。非識字者や、肉体的理由で筆記できない者が遺言をする際に有用)でもよい。また、遺言者の面前もしくは遺言者の指示に基づいて、第三者(後述の証人であってもなくてもよい)が署名する(遺言者の名前を書いても、当該第三者の名前を書いてもよい)ことでも足りる。

 

かつては、遺言者の署名は遺言書の末尾になされている必要があるとされていたが、1982 年法により、その制約は廃された。

 

(3) (2)の署名により遺言者がその遺言に効力を与えることを意図したと見受けられること。

その意図が遺言書自体からうかがえることは必要ない。

 

(4) (2)の署名を遺言者自らが筆記する行為、または既に署名されたものを遺言者が認める(acknowledge)明示ないし黙示の行為、が2 人以上の証人の面前においてなされること。証人らは、遺言者が署名筆記行為または認める行為をおこなっているまさにその場に、同時に存在している必要がある。

 

(5) 証人が、遺言者の面前で、署名するか認める(acknowledge)こと。2 人以上の証人が署名する行為または認める行為を同時におこなう必要はない。

 

以上のほか、規定は特にないものの、「われわれ証人らの面前で上記X(遺言者)により署名され、またXの面前でわれわれにより署名される」等の文面(attestation clause と呼ばれる)を付すのが通常であり19、またそうすることが強く推奨される。

 

attestation clause が付されていない場合には、第5 章2で後述するgrant の申請手続の際に、遺言書が適式に完成された(dulyexecuted)旨が、宣誓供述書(affidavit)によって証明される必要がある。

 

なお、当該遺言から利益を得る者およびその配偶者が証人であった場合には、51(1)でも後述するように、その遺言に基づく受益は許されないが、そのような者がattest したことまで無効になるわけではない。

 

さらに、当該遺言から利益を得る者Aだけでなく、利益を得ない者2 人以上(BCとする)も証人となっていれば、当該2 人以上の者(BC)が証人となったことを以て、遺言は適式に完成されたもの(duly executed)となり、よって、Aは証人でない資格において遺言利益を受けることができる20。

 

関連して、ソリシタについては、倫理規範(Solicitor’s code of conduct)により、自らが準備した遺言から利益を得ることは、予め独立の助言を顧客(遺言者)が得ている場合を除き、辞退しなければならないとされている。

 

2 方式要件に関する実態21

 

grant の申請時に遺言書が添付されたにもかかわらず、方式の不遵守ゆえに、grant の申請手続においてその遺言書の検認が拒絶される事例は、比較的少ない。もっとも、第1 章でも述べたように、遺言書の方式面での欠陥が明らかである場合には、遺言書を添付せずにgrant を申請するケースが相当数あるといわれており、ゆえに厳密な統計を取ることは困難である22。

 

1980 年のLaw Reform Committee の報告書23では、遺言の方式要件につき法改正が検討された。

まず、裁判所が、遺言者の真正な意図に出たものであると認めれば方式面での不遵守を無視する権限を持つ、とする案が検討されたが、そのようなことをすると、“home-made”の遺言が作成されるような比較的少額の遺産について訴訟が生じ、費用と時間がかかることになる、という理由で採用されなかった。

 

また、方式要件が「実質的に遵守されている(substantially complied)」場合には検認を認める、という案も検討された。これは、同様の制度がオーストラリアのQueensland 州で直前に採用されており、それを受けて検討されたものだが、同州での運用実態の調査の結果、ほぼ完璧に方式が満たされていないと救われないということが判明し、Committeeに賛同者がいなくなった。

 

かくして、方式要件について、ややマイナーな2 点のみについて、Law Reform Committee から改正の提案がされ、それらが、若干の修正はあったものの、1982 年法で採用されたのである。

 

3 遺言者のmental capacity に関する要件24

 

(1) 18 歳未満の者は、兵役中の兵士は別として、有効な遺言を作成することができない(WA1837,s.7)。

 

(2) 遺言書において表明する意思が、死亡時になって初めて効力が発生するものであることを意図していること(animus testandi と呼ばれる)が必要とされる。

 

(3) さらに、遺言者が、自分のしている行為の性質をよく理解していること(testamentarycapacity があること)が必要とされる25。具体的には、(a) 自分が表明し死亡時に発生するべき効果の理解(正確な法的効果の理解までは要しない)、(b) 遺言で処分しようとする財産の範囲の理解(詳細な財産リストを思い描いていることまでは要しない)、(c) その遺言によって遺産から排されることになる者(近親者など)を想起した上で、それらの者を遺言でもって排する意思を意図的に形成すること、の3 点が必要だとされる。

 

 

 

これら3 点の理解は、原則として、遺言書の完成時において必要とされるが、例外的に、遺言者の指示(instruction)どおりに遺言が作成されたこと、かつ、遺言者が遺言書の完成時において、自分がかつて指示した遺言が作成されているのであることを理解していたこと、の2 要件が充足されていれば、上記3 点の理解は、その指示時において満たされていれば足りる(判例)。

 

(4) また、強迫(undue influence)、詐欺(fraud)、偽造(forgery)がないことも必要である。

 

(5) 遺言者の認識及び承認(knowledge and approval)があることも必要とされる。認識及び承認が欠けていることが異論なく認められるのは、純粋にmistake があった場合である。

 

具体例としては、(a) 自分及び同居の妹のために、各1 通遺言書を作成したところ、あやまって妹のための遺言書の方に署名してしまった場合26、(b) あやまって別の単語を書いてしまった場合27、(c)遺言キットの印刷された文章からあやまって撤回条項(revocation clause)を消しそこねた場合

28、(d) 遺言起草者(draftsman)が遺言者の指示に反して書き間違いや書き落としをしてしまい遺言者もそれに気づかなかった場合、などがある。

 

(a)の場合には遺言全体の無効という効果が、また(b)~(d)では正しい記載に加除訂正された遺言書の写しをgrant に添付する29という効果が、それぞれ認められた。以上に対して、遺言書で使われた語自体ではなく、その語のもつ法的効果についてのmistakeがあったにすぎない場合には、記載された文言通りの効果に遺言者は拘束される。

 

なお、遺言者の置かれていた状況から見て本気でそのような遺言をしたとは考えられないような、内容的に疑わしい(suspicious)遺言があり、その有効性が争われる場合には、争う側の訴答(pleading)の方法として、(3)のtestamentary capacity の欠如、(5)のknowledge and approval

の欠如、(4)のundue influence ないしfraud、が考えられるところ、実際には(4)のundue influenceないしfraud の問題があると思われる事例でも、(5)のknowledge and approval の欠如が主張されることが多い。

 

このような現象が生じるのは、undue influence ないしfraud を主張して敗訴した場合、両当事者の訴訟費用の負担が敗訴者の方に命じられるのが常態となっており、他方でknowledge and approval の欠如の主張で争えば、敗訴しても訴訟費用は遺産の負担とされることを相当程度期待できるためである。

 

しかし、knowledge and approval の欠如という訴答が本来あまり適していない事例でもその訴答形式が選択されてしまうと、無効とされるのはよほどひどい事例だけになってしまう、という問題がある30。

 

2 遺言の撤回・改変・復活・確認31

 

1 撤回(revocation)

 

撤回の生じる原因としては、婚姻、破棄、別の遺言の作成、撤回の意図を宣する適式に作成された文言、がある。

 

(1) 婚姻(無効な婚姻は除く)によって、その当事者が婚姻以前に作成した遺言は自動的に撤回される。但し、特定の者との婚姻を想定して作成された遺言であること(その旨が遺言中で明示されている必要はない)、かつ、婚姻にもかかわらず、当該遺言ないし当該遺言で規定されていた遺言処分が撤回されるべきでないことを遺言者が意図していたこと、の2 点が当該遺言からうかがえる場合には、その者との婚姻にもかかわらず、当該遺言ないし遺言処分は撤回されない(WA1837, s.18(3)(4))。また、婚姻ではないことがら(子が生まれるなど)によっては、撤回の効果は生じない(WA1837, s.19)。

 

(2) 遺言を撤回する意図をもって、遺言者が破棄行為をおこなうか、第三者が遺言者の面前でないし遺言者の指示により破棄行為をおこなうこと(WA1837, s.20)。

 

(3) 後に適式に完成された、遺言ないし補充遺言(codicil)(WA1837, s.20)。大抵の遺言には、「これ以前に私が作成した全ての遺言、補充遺言ないし遺言処分はすべて撤回する」旨の条項(revocation clause という)が付されている。これに対し、遺言書が「これは私の最後の遺言である・・・」という文言で始まることが少なくないが、この文言は撤回の効果をもたないものとされている。また、後行遺言の内容と抵触する先行遺言は、抵触の限度で黙示に撤回されたものと扱われる。

 

(4) 撤回の意図を宣する適式に完成された文言(WA1837, s.20)。例えば、遺言を保管している銀行の支店長に宛てた「既に作成した遺言を破棄して下さい」という文面の手紙で、遺言者が署名し2 人の証人がattest したものは、これに該当する(判例)。

 

なお、撤回は無条件のこともあり、そのときは即時に撤回の効果が生じるが、条件が付されることもある。特に、別の遺言ないし補充遺言の有効性が、撤回の効果発生の条件となっていることが多い。その旨が別段明示されていなくても、撤回(上記(1)~(4)のどの態様のものであっても起こりうる)が条件付きのものであると判断されることもあるが、これは解釈(construction)の問題である。

 

2 改変(alteration)

 

遺言書に加えられた改変は、遺言書の方式要件に準じて適式に(2 人以上の証人の面前で遺言者が署名し、証人が各自、遺言者の面前で署名)、なされる必要がある(WA1837, s.21)。改変により、もともとあった文言が目に見えなくなった(not apparent:同色のインクを上から塗る、白紙を糊で貼り付ける、等)ときには、それが撤回の意思を伴っている限り、当該文言は撤回されたものと扱われる。

 

但し、完成前に加えられた改変であることが証明できれば、以上のルールは妥当せず、遺言者が遺言の完成(execution)の際にその改変が遺言を構成する部分であることを意図していれば、当該改変が遺言書の方式要件に準じておこなわれなくても、当該改変は有効である。もっとも、実際には、改変の時点を証明するのは厄介であるから、完成前の改変であったとしても、遺言書の形式要件に準じて適式におこなうことが望ましい。

 

3 復活(revival)

 

一度撤回された遺言は、2 つのやり方によってのみ復活されうる(もっとも、物理的に破棄された場合には、もちろん復活させることはできない)。1 つは、当該遺言書をもう一度適式に完成させることであり、もう1 つは、復活させる意図を示した付属遺言(codicil)を適式に完成させることである(WA1837, s.22)。後の遺言Qの作成によって前の遺言Pが撤回される効果が生じたときに、その後遺言Qを撤回しても、遺言Pは復活しない。

 

復活の効果が生じると、復活時に遺言を作成したものとみなされる(WA1837, s.34)。

 

4 確認(confirmation)

 

復活と異なって、まだ撤回されていない遺言について、改めてその有効性を遺言者が承認することを確認(confirmation)という。確認は、当該遺言を適式に再完成させるか、当該遺言に言及する付属遺言を適式に完成させるか、のいずれかの方式でおこなう必要がある。

 

確認すると、確認の時点で当該遺言を作成したものとみなされる(WA1837, s.34)。したがって、遺言書の完成後に加えた改変は、さらにその後に確認がされたことが証明されれば、遺言確認前の改変として扱われることになる。

 

3 遺言の解釈32

 

1 遺言解釈の原則

 

遺言解釈の原則としては、大まかに言って、文言を通常の意味(ordinary meaning)において解釈する方向(literal approach)と、遺言者の意図を重視して解釈する方向(intentionalapproach)とに分けられる。19 世紀前半には、概して、前者が法律家のあいだで好まれていた。

1943 年の貴族院判決33では、控訴院の取ったliteral approach が相対多数の判事により覆されたが、その後も、literal approach を取る判決は絶えなかった。

 

1982 年法の21 条は、Law Reform Committee の提案に基づき、意義を確定しがたい遺言条項の解釈の際に参照できる外部証拠(extrinsic evidence:遺言以外の証拠)について、規定を設けた。

 

それによると、遺言者によって通常、特定の単語・語句がどのように用いられていたかについての証拠を参照してもなお、当該単語・語句が無意味であったり多義的であったりする場合には、遺言者がどのように考えていたかについての証拠(遺言者が生前に話していた内容など)の参照が認められるとされ、かくして明確にintentional approach が採用された。

 

2 特定語句の解釈

 

WA1837, ss.24-33 や、その他の立法において、特定の語句の解釈について規定が設けられていることがある。例えば、遺言にchild と書いてあり別段の意思が表明されていない場合に、養子に取った子がそれに含まれるか、を定める規定(Adoption and Children Act 2002, s.69(1))である。詳細は省略する34。

 

4 遺贈35の種類

 

日本でいうところの遺贈は、legacy とかbequest という。もともと、前者は人的財産(personalpeoperty. 大まかに言って動産)の遺贈、後者は物的財産(real property. 大まかに言って不動産権)の遺贈をさす言葉である。両者をまとめて単にgift と呼ぶこともある。以下では、両者の区別には特にこだわらず、まとめて単に「遺贈」と呼ぶ(但し、bequest については、その性質からして、以下で述べるdemonstrative なものではありえない)。

 

遺贈は、specific、general、demonstrative の3 種類に分けられる。specific は、遺産の他の部分と分離することが可能な物を対象物とする。general は、一定額の金銭の遺贈が典型である(但し、「私の机の引き出しに入っているお金全部を誰々に」というときはspecific になる)。

 

残余財産を目的とする(residuary)遺贈は、general の一種である。demonstrative は、基本的にはgeneral なのだが、その遺贈がまかなわれるべき財源(fund)が遺言者の遺産全部ではなくてその特定部分に限定されているものをいう(例えば、「○○銀行の口座にある私の預金から1 万ポンドを誰々に」という場合)。

 

この3 分類は、次のような点において意味をもつ。

 

(1) ademption(51(4)も参照)

 

死亡時において遺贈の対象物が遺産に含まれていないときに、specific であればその遺贈は失効するのに対し36、general ないしdemonstrative であれば失効しない(demonstrative で、しかし指定された財源(fund)が遺言者の死亡時に存在しなかった場合には、general として扱われる)。

 

(2) abatement(51(5)および第6 章22(2)(c)も参照)

 

遺産からは、人格代表者が遺贈を実現する(=受遺者への分配をおこなう)前に、費用や相続債務を支払うべきところ、費用や相続債務を支払う財源としては、specific の対象物やdemonstrative の財源(fund)よりも先に、general の財源が用いられるべきである。但し、この順序は遺言によって変更が可能である。

 

(3) 収益・利息

 

specific であれば、遺言者の死亡時から当該対象物について生じた収益も受遺者に与えられるべきである。これに対して、general ないしemonstrative の場合には、それが支払われるべき時点(通常は遺言者の死亡後1 年の経過時)から利息(現在は年0.3%だが、別段の定めがあればそれによる)を付して支払うべきである。

 

(4) 費用

 

specific の場合には、遺言者死亡時から、現実に受遺者に移転されるまでのあいだに、目的物の保存のためにかかった費用は、受遺者が負担すべきものとなる。これに対して、general やdemonstrative の場合には、費用は遺産が負担すべきものとなる。但し、これも遺言によって変更が可能である。

 

5 遺言利益の失効(failure of gift by will)37

 

1 失効事由

 

失効事由のうち、いくつかは既に出てきたが、それらも含めて紹介し直すことにする。なお、第2 章4で述べたように、(7)および(8)については、無遺言相続の場合に遺産から受ける利益についても妥当する。

 

(1) 遺言の証人

 

その遺言で利益を受ける者かその配偶者が、当該遺言の証人となっている場合には、当該利益を受けることができない。もっとも、遺言の完成時において受益者の配偶者でなかった者が証人となった場合には、その後に当該証人が当該受益者の配偶者になったとしても、このルールの適用を受けない。

 

(2) 先死亡(lapse)

 

遺言者よりも先に死亡した者は当該遺言者の遺言の利益を受けることができない。先死亡の場合に備えて補充的な遺贈をしておくことは可能である。

 

また、実際には「私の子どもたち全員(allmy children)に、同一の割合で(in equal shares)」というような遺贈がされることも多く(class

gift と呼ばれる)、この場合には、1 人が先死亡しても、遺言者死亡時に受益者として指定されたclass に具体的に属する者が誰か1 人でも残っていれば、この遺贈は失効しない。

 

なお、死亡時点の先後が不明な場合に備えて、推定規定が設けられている(Law of Property Act 1925, s.184)。

先死亡者への遺贈は失効するというルールに対する大きな例外として、第一に、遺言で、遺言者の子ないし卑属のうち特定の者を受遺者とする遺贈が定められていたところ、当該受益者は遺言別段の定めがない限り、当該受遺者の卑属(該当卑属が複数いる場合には株分け)への遺贈として効力を有する38(WA1837, s.33(1))。

 

また、この規定は、上記のclass gift の場合においても、先死していなければ利益を受けられたはずの子が先死亡していた場合に、当該先死子に卑属がいればその卑属が当該先死子に代わって遺贈を受ける、という形で適用される。

 

また第二に、moralbligation を果たす趣旨で遺贈がされたと認められる場合(例えば、被相続人が債務を負っていた相手に対する遺贈で、その債務自体は消滅時効にかかっていたとき)には、その遺贈は、当該受遺者が先死亡していた場合にも失効せず、むしろ当該受遺者の遺産へと移転される。

 

(3) 遺言者のしていた婚姻が遺言完成後に解消(離婚もしくは婚姻取消し)したこと

 

法改正のため、遺言者の死亡時点によって適用されるルールに違いがあるが、最新のルール(WA1837, s.18A. 1996 年1 月1 日以降に死亡した遺言者に適用される)によると、第一に、元配偶者を遺言執行者や受託者として指定する条項については、当該元配偶者はその婚姻解消の日に死亡したものとみなされる(その結果、そのような条項の撤回という効果が生じる)。

 

また第二に、元配偶者を受遺者とする遺贈に関しては、別段の定めがある場合を除いて、当該元配偶者はその婚姻解消の日に死亡したものとみなされる。

 

(4) ademption(4(1)も参照)

 

一般論としては、目的物の実質が変わればademption が起こるが、形式的な変化にすぎない場合にはademption は起こらない、と言われるが、その区別は時として困難である。(a) 遺贈の目的物たる株式を発行した会社が、遺言完成後に買収された場合、(b) 遺言者が遺言を完成させた後に精神的能力を失い、後見人(deputy)が事情を知らないまま、specific gift の対象財産となっていた物を売却した場合、(c) 遺言者が遺言完成後に、specific gift の対象財産となっていた物について、第三者に購入オプションを付与し、遺言者死亡後に当該第三者が同オプションを行使した場合、などにおいて、ademption が生じるかどうか、議論は分かれる39。

 

(5) abatement(4(2)も参照)

 

これは、遺産に関する費用や債務を払うにあたり、積極財産のどこから使っていくべきか(言い換えれば、どの遺贈から順にいわば「割を食う」ことになるのか)に関するもので、詳細は第6 章22(2)(c)で扱う。遺贈に関しては、general の対象財産が先に用いられ、specific の対象財産はその後になるのが原則である(遺言でこの順序を変更することも可能)。demonstrative な遺贈は中間的な扱いを受け、すなわち、指定されたところの財源fund)からの履行ができる限度においてspecific と同じ扱いを受け、指定されたところの財源(fund)からの履行ができない限度においてgeneral と同じ扱いを受ける。general とspecific それぞれのカテゴリー(上述のようにしてdemonstrative な遺贈について同じ扱いをする限度を含む)の中で複数の遺贈が該当する場合には、按分比例によって各遺贈は縮減(abatement)する。

 

(6) uncertainty

 

目的物(subject)がどれであるか、受遺者(object)が誰であるか、が遺言の解釈を尽くしても確定できない場合には、その遺贈は失効する。但し、もっぱら慈善目的(exclusively charitable)の遺贈については、その名宛人が不確定であってもそれを理由に遺贈が失効することはない。

 

(7) 被相続人を謀殺(murder)ないし故殺(manslaughter)したこと

 

被相続人を謀殺(murder)ないし故殺(manslaughter)した者は、無遺言相続のルールに基づく利益だけでなく(第2 章4参照)、遺言利益も享受できない(forfeiture rule. なお、第2 章4でみた裁判所の権限についても同じ)。

 

このとき、当該遺言利益の受益者とされていた者(=殺人者)は、被相続人の直前に死亡したとみなされる(WA1837, s.33A. この結果、例えば遺言において、当該受益者が先死した場合には誰々が当該利益を受益する、という補充的な定めがあった場合には、遺言に反対の意思が表明されていない限り、実際には先死しなかったにもかかわらずその定めがあてはまることになる、という効果が生じる)。

 

(8) 放棄(disclaimer)

 

遺言利益の放棄は、被相続人の死亡後であればいつでも可能である(無遺言相続利益の放棄につき、第2 章4も参照)。この場合も、(7)と同様の効果が生じる(WA1837, s.33A)。但し、確実に遺贈を承認した後での放棄、同一の遺言で2 つ以上のgift が定められておりそのうちの一方のみを受諾して一方のみを放棄することができないと解される場合における一方のみの放棄、複数の財産が1 つの条項で遺贈されているときの一部の財産の遺贈のみの承認、は認められない。

 

2 遺言利益の失効の効果

 

通常は、失効した利益(1(5)による失効の場合を除く)は、残余財産遺贈の定めがあれば、その対象財産に組み込まれるのが原則であり(遺言で反対の意思が表示されていれば、それに従う)、また残余財産遺贈の定めがないときには、部分的無遺言が生じることになるので、当該失効利益は無遺言相続ルールにしたがった分配の対象となる。

 

また、残余財産遺贈が失効したときにも、部分的無遺言が生じることになり、その失効分が無遺言相続ルールにしたがった分配の対象となる。

 

6 遺言執行者の指名

 

遺言執行者の候補としては、大きく分けて、親類や友人といった個人(受遺者であっても何ら差し支えない)、ソリシタ等の専門家、信託法人(Trust Corporation. 銀行の信託部門など)、の3 つが考えられ、個人的事情を知っているかどうか、報酬の要否やその額、先死亡の可能性、等々

の点でそれぞれにメリット・デメリットがある。

 

人数は、個々の遺産について4 名40を超えることができない。1 名であっても差し支えないが指名された者が先死亡したり、病気等で辞退したりする可能性も考えて、複数選んでおく(あるいは補充的な定めを置いておく)ことが便宜である。

 

また、遺言執行者としての任務終了後に、

そのまま残余遺産を信託受託者として保有し続けることを予定している場合には、信託財産に含まれる土地を処分したときにはその売却代金を1 人の受託者が単独で受領することができない(信託法人である場合を除く)こととの関係で、2 名以上を遺言執行者兼受託者にするという事態を想定するのが便宜である。

 

7 改正の動き

 

The Law Commission の第12 期法改正プログラムでは、遺言法の改正プロジェクトを2015 年初頭からスタートする旨がアナウンスされている41。その中では、WA1837 が時代遅れになっている、またmental capacity については、人々の寿命が長くなるにつれてこれが大きな問題となっている、との認識が示されており、そこで、遺言能力、方式要件、加除訂正の方法、共同遺言42の4つを主たる検討領域として改正の検討をおこなう予定であるとされている。

 

改正の目標は、人々が遺言を作りやすくするようにすること、また死後に遺言の有効性が争われる可能性を減らすことにある。

 

 

第5 章 人格代表者の選任手続

 

イングランドでは、grant の付与に関する管轄は、もっぱら高等法院(High Court of Justice)の家族部(Family Division)にある。具体的には、ロンドンにある家族部の主務登録所(PrincipalRegistry)か、全国各地にある地方登録所(District Probate Registry. 支所(sub-Registry)もある)に、申請をおこなう43。

 

土地管轄はなく、どの登録所に申請をするかは申請者が自由に選択できる。但し、21 で後述するprobate claims がおこなわれている場合には、主務登録所への申請のみが可能である。

 

1 事前作業

 

grant を申請する際には、前もっていくつかのことが済まされている必要がある。

 

1 死亡の届出(registration of death)

 

厳密には、死亡証明書(death certificate)は、grant の申請時に要求される書類ではないが、現実的にはそれを得ておくことが必要であり、その死亡証明書を得る前提として、もちろん死亡の届出がなされなければならない。死亡の届出義務が誰にあるかは、制定法で定められている(Births and Deaths Registration Act 1953, ss.16 and 17)。

 

2 遺言書の発見

 

grant の申請の際には、もしあれば遺言書を提出する必要があり、そのために、必要に応じて遺言書を探す作業をおこなう必要がある。

 

3 個々の積極財産(assets)・個々の消極財産(liabilities)の調査

 

例えば金融資産については、金融機関に死亡の事実を知らせて、死亡時におけるその資産の詳細や額を教えてもらう必要がある。また、被相続人に対する債権者らがいる場合には、彼らにも死亡の事実を知らせ、死亡時における債務の詳細や未払い額、利率などを教えてもらい、必要があれば、本当にそのような債務を負っていたのかをチェックすべきである。

 

この作業は、次の4 で扱う相続税の申告のためにも必要であるが44、同所で見るように、相続税の申告がないとgrant が付与されないという仕組みになっているため、相続税の申告前における調査は、grant がない状態での、後に修正がされることを半ば予定されたものとならざるをえない。

 

4 相続税(inheritance tax)の申告と税額の支払い

 

人格代表者は、被相続人が死亡した月の末日から12 ヶ月以内、又は人格代表者が活動を開始した日から3 ヶ月以内、のいずれか遅い方の時期までに、所定の書式(Form IHT400 およびそれに付随する諸書類)によってInheritance Tax Account を税務当局に提出する必要があり45、相続税額が発生する場合には、分割払いが認められる場合を除いて、同時に全額が支払われるべきである。

 

但し例外的に、遺産が一定の条件を満たす場合(そのような遺産は“excepted estate”と呼ばれる。大ざっぱに言えば小規模の遺産の場合)には、上記Inheritance Tax Account の提出は不要とされるが、この場合でも、人格代表者の選任を登録所に申請する際に、そのための必要書類とあわせて、被相続人の氏名、職業、家族関係、財産の詳細と評価額等の情報を記した、Returnof estate information という書類(Form IHT205)を、提出する必要がある46。

 

Inheritance Tax Accout を提出する際には、被相続人が死亡直前において有していた財産、死亡から7 年以内にした生前贈与、死亡時におけるそれらの市場価格等々を記入しなければならない。正確な評価額を直ちに出すことが難しいときには、見込額であることを明記したうえで提出することができる(IHTA1984, s.218(3A))。評価額に誤りがあることが判明したり、財産が新たに見つかったりした場合には、後で修正する47。

 

Inheritance Tax Account は税務当局に送付する。相続税額が生じる場合には、額が通知されるので、小切手を送付したりして支払う48。

 

税務当局は、書類に問題がなく、税額が発生する場合にはそれが税務当局宛に支払われれば、努力目標として7 日以内に、Inheritance Tax Account

の書類一式に含まれるProbate Sumary(Schedule IHT421)にスタンプを押して返送する49。登録所は、スタンプ済みのProbate Summary(Schedule IHT421)を見れば、相続税関係の手続が済んでいることを確認できる50。

 

人格代表者は、被相続人(連合王国内にドミサイルがある者を想定する)の相続税を、人格代表者自身の固有財産から支払う義務を負う51(IHTA1984, s.200)。但し、人格代表者が個人責任を負う額は、かれが人格代表者として遺産を現実に受け取り(receive)、あるいは懈怠がなかっ

たならば受け取れたはずの額、を上限とする(IHTA1984, s.204)。

 

5 grant なしになすことのできる行為

 

人格代表者として選任されたわけではない者が、人格代表者としての行為をおこなった場合(遺言執行者として指名された者がgrant の前に遺言執行者としてふるまった場合は除く)に、その者には表見人格代表者(executor de son tort)としての責任が負わされることがある。

 

しかしこの場合には、遺産への介入行為(intermeddling)がなされることが必要とされており、典型的には、個々の遺産を持ち去ったり処分したりすること、あるいは、被相続人に債務を負っていた者に対して弁済を求めることなどが、介入行為に該当する。

 

これに対して、事務管理行為(acts of humanity and necessity)については、表見人格代表者としての責任を発生させる「介入行為」には該当しないとされている52。例えば、被相続人の動産を一時的に保管する、緊急の修繕をする、被相続人の家畜に餌をやったり子に食料を与えたりする、葬儀を手配し費用を支払う、などが、これにあたる。

 

さらに、遺言で遺言執行者として指名されている者であれば、この範囲を超えて、人格代表者としてなすべきことをおこなうこともできる。これは、遺産管理人と異なって遺言執行者は、裁判所で選任を受ける前から人格代表者としての権限を遺言によって付与されている、と考えられていることによる。

 

もっとも、実際には、grant を受けないと、相続債権の債務者はふつうはかれに債務を弁済しないし53、被相続人名義で登録されている個々の遺産(土地など)を移転することもできない。なお、遺言執行者として指名された者が、grant の付与前に、人格代表者としてなすべき行為をしたときには、かれは遺言執行者となることを受諾したものと扱われる54。

 

2 grant の申請手続55

 

1 非訴訟的手続と訴訟的手続

 

grant の申請手続は、非訴訟的に開始されてそのままgrant 付与へと至る(non-contentiousproceedings とかcommon form procedure と呼ばれる)のが通常である。このときは、高等法院(High Court)の家族部(Family Division)内で手続が完結する。しかし時として、どの文書が被相続人の有効な遺言として認められるか、誰が人格代表者として選任されるべきか、人格代表者の選任が取り消されるべきか、等について訴訟(probate claims と呼ばれる)が起こることがある(contentious proceedings とかsolemn form procedure と呼ばれる。

 

一旦非訴訟的手続で人格代表者が選任されたあとにprobate claims が提起されることもある)。probate claims の管轄は、原則として高等法院(High Court)の大法官部(Chancery Division)にあるが56、それがここで解決されれば、最終的にはgrant は非訴訟的な手続で家族部によって付与される。

 

実際には、probate claims が起こることは件数の観点からは非常に稀なので(統計について、3 で後述する)、以下では非訴訟手続のみで完結する場合をもっぱら念頭に置いて、grant 付与へと至る手続を説明する。

 

2 非訴訟手続によるgrant 付与

 

(1) 申請の方法とその後の流れ

 

申請は、申請資格のある者が自らおこなうこともできるし57(本人申請personal applicationという)、ソリシタ等58を通じておこなってもよい。

前者の場合には、登録所で一度は面接することが必要とされ、また事例によっては、ソリシタ等を通じて申請するように求められることもある(NCPR1987, r.5(3)(c))。

 

必要書類((2)で後述)を登録所に送ると、面談の日時を示した手紙が当該登録所から送られてくる。申請者に日時の希望がある場合には、それを申請時に書いておけば考慮される。

登録所(registry)は裁判所であるが、grant のための面談はきわめてインフォーマルなものである。面談の際には、提出書類の記載に基づいて、宣誓書(oath)が予め作成されているが、その内容は、ソリシタ等を通じた申請の場合に作成される宣誓書((2)(c)で後述)と同じである。

 

申請者は、身分証明書を示して本人確認を受けた上で、宣誓書の内容が正しいことを確認したら、その場でサインをし、それを朗読して宣誓swear(ないし承認affirm)することを求められる59。

所要時間は通例15 分とかからない。

 

この面談と、Inheritance Tax Account を税務当局に提出した場合には税務当局から当該登録所に送付されてきたスタンプ済のSchedule IHT 421 とが揃うと(面談が先のこともあるし、後のこともある)、grant が申請者に郵送されてくる60。

 

これに対して、後者の場合には、必要書類((2)で後述)が揃っていれば、登録所はgrant を当該ソリシタ等に郵送する。前者の場合とは異なり、特に面談はなされないのが通例のようである61。

 

(2) 必要書類

 

登録所に提出されるべき書類は、次のようなものである62(相続税関係の書類は、14 で述べた通りなのでここでは割愛する)。

 

(a) 本人申請の場合には、Probate の申請書(Form PA163)

(b) 遺言書がある場合には、遺言書(原則として原本64)。

(c) ソリシタ等を通じた申請の場合には、宣誓書(oath)。すぐ下で補足する。

(d) 遺言書に不備があると思われる場合などには、宣誓供述書(affidavit)。すぐ下で補足する。

(e) 本人申請の場合には、死亡証明書の謄本65。

 

(c)の宣誓書は、ソリシタ等を通じた申請の場合に、申請にあたるソリシタ等とは別の事務所に属するソリシタの前で、申請者が宣誓(swear. 無神論者などの場合には確認affirm)するものである。

 

内容としては、まずgrant の種類にかかわらず共通するものとして、死者の名前・住所・死亡日・死亡時の年齢・死亡時のドミサイル、申請者の資格(遺言で遺言執行者として指名されている、等)、申請者が人格代表者として遺産を回収し(collect and get in the real and personalestate)・管理する(administer it)べきこと66、個々の遺産(被相続人から人格代表者へと移転するものに限る)のグロス及びネットでの価値、宣誓文言(宣誓された場所と日付)がある67。

 

なお、本人申請の場合には、他の提出書類の記載をもとに、登録所の方で同じような内容の宣誓書を用意しており、面接の際にその内容を宣誓ないし確認することが求められる。

 

また、(d)の宣誓供述書とは、遺言書について適式な完成(due execution)の推定が働かない事由があるときに(第4 章11 で先述)、それが適式に完成されたことを宣誓する書面のことである。最もオーソドックスなのは、当該遺言書の証人によるその旨の証言である。

 

(3) 費用

 

登録所への書類提出時に、費用(probate fees)が支払われる必要がある。この費用は、ネットでの遺産額が5000 ポンドを超える場合に限り発生し、ソリシタ等を通じた申請の場合には一律45 ポンド、本人申請の場合には105 ポンドである。また、grant が複数部必要である場合(回収すべき財産が複数ある場合に有用である68)には、写しが1 通あたり1 ポンド(grant 申請と同時に写しを請求した場合のみ。grant 後に改めて写しを請求する場合には1 通あたり6 ポンド)である。

 

また、ソリシタ等にgrant 申請の手続を依頼した場合には、かれに払う費用も必要であるが、通常は、ソリシタ等にgrant の申請だけを依頼することはないように見受けられる。

 

(4) 関係当事者間の整序

 

非訴訟的手続においても、さまざまな関係当事者(特に、第2 章6及び第3 章22 で見た、grantの申請をする潜在的な資格を有する者たち)のあいだで対立が生じることがあり、この対立を整序するために、様々な手続が用意されている。

 

(a) 不受理申し出(caveat)

 

これを書面によって家事部に提出する(提出した者をcaveator と呼ぶ)と、誰かからgrant の申請があったときには当該caveator に連絡が行くことになっている。他方で、caveat によって待ったをかけられた側の申請者は、caveat の効力を失わせるべく、caveator に対してwarning を発することができる。

 

(b) 催告(citation)

 

催告としては、人格代表者になるかどうかの態度決定を迫るもの、遺言執行者として指名されている者が遺言執行者としての行為をした場合(15 参照)にかれにgrant を取るよう求めるもの、遺言書を提出するよう求めるもの、の3 種類がある。

 

(c) 人格代表者探索(standing search)

 

これは、遺産に対して何か請求をしようとしている者(相続債権者や、第7 章で扱う家族給付の申立てをしようとする者)が、その相手となる人格代表者を特定するために、当該遺産についてgrant が出されているかどうかを照会する手続である。

 

3 統計

イングランドおよびウェールズにおいて、2010 年のソリシタ等を通じたgrant の申請件数は15万8570 件(2006 年と比べると30%減少)であり、他方で2010 年の本人申請の件数は8 万8941件である。合計の申請件数は24 万7511 件であるが、他方で2010 年の死亡登録件数は49 万3242件であり、単純に計算すると、死亡登録件数の約半分においてしかgrant の申請がされていないことになる。

 

なお、同じ2010 年のgrant の付与の件数は、遺言執行者の場合が19 万1632 件であるのに対して、遺産管理人の場合は5 万5003 件で、合計して24 万6635 件である69。

 

さらに、最新の統計によると、2013 年のgrant の付与件数は、26 万0969 件で、うち遺言執行者の場合は20 万3546 件(78%)、遺言書付き遺産管理人の場合は1 万7946 件(7%)、無遺言の遺産管理人は3 万9927 件(15%)であり、またprobate claims があった事例は97 件と、非常に少ない。2013 年の付与件数について、本人申請か、ソリシタ等による申請かの比率をみると、両者の比率は1:1.8 程度であり、この比率は2012 年においてもおおむね同じである70。

 

判事による別段の許可がない限り、遺言書つきのgrant の場合には被相続人の死亡から7 日のあいだ、また遺言書なしのgrant については14 日のあいだ、grant が付与されることはない、と定められている(NCPR1987, r.6(2))。

 

法務省のウェブサイトによると、必要書類が提出されてからgrant が付与されるまでの期間は、ソリシタ等を通じた申請の場合には95%の事例で7 執務日であり、本人申請の場合には85%の事例で1 ヶ月以内である、という71。また、ある文献は、本人申請の場合には、通常は、面談から10 執務日以内にgrant が付与される、と述べている72。

 

第6 章 人格代表者の任務

 

1 概要

 

人格代表者の任務としては、第1 に、被相続人の物的財産(real property)および人的財産(personal property)を集めて回収し、法に従って管理すること73、第2 に、裁判所の求めに応じて、遺産の完全な目録を宣誓つきで示し、遺産の会計報告をすること74、第三に、高等法院(HighCourt)の求めに応じて、grant を同裁判所に返上すること、が規定されている(AEA1925, s.25)。

 

概観のため、人格代表者の具体的な任務(grant 取得前になされるべきことも含む)を、管理(administration)と分配(distribution)とを分けることなく、おおよそ時系列順に列挙していくと、次のとおりである75。

 

(1) 被相続人の積極・消極財産を確定する。

(2) 相続税を支払う。

(3) grant を取得する。

(4) 積極財産を集める。その際に必要に応じて、grant を、銀行、Building Society、被相続人が株式を保有していた会社の登録係、などに届け出る。

(5) 必要に応じて、相続債務が支払える程度に、積極財産を換価する。

 

(6) 相続債務の内容をチェックし、支払うべきものには支払う。

(7) 残余財産遺贈でない遺贈を履行する。

(8) 新たに見つかった積極財産・消極財産をふまえて、相続税の修正申告をし、必要があれば追加の税額を払う。全額払い終えたら、支払済み証明書(clearance certificate)を取得する。

(9) 遺産管理費用(葬儀費用、人格代表者が固有財産から立て替えた分の償還、場合により人

格代表者の報酬、ソリシタ等への報酬の支払い、等々)や、被相続人死亡後に生じた出来事に由来して生じた所得税や譲渡所得税を確定させ、支払う。

 

(10) 遺産会計(estate accounts)を準備し、残余財産受益者(residuary beneficiaries)にどのくらい払うべきかを確定する。

(11) 残余財産を相続受益者に移転させるために、あるいは残余財産をみずからが受託者として保持し続けるべき場合には76、それを受託者としての自分に帰属させるために、assent(33参照)をする。

 

人格代表者には、判例や制定法や遺言を根拠とした77、さまざまな管理権限及び分配権限(administrative and dispositive powers)が与えられている78。管理権限と分配権限とを厳密に区別することは困難であるが、ここでは一応両者を分けて、検討を加える。

 

2 管理権限

 

1 概要

 

管理に関して人格代表者が有する権限のうち、制定法上規定があるものとして79、次のようなものがある80。

 

(1) 不動産(不動産賃借権を含む)について、TLATA1996, ss.6, 18 で信託受託者に与えられているのと同じ権限(AEA 1925, s.39)。絶対権保有者(absolute owner)が有するのと同一の権限(売却、譲渡抵当の設定、賃貸借に出す、等)や、投資その他の目的で連合王国内の土地につき不動産権(legal estate in freehold or leasehold land)を取得する権限を含む。

 

(2) 遺産中の動産(personal estate)について、譲渡し、譲渡抵当その他の担保を設定し、賃貸借に出す権限(AEA 1925, s.39)。

 

(3) 遺産中のあらゆる財産について、その滅失毀損に備えて保険をかける権限(TA 1925, s.19)。

 

(4) 投資に関して、TA 2000, s.3 で与えられた権限(但し、それを拡張し、あるいは制限する条項が遺言にあれば、それが優先する)。もっとも、同規定が人格代表者にも当てはまるかどうかは議論の余地があると述べる文献もある81。

 

実際上は、人格代表者がその任務終了後に受託者としての資格で残余財産などを保持し続けるべき場合は別にして、人格代表者としての任務の中

では、被相続人が有していた投資を適時に現金化し、それを銀行に預金して利息を得る以上の投資は、通常おこなわれない。

 

2 相続財産の費用および相続債務の弁済

 

(1) 積極財産の回収

 

「遺言執行者は、遺産の適正な管理という点について、手元にあり債務の弁済のために使える財産を勘案しつつ、遺言者の負っていた債務を適正な勤勉さ(due diligence)をもって弁済する義務がある。

 

適正な勤勉さを示していたかどうかを決するにあたり、事案の全事情が考慮されなければならない。・・・この義務は、債権者だけでなく、相続受益者に対しても負う。というのも、遺産の管理の究極的な目標は、相続受益者に現に受益をさせることにあり、この目標は、全ての債務が弁済されない限り達成されないからである」82。

 

この叙述は、遺言執行者に限らず、人格代表者一般にあてはまるものと考えられており、人格代表者がこの義務を怠ったために、相続債権者ないし相続受益者に損害(consequential loss)を与えた場合には、人格代表者は個人責任を負う83。

 

相続債権者への弁済を終えているべき時期については特にルールはなく、適正な勤勉さ(duediligence)の問題に解消されるが、一般的には、被相続人の死亡時から1 年以内(“executor’s year”と呼ばれる)に終えていることが目安となる84。

 

無担保の相続債務者に対する弁済の請求が遅れたために、本来の債権額の回収ができず、損害が生じた場合には、正当な理由がない限り、人格代表者は個人責任を負う85。

 

なお、人格代表者に課された上記の義務の具体的内容は、遺言での定めによって変更可能であり、その変更内容次第では、相続受益者との関係では、人格代表者は個人責任を負わないとされることもありうる。しかし、相続債権者に対する損害賠償責任との関係では、遺言での義務内容の変更は意味を持たない86。

 

(2) 相続債務等の弁済

 

次に、人格代表者が相続財産の費用87及び相続債務(以下まとめて「相続債務等」という)を弁済する手順を見ていくことにする。なお、被相続人の死亡時に遺産が債務超過であった場合(insolvent estate)については、実際上そう多く生じるものではないと思われることから、検討を省略する88。

 

(a) assets の範囲

 

まず、相続債務等の弁済のための原資となる財産(assets と呼ばれる)がどの範囲かを画定する必要がある。

この点について、AEA 1925, s.32 は二つのカテゴリーを定めている。第1 は、被相続人に属していて死亡によって消滅しない財産権89である。なお、判例上、そこから生じた果実(income)も含まれるとされる。

 

第2 に、遺言において被相続人がgeneral なタイプの財産取得者指名権(power of appointment)を行使したところの財産権も、これに含まれる。

もっとも、この規定はassets を限定列挙したものではないと解されており90、以上だけでは相続債務等の弁済のために十分でないときには、最後の手段として、死因贈与(donatio mortis causa.第8 章4参照)の対象財産なども、相続債務等の弁済のための原資となる財産に含まれることになる91。

 

(b) 相続債務の発見

 

被相続人が負っていた債務の中には、人格代表者が気づかないものも含まれうるが、そのような場合に人格代表者が個人責任を負わないようにするための手段がいくつか設けられている。

 

(ⅰ) 相続受益者への分配を行う意図を示した上で、遺産について権利を有している者(債権者だけでなく、相続受益者も含む92)はその権利の詳細を、2 ヶ月を下回らない所定の期間のうちに、人格代表者に申し出るよう求める広告(advertising)をする(TA 1925, s.27)。

 

この広告93は、London Gazette 誌(日本でいう官報に相当)と、分配すべき土地があるときにはその土地で発行されている新聞に行わねばならない。さらに、特殊な場合には、別の土地(イングランド・ウェールズ以外の土地を含む)において同様の広告を行う必要がある。実務的には、遺産管理の

早期の段階でこの広告をなすことが勧められる94。

 

なお、同規定に基づく人格代表者の免責は、分配時において当該人格代表者が存在を知っていたところの権利に係る相続債権者ないし相続受益者との関係では認められないし95(したがって、応答しなくても人格代表者が存在を知っていれば免責されない)、また、単に当該相続債権者ないし相続受益者の所在がわからないというだけでは、やはり免責は認められない96。

 

(ⅱ) 人格代表者は、裁判所の許可(Benjamin order と呼ばれる97)を得て分配を行うことができる。

 

この場合、知られていなかった者との関係で人格代表者は免責される。例えば、ある者が被相続人よりも先に死亡していた(したがって遺産から受益する権利はない)かどうかが確実にはわからないが、あらゆる調査の結果では、どうやら先に死亡していたらしい、という状況の下で、裁判所による、あらゆる調査がおこなわれたという点を確認して出されたBenjamin orderに基づき、かれが先に死亡していたという前提で人格代表者が分配したところ、後にかれがまだ生存していることが判明し、相続受益者として分配を人格代表者に請求してきても、当該人格代表者はその請求に応じる必要はないことになる。

 

もっとも、Benjamin order を求める手続には費用がかかることが多く、たいていの場合においては、人格代表者の免責を求めるための最善の手段とは言い難い98。

 

(ⅲ) 本来であれば人格代表者が個人責任を負うべき場合において、裁判所が、当該人格代表者は誠実かつ合理的に行動し、よって免責されるべきだ、と判断する場合には、裁判所は全部または一部の免責を認めることができる(TA1925, s.61)。

 

(c) 積極財産を用いる順序

 

遺産が債務超過でない場合には、債務超過である場合と異なり、どの相続債務等の債権者にどれだけ払えばよいのかという点は問題とならないが、その代わりに、相続債務等の弁済のために、遺産中のどの積極財産がまず充当されるべきなのか、に関するルール(どの財産に負担(incidence)がかかるか、に関するルール)を決める必要がある。

 

このルールは、AEA 1925, s.34(3)で定められており99、それによると、第1 順位は、遺言によって処分されていない財産、第2 順位は、残余財産遺贈の対象財産、となっていて、第7 順位まで定められている。この順序は、遺言によって変更可能である100。

 

このルールは、相続債権等は遺産で全部満足させられるが、その弁済の後、相続受益者の有する権利を完全に実現できるほどには遺産が残らない、という場合において、どの相続受益者から順に、いわば「割を食う」ことになるかを決するものであり、つまり相続債権者等ではなく相続受益者の利害にかかわる。

 

このため、負担(incidence)に関する遺言の定めは相続債権者等を拘束するものでなく、相続債権者は遺産中のどの積極財産からも弁済を受けることができ、もし上記ルールで指示されるのとは別の積極財産から相続債権者等が弁済を受けた場合(例えば、手元に弁済のためのお金を持っていなかった人格代表者の判断で、上記ルールにしたがったならば使われるべきでなかったはずの積極財産が換価されて、弁済に充てられた場合)には、必要に応じ

て、相続受益者間において事後的な調整がされる(marshalling という)。

 

3 遺産管理中に締結した契約に基づく人格代表者の個人責任

 

人格代表者は、遺産管理中に自ら締結した契約101について、固有財産を以てしても責任を負う個人責任を負う)のが原則である。

遺産管理中に人格代表者が自ら締結した契約について、遺産に責任財産が限定されるためにはまず、その契約が人格代表者の権限の範囲内で行われたものであることが必要とされる。

 

その前提のもとで、契約時に「人格代表者として」という旨を明示した場合に、それだけで責任財産が遺産に限定されることになるか。判例上、そのような場合に遺産への責任財産の限定が認められるのは、人格代表者がした約束の約因(consideration)が、被相続人が既に生前になしていた契約ないし取引に基づいている場合に限られる、といわれる102。

 

他方で、被相続人が生前に負っていた債務についてはどうか。この場合、原則として人格代表者は、個人責任を負わない。しかし、人格代表者が、将来に払うから訴えないでほしいと相続債権者に求め、当該相続債権者がその求めに応じた、というように、人格代表者が個人的に関与した合意があれば、当該相続債権者との関係で人格代表者は個人責任を負うことがある、とされる103。

 

3 分配権限

 

1 概要

 

分配に関して人格代表者が有する主な権限として、次のようなものがある104。

 

(1) 人格代表者に人格代表者としての資格で帰属している財産権を、相続受益者に移転することにつきassent(3 で後述)する権限(AEA 1925, s.36(1))。

 

(2) assent する前に、人格代表者がその占有(possession)を回復する権利の留保つきで、相続受益者に土地の占有を許可する権限(AEA1925, s.43(1))。

 

(3) 金銭で受け取るべき相続受益者に、物を割り付ける権限(power of appropriation.AEA1925, s.41)。遺言や制定法において別段の定めがない限り、当該相続受益者の同意を要する。

この割り付けがなされた時点で、当該相続受益者の権利は当該物に移行する。

 

(4) 有効な受領(valid receipt)をする資格の認められていない未成年の相続受益者105 106に代わって受領する信託受託者を指名して、当該受託者への移転をする権限(AEA1925, s.42)。また、未成年の相続受益者が有効な受領(valid receipt)をする資格を認められていないことを理由に、代わりに裁判所への支払い(payment to court)をする権限(TA 1925, s.63(2))。

 

なお、22(2)(b)(ⅰ)で先述した広告の手続は、相続受益者の探索のためにも利用することができ、この広告に応じず、かつ人格代表者がその存在を知らなかった相続受益者との関係では、人格代表者は免責される107(TA 1925, s.27)。しかし、存在はわかっているが所在が不明な相続受益者に対しては、この広告によっても人格代表者は免責されない。

 

しかるべき調査をしたにもかかわらず、相続受益者の所在が判明しない場合には、調査したプロセスを裁判所に示した上で、それによれば蓋然性が高いと思われる事態を前提にして分配をしてよい旨の裁判所の命令(22(2)(b)(ⅱ)で前述したBenjamin order)を得れば、それに従った分配をすることにより人格代表者は免責される。

 

もっとも、この手続は費用がかかるためあまり実用的ではなく108、ヨリ一般的な手段としては、一定の前提のもとで分配するが、もし違う事態であることが判明した場合には、その分配を受ける者に対して求償(indeminity)を求める旨をする旨を予め合意しておくとか109、保険(missing eneficiary insurance)をかけることが考えられる110。さらに、裁判所に対して支払いをすることでも、人格代表者は免責される111(TA 1925,

s.63)。

 

2 分配の時期

 

遺産の相続受益者への分配は、先述のように、被相続人の死後1 年の間は、なされなくてもよい(AEA1925, s.44)。死後1 年以内に相続受益者への分配がされない場合に、その理由の正当性を主張する責任は人格代表者の側にある112。他方で、死後1 年以内に分配をしてもかまわないが113、

人格代表者が個人責任を負わないようにするには、先述の広告手続において申し出をすべきとされる期間(広告において定める、2 ヶ月を下回らない期間)や、家族給付(第7 章で後述)の請求をすべきとされる期間(grant 付与時から6 ヶ月間)を遵守するのが安全である。

 

実務的には、最終の分配をする前に予め、必要に応じて相続税の修正申告をした上で、相続税の支払い(あるいはその支払い義務がない遺産であること)について税務当局から支払証明書(inheritance tax clearance certificate)を得ておくべきである。

 

残余財産権利者への最終分配段階に至ったときには、遺産の最終会計(final account)を作成して、残余財産権利者への分配時にかれからサインをもらっておくべきである。これは、残余財産権利者が遺産がどう管理されたかを理解し承認した旨を示す証拠となる114。

 

3 assent

 

ここでは、被相続人のみの名義で登記されている遺産中の土地の所有権(freehold)について、人格代表者が相続受益者あてに登記名義を移転する手続を見ることにする115。

 

このとき、人格代表者は、AEA1925, s.36(1)に基づいて、assent をする権限を有する116。土地に関するエクイティ上の権利を対象とする移転であれば、assent は書面でなく口頭でなされてよく、また黙示でもよい。しかし、

 

土地に関するコモンロー上の権利が移転の対象財産である場合には、人格代表者がサインし、誰に対して移転するかを明示した書面(捺印証書deed によらなくてよい)で行わなければならず、これをしない限り当該相続受益者に権利は移転しない(AEA1925,s.36(4))。

 

人格代表者が、相続受益者としての自らに対してassent するとき(人格代表者自身が相続受益者でもある場合や、人格代表者が管理終了後も信託受託者としてそれを保有し続けるべき場合)においても、同規定が適用されて書面を要することになるのか、争いがあるが、少なくとも実務上は、書面によることが望ましい、とされる117。

 

人格代表者は、当該土地についてどうするか方針が立っていないときには、一旦自分の名で登記することもできる(LRA2002, s.65)。このときは登記申請書(Form AP1)に加えて、grant の正本を、登記所(Land Registry)に提示する(LRR2003, r.163(2))。

 

この場合には登記費用はかからない。このときになされる登記は、人格代表者の名の末尾に、「被相続人○○の遺言執行者」ないし「被相続人○○の遺産管理人」という文言を付すことになっている(LRR2003, r.163(4))。

 

もっとも、人格代表者が遺産管理の過程で第三者に売却したり、相続受益者に対して分配のためにassent したりした場合に、登記移転の前提として予め人格代表者名義で登記しておく必要はなく(LRA2002, s.27)、被相続人名義から直接、当該買主ないし相続受益者へ登記を移転するこができる(LRR2003, r.162(1))。

 

このときには、grant の正本を提示する必要がある(LRR2003,r.162(1))。申請書類としては、上記のForm AP1 だけでなく、買主への移転の場合にはForm TR1(Transfer of whole of registered titile(s))が、また相続受益者へのassent の場合には、Form AS1(Assent of whole of registered title(s) by personal representative(s))が、それぞれ用いられる。このときには登記費用がかかる。

 

第7 章 家族給付118(family provision)

 

1 導入

 

人的財産(personal property)については15 世紀半ばから、また物的財産(real property)については1540 年のStatute of Wills に由来して、遺言処分の自由が認められてきており、1891年には完全な遺言自由が達成されたが、1938 年のInheritance (Family Provision) Act(以下「1938年法」と呼ぶ)によって、制約が加えられるようになった。

 

この法律は、4 種類のdependants に対し、遺産からの生計維持費用の給付命令を裁判所が裁量的に出すべきことを申し立てる資格を与えるものであった。当初は遺言処分があるときにのみ認められたが、1952 年に、無遺言の場合にもこの制度が利用できるようになった。

 

現行の家族給付制度はInheritance (Provision for family and Dependants) Act 1975(以下「1975 年法」と呼ぶ)によって規律されている。1975 年法以前の家族給付に関する判例は、1975年法のもとでも先例として意味を持つか、慎重に検討する必要がある。

 

2 申立ての方法

家族分与の申し立てをすることのできる申立人のカテゴリーは特定されているが、これは叙述の都合上、52 で後述する。

 

1 ドミサイルの要件

 

家族給付制度は、死亡時にイングランドかウェールズにドミサイルを有していた被相続人についてのみ適用がある。

 

2 裁判管轄

 

高等法院(High Court)では、家族部(Family Division)か大法官部(Chancery Division)が家族給付事件を扱う。またCounty Court にも管轄があるが、明らかに単純で額も大したことがない事例のとき以外は、高等法院(High Court)で手続を始めるのがよい。

 

家族部(Family Division)か大法官部(Chancery Division)かは、事案の性質にもよる。例えば、遺言の解釈が争われているときには、後者の方がよいし、他方で、元配偶者による申立てであって、被相続人の生前にはMatrimonial Causes Act 1973 に基づく(離婚後の財産分与に関する)命令の対象となっていた場合には、前者の方がよい、といった具合である。

 

3 申立ての期間

 

遺産について最初のgrant が付与されてから6 ヶ月以内であるが、判事の裁量で延長することが許される。また、grant 付与の前の申立ても可能である。

 

なお、人格代表者は、家族給付の申立ての行方がどうなろうとも、相続財産の費用や相続債務は支払って何ら差し支えないし、またgrant 付与後6 ヶ月が経過しても特に家族給付の申立てがない場合には、遺産を相続受益者に分配して差し支えない。

 

反対に、家族給付の申立てがあった場合に、人格代表者がいつまで遺産をそのまま保存しておく(相続受益者に分配するのを控える)かは状況による。場合によっては裁判所の許可を得て、先に相続受益者に分配をする、ということもできる。

 

3 reasonable financial provision のテスト

 

遺言および無遺言相続ルールによる受益だけでは、申立人にreasonable financial provisionがなされていないときに、裁判所は家族給付の命令を出すことになる。そこで、reasonablefinancial provision をどう定めるかが問題となるが、1975 年法では、「生存配偶者基準(the surviving spouse standard)」と「生計維持基準(the maintenance standard)」の2 つの基準が定められている。

 

なお、被相続人がこういう処分をなすべきであった(遺産からはこれだけが申立人に分与されるのが公正であった)、という観点から基準が定められるものではない。

 

1 生存配偶者基準

これは、生計維持が必要かどうかに関係なく、一方配偶者が他方から受け取るのが合理的と思われるような給付(financial provision)を考える、という基準であり、離婚時における財産分与の額との均衡(少なくともそれよりは多くなくてはならない)がここでは想定されている。

 

この基準が適用される申立人カテゴリーは、別居判決を経ていない生存配偶者((52(1)参照))である。また、別居判決を経ている生存配偶者や、被相続人の生前に離婚して再婚していない元配偶者(52(2)参照)にも、別居判決や離婚判決のときから12 ヶ月以内に被相続人が死亡し、かつまだmatrimonial proceeding において、申立人への財産分与に関する裁判が出されていない場合に限り、裁判所が裁量的にこの基準を適用することがある。

 

2 生計維持基準

 

これは最低限度の生活(bare necessities)の基準よりは高いが、申立人の生活水準からして快適に暮らせるだけ、ということでもない。1 があてはまらないとされた申立人のカテゴリーには、この生計維持基準が妥当する。

 

4 事件処理の2 段階

 

家族給付の申立ては、2 段階で処理される(ss.2(1), 3(1))。

第1 段階では、遺言または無遺言相続のルールに基づいて遺産から申立人に行く額が、3のreasonable financial provision の基準からみて十分かを審理する。

 

この第1 段階のテストをクリアすると、第2 段階に入る。ここでは、3のreasonable financialprovision の基準を参照しながら、申立人に対して分与がされるべきか、されるべきとしてどういう態様でおこなうか、を裁量的な判断によって決める。

 

5 考慮要素

 

4で触れた2 段階の両方において、裁判所は以下に見るような要素を考慮しなければならない、とされる(s.3)。以下の1 では、すべての場合に考慮されるべき考慮要素を、また2 では、申立人のカテゴリーごとに定められた考慮要素を、そもそも申立人としてどういうカテゴリーが定められているのかとあわせて、見ていくことにする。

 

1 一般的考慮要素

(1) 申立人、他の家族分与申立人、相続受益者(死因贈与受贈者を含む)、のそれぞれが有している財産と財産的ニーズ(financial resources and needs)

 

(2) 被相続人が申立人に対して死亡時直前に負っていた債務(obligations)ないし責任(responsibilities)

 

ここでは道義的なもの(moral claim)が主に想定されている。

 

(3) ネットの遺産のサイズおよび性質

 

小さな遺産の場合には、理論的には少しは分与してもよさそうであっても、そのような少額では申立人の生計維持にはほとんど役立たないときや、分与額を確定すること自体に、遺産の規模からすると相対的にかなり高い訴訟費用がかかるような場合には、分与を命じないという結果に

なることもある。

 

(4) 申立人や相続受益者の肉体的ないし精神的な無能力(physical or mental disability)

 

(5) 裁判所が関連すると考える、申立人その他の者(被相続人を含む)の行動その他の事項

 

以上に対して、被相続人が遺言などで合理的に行動したかどうかそれ自体は、考慮要素ではない(1938 年法では考慮要素であったが、1975 年法では落とされた)。但し、被相続人のそのような行動の理由が、上記(1)~(5)のどれかで考慮されることはありうる。

 

2 申立人の諸カテゴリーと、特定的考慮要素

 

以下の(1)~(6)のカテゴリーの者に家族給付の申立ての資格がある。但し、申立人が被相続人よりも長生きしたが、家族給付命令が出る前に死亡したときには、申立人の死亡によって手続は当然に終了する。1 で述べた一般的考慮要素のほかに、各カテゴリーの申立てについて追加的に考慮すべき、特定的考慮要素も、ここであわせて紹介する。

 

(1) 生存配偶者

 

申立人の年齢と婚姻期間、家計への寄与(家事負担を含む)、もし被相続人の死亡時に婚姻が離婚により解消していたならば申立人が得ることが期待できたような額(“imaginary divorce”guideline と呼ばれる)が、更に考慮される(s.3(2))。

 

但し、“imaginary divorce”guidelineについては、離婚時には分与者の将来の収入も支出も考慮されるのに対してここではそれがない、また離婚時にはclean break が重視されるのに対して分与についてはそのような考慮要因はない、という違いがあることを無視している、との批判がある。いずれにしても、“imaginary divorce”guideline は考慮要素の一つにすぎない。

 

また、被相続人の死亡時に婚姻が破綻していたときに、破綻の原因をいずれが作ったかを、行動(1(5)参照)として考慮するべきかどうか、議論がありうるが、よほど重要な行動であった場合を除いて、大半のケースでは考慮しないとされる(離婚時の財産分与の額の決定の際にも基本的には考慮されていない)。

 

(2) 被相続人の元配偶者であって再婚していない者

 

このときには、一般的考慮要素に加えて、上記(1)の特定的考慮要素のうち“imaginary divorce”guideline を除いたものが、更に考慮される。

 

元配偶者からの申立てに基づく命令は、容易には認められず、特に、被相続人の財産が離婚後に増えたというだけでは家族給付の申立ては認められない、といわれている。また、婚姻の破綻の原因をいずれが作ったかも、(1)と同様に、まず考慮されない。

 

(3) 被相続人の死亡の直前の最低限2 年間、同一家計で被相続人と夫婦同然に暮らしていた者

 

(2)と同様の要素が特定的考慮要素として加わる。

夫婦同然に暮らしていた(living as the husband or wife or civil partner)ということの意味は必ずしも明確ではない。同衾まで要求されるか、また二人の関係が公然であることが要求されるか、などについて議論がある。

 

(4) 被相続人の子

 

特定的考慮要素としては、申立人が現実に教育を受けていた態様、及び両者の関係からして期待できる程度の教育態様、が規定されている。

 

成年の子であっても申立てをすることができる(1938 年法のもとでは、21 歳以上の子については、肉体的・精神的無能力ゆえに自活が難しい者を除き、申立ての資格が認められていなかった)。

 

もっとも、特段無能力の事由がなく自活ができる成年の子からの申立ては、4で述べた第1 段階のテストをパスしないことが多い。「特別な事情」があり申立てが認められると思われる事例類型としては、第1 に、申立人が被相続人のfamily business のために低賃金で働いていた場合、第2 に、一方の親Aが他方の親で被相続人であるBに財産を残したが、それはBが死亡したときにはBの子にその財産が行くことを想定しておこなったことであった、というものが挙げられる。

 

さらに、自活能力があるにもかかわらず、実際にはろくに働いていなかった子からの申立てを認めるかに見える裁判例がいくつかあるが(“lame duck”case)、それらの事案には、申し立てを認める方向に働く別のファクターも見出されるので、果たしてそれを独立の事例類型として挙げる

ことができるのか、定かでない。

 

他方で、未成年の子については、申し立てが認められるために「特別な事情」は特に必要とされない。

 

(5) 被相続人によって家族の子として扱われてきた者(被相続人自身の子を除く)

 

典型的には連れ子(stepchild)であるが、連れ子のように誰かを媒介とした関係であることは必要でない(つまり、被相続人と当該子だけで家族としての関係を結んでいる場合も含まれる)。

個別的考慮要素としては、(4)の個別的考慮要素に加えて、被相続人が申立人の生計維持に対して現実に責任を引き受けていたか、またその程度や責任を引き受けた事由、その責任を果たしてきた期間、またそのような責任を引き受けないし果たしてきた際に申立人が自分の子でないことを被相続人が意識していたか、他の者が申立人に対して法的に強制可能な生計維持の義務を負っていたか、が加わる。

 

単に被相続人が愛情や親切心、歓迎心を連れ子に対して示した、というだけでは、「家族の子として扱う」という要件には該当しない。

 

成年の連れ子であっても、もともと被相続人の遺産の多くが、被相続人よりも先に死亡していた申立人の母親に由来するものであった、というときなどは、申立てが認められうる。

 

(6) 以上の(1)~(5)のほかに、被相続人の死亡直前に被相続人によって全部ないし一部生計を維持されていた者(dependant)

 

被相続人に対して法的に強制しうるような扶養請求権を有しない者もここに含まれうるが、商業ベースで(for a full valuable consideration)そのような生計維持をしてきた関係は含まれない。

 

個別的考慮要素としては、被相続人が申立人に対して扶養の責任を引き受けた程度とその根拠、また生計が被相続人によって維持されていた期間(最低限の期間については特に規定がない)が加わる。

 

6 裁判所による家族分与命令

 

1 net estate の範囲

 

裁判所が申立人に対する家族分与を命じることのできる対象財産(“net estate”と呼ばれる)には、当然に、死因贈与(donatio mortis causa)の対象財産が含まれる。更に、裁判所の裁量により、遺言者が死亡の直前にjoint tenant であったところの財産も含まれうる。

 

2 命令の内容

 

定期金給付の場合、金額が特定されることも、net estate の全部ないし部分が特定されてその特定部分から上がる収益額、という形で決められることもあるし、またその他裁判所が適切だと定める方法によってその額が決められることもある。

 

期間は、被相続人の死亡時からであるのが通常である。終期は、最長でも申立人の死亡時であるが、命令の際に適宜指定される(例えば、子が成年になるか婚姻するまで、等)。

 

また、一時金になることもあるし(分割払いが認められることもある)、さらに、金銭ではなく遺産中の特定財産の申立人への移転や、それについての信託の設定、を命ずる家族分与命令が出されることもある。

 

4にみた2 段階のうちの第2 段階で額の確定がなされるが、その際には、5でみた諸考慮要素を考慮すべき旨しか法律には書かれていない。もっとも、申立人が属するカテゴリーに当てはまる基準(3参照)が、家族分与が命じられる額の標準になることが、黙示に前提とされているように見受けられる。

 

給付が命じられる者は、人格代表者であることが通常だが、joint tenant だった者も対象となりうる。また、もともと遺言によって特定の個々の遺産を受けられるはずだったが、それが家族給付命令によって召し上げられてしまった者に対して、代わりに遺産から別の物を給付すべきことが、当該家族給付命令に付随して命じられることもある。

 

申立人が緊急に資金が必要な場合には、仮命令を命ずることもできる。

定期金給付のときには、既に命じられた命令を途中で変更する命令(variation order)が出されることもある。他方で、それ以外の場合には、一時金の分割払いのときは別として、そのような命令を出すことは認められない。

 

7 潜脱の防止

 

生前に処分をする(積極財産を減らす)、あるいは死亡時に一定の額を払う旨を生前に契約する(消極財産を増やす)、という形で、61 にいうnet estate を減らそうとする試みが被相続人によってなされることがある。

 

そこで、家族分与の申立人は、それらの生前処分の受益者が金銭を給付したりすべきことを求める潜脱防止命令(anti-evasion order)を、同時に申し立てることができる。

 

対象となる「処分」は、被相続人の死亡時から6 年以内になされたものに限るが、契約段階にとどまっているものについては特に期間制限はない。

 

家族分与命令がなされるのを妨げる意図でなされたこと、また完全で有効な約因(fullconsideration)がないこと、も、潜脱防止命令の発令に必要とされる。有効な約因(valuable consideration)のない契約がされた場合(約因が婚姻ないし婚姻約束だけであるときには、この有効な約因があるものとはされない)には、家族分与命令がなされるのを妨げる意図があるものと推定される。

 

さらに、anti-evasion order を出すことによって申立人に家族分与を与えることが容易になることも、潜脱防止命令の発令要件とされる。

 

 

 

すみれ

「家族分与は裁判所を通して、分け前を決めるんだ。それはちょっとややこしそう。」