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相続に関する法律 イングランド③
2015年12月20日

 

第3部 イングランド法

千葉大学 金子敬明

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より

平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会

法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

 

 

2 婚姻住居(matrimonial home)に対する生存配偶者の権利

 

人格代表者は生存配偶者に、11 で述べた無遺言相続権の満足として、被相続人が保有し(賃貸借で保有している場合も含む12)、生存配偶者が現に居住している住居(被相続人の居住は要件とされていない)を、生存配偶者に帰属させる権限を有する。この際、当該住居の価値の方が大きければ、生存配偶者は差額を調整金(equality money)として支払う。

 

生存配偶者は、上記の権限を行使するよう人格代表者に請求する権利を有する(一般的には相続受益者は特定の個々の遺産を自分に割り付けるよう人格代表者に請求する権利はなく、人格代表者の裁量にすぎないとされているが、その原則に対する例外である)。

 

この請求は、grant 時から原則として12 ヶ月以内に、書面によっておこなうこととされ、この請求権の実効化のため、人格代表者は、他の個々の遺産だけでは相続債務を清算するのに十分でないという場合を除いて、生存配偶者の書面による承諾なしに、被相続人が当該住居につき保有していた権利を処分することができない。

 

また、この請求権の行使の前提として、生存配偶者は、被相続人が当該住居につき保有していた権利の評価額算定を人格代表者に請求する権利も有する。

なお、婚姻住居は、joint tenancy という共同所有形態で夫婦によって共同保有されていることが多い。

 

保有している権利は、所有権freehold であることも、賃借権leasehold であることもあるが、いずれにしても、これらの場合に、一方が死亡すると、他方が相続法のメカニズムの外で自動的に当該婚姻住居の単独保有者となることになっている(jus accrescendi. 第8 章3でも後述する)。

 

 

すみれ

「ここでも、配偶者の住む家の保障は厚いね。夫婦が共同所有しているのはどのくらいの割合で多いんだろ。相続法の外で、自動的に家は保護されるっていいな。」

 

 

 

3 特別受益の調整

 

かつては、被相続人が生存中ないし遺言で無償処分した財産があるときに、日本法の特別受益のようにして相続時の受け取り分を調整するルールがあったが(hotchpot rules. 但し、被相続人の明示または黙示の意思によりその適用が排除されるとされていた)、1995 年の法律により廃止された(1996 年1 月1 日以降に相続開始した場合に適用)。

 

20 世紀後半には、このルールはそれ以前の時代の複雑なルールの残存物とみなされており、支持者は少なかったように見受けられる、との指摘もある13。

 

 

すみれ

「計算がすっきりできそう。生前の贈与を相続の時の計算に入れるのは、前の時代の複雑なルールの残り物か。贈与と相続って違うし。相続人の間の公平か。」

 

 

 

 

 

 

4 相続利益の放棄(disclaimer)・相続欠格(第4 章51(7)・(8)も参照)

 

従来この点ははっきりしていなかったが、Estates of Deceased Persons (Forfeiture Rule and Law of Succession) Act 2011 により、無遺言相続の場合の相続受益者は、相続によって得られる利益を放棄(disclaim)できることが明文化された。特に方式は要求されない(捺印証書deedによることもできる)。

 

また、被相続人を謀殺(murder)ないし故殺(manslaughter)した者は、原則として被相続人の遺産を承継することができない(forfeiture rule という)。但し、殺害者及び被相続人の行為態様その他の事情を勘案して、forfeiture rule 適用の効果を正義にかなうように変更する権限が、判事に与えられている(Forfeiture Act 1982)。

 

放棄やforfeiture rule の適用によって、それがなかったならば遺産から利益を受けたはずの無遺言相続受益者が実際には利益を受けない場合には、誰が相続受益者となる資格があるかの決定に際して、当該放棄者ないし殺人者は、被相続人の死亡の直前に死亡したものとみなされる(その結果、例えば被相続人の子が被相続人を殺害し、当該被相続人に遺言が特になかったとすると、当該殺害者に子がいるときにはかれが代襲して、被相続人の遺産の無遺言相続受益者となる)。

 

5 法改正の動き

 

先述のように、Inheritance and Trustees’ Powers Act 2014 により、無遺言相続の場合の生存配偶者の権利強化を主眼とする法改正が実現された。同法は2014 年10 月1 日から施行される。

 

まず、11(1)で触れた、生存配偶者と卑属とが無遺言相続受益者として競合する場合における、生存配偶者の取り分が増やされる。

 

すなわち、身の回りの動産と、定額25 万ポンド(いわゆる法定遺贈)とは同じであるが14、ネットの遺産からそれらを差し引いた残余について、卑属と競合する場合には、生存配偶者は半分の元本につき、権利を有することとされる。

 

次に、11(2)で触れた、血族として卑属はいないが両親はいる、という場合には、11(3)と同じく、生存配偶者はネットの遺産の全部について権利を有することとなり、生存配偶者と両親とが無遺言相続受益者として競合することはなくなった。

 

なお、かつて、1989 年にThe Law Commission が、無遺言相続の場合には生存配偶者は必ず被相続人のネットの遺産全部を取得すべきことをReport において提案したことがあったが15、これは立法には結実しなかった。

 

その後、2005 年には、いわゆる法定遺贈の額を、それ以前の額(1993年から変更されていなかった)から3 倍前後増額させる提案が、Department for ConstitutionalAffairs のConsultation Paper においてなされたが、これに対して法務省(Ministry of Justice)は、2008 年に上記増額幅を抑える形での回答(Response)をなし、そのまま2009 年2 月1 日に施行された。11 で紹介した法定遺贈の額は、このときに定められた額であり、2014 年10 月1日の前後でもこの額は変更されないものとされている。

 

無遺言相続時の生存配偶者の権利強化の問題でイングランド法を参照しようとする際には、次のような日本法との制度的な前提の違いに注意する必要がある。

 

すなわち、イングランド法のもとでは、様々な財産(とりわけ婚姻住居)が、2で先述したようにjoint tenancy の形で夫婦間で共同保有されていることが多く、その場合には、一方配偶者が死亡すると、生存配偶者が自動的に当該財産の単独保有者となる。

 

しかもこの場合に、当該財産は相続のルールが適用されるところの「遺産」には含まれない。したがって、仮に生存配偶者が無遺言相続のルールのもとではそれほど権利を得ていないように見えたとしても、それを見るだけでは不十分であり、相続とは別の回路で(第8 章参照)、形式的にはともかく実質的には被相続人の「遺産」の価値の大半を得ているケースが少なくないのである。

 

 

すみれ

「相続の時は利益の放棄しかできないのかな。借金が残っている場合はどうするんだろ。イングランドでも血縁から婚姻へ、という流れで改正作業も進んでいるのかな。相続法とは別の回路を使うってことは、法律には任せておくと面倒なことになるってことかな。joint tenancyって便利な制度に思えるけど。ここは二人のもの、って登録していたら、結果的に個人のものも分かりやすいし。」

 

 

 

 

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