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相続に関する法律 イングランド①
2015年12月20日

 

第3部 イングランド法

千葉大学 金子敬明

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より

平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会

法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

 

第1 章 制度の概要

 

日本法と対比してみた場合の、イングランド2相続法の特徴は、何よりも、被相続人3Aが死亡すると、Aの遺産を構成する個々の財産(以下では「個々の遺産」と呼ぶ)の管理処分権限が、人格代表者4(personal representative)という、裁判所で選任を受けた者(この選任時に裁判所が発行する、検認状(probate)ないし遺産管理状(letters of administration)という書面を、以下では「grant」と呼ぶ5。また以下では「grant を受ける」という言葉を、裁判所で人格代表者として選任を受ける、という意味で用いる)に排他的に帰属し、この人格代表者のもとで、Aの遺産が清算される、という仕組みが原則として取られる、という点に存する。

 

 

すみれ

「生前に何もしなければ、原則は裁判所から選任された人が一旦管理するんだ。」

 

 

 

grant を受けた人格代表者は、まず個々の遺産として、プラスであれマイナスであれ、どのようなものがあるのかの全容を把握する。次に、必要に応じてプラスのものを回収する。

 

相続預金を例に取ると、人格代表者は、銀行に行って、自分は人格代表者であることをgrant によって示すと、払戻しを受けることができる。さらに、そうやって集めたプラスの積極財産でもって、マイナスのもの(相続債務)を返す。

 

そのようにして遺産の清算の段階が済むと、ここで初めて、受遺者や無遺言相続人といった、無償で遺産を得る資格のある者たち(以下では総称として「相続受益者beneficiary」という言葉を用いる)への分配がおこなわれる。

 

 

例えば不動産の場合だと、人格代表者がいわば登記義務者となる形で、当該相続受益者への登記移転手続がおこなわれる。人格代表者からの分配を受けた相続受益者は、ここに至ってようやく、移転を受けた財産をみずからの恣意によって処分できるようになる(遺産の分配の段階)。

 

 

すみれ

「返すものは先に返して、残ったものを分けるんだ。すっきりしてるね。登記までくるのにどのくらい期間がかかるんだろ。移転登記は、相続人全員の名義にするのかな。登記するための書類も人格の代表者さんが集めてくれるのか。」

 

 

 

このような仕組みは、イングランド法のもとでは、信託の概念を用いて説明するのが自然であり、実際、人格代表者は個々の遺産の権利者である、しかしそれを受託者的に保有しているにすぎない、と説明されている。

 

但し、イングランドの相続の全件について、人格代表者が選任されてかれのもとで清算・分配がおこなわれるわけではない(第8 章参照)。また、「清算」といっても、破産手続のように相続債務はすべて現在化して返しきる、そうしない限り相続受益者への分配の段階に入れない、ということではない。

 

さらには、人格代表者として選任された者が、相続債務につき、固有財産をもってしても責任を負う(以下では「個人責任を負う」と呼ぶ)覚悟があり、かつ、遺産の管理が適切でないと主張する利害関係人(相続債権者や相続受益者)も特にいないのであれば、清算を意図的に一切しないまま分配がなされることも、実際上は可能である。この意味で、イングランドの相続では必ず破産手続のような清算手続がなされる、という印象は誤りである、という点が銘記されるべきである。

 

 

すみれ

「家庭の事情の合わせて、ややこしい手続を回避するのはどこの国でも大体同じなんだろうね。信託の概念、が出てきた。受託者「的」な人がいるな。概念や、的、な考え方が一般に浸透しているのかな。」

 

 

 

grant を受けるには、裁判所に申請をして、また遺言があれば原則としてその原本を提出することが必要である。ほとんどの事例においては、半行政的な手続で選任がされる。

 

誰が選任されるかというと、まず遺言で指定されていてその人が受諾すれば、裁判所が不適任であると判断しない限り、その者が人格代表者になる。これを遺言執行者(executor)といい、この場合に出されるgrant は検認状(probate)と呼ばれる。それ以外の場合には、どういう人に、どういう順序で、人格代表者になる申請をする資格がある、というリストが決まっているが、法定相続人とは異なって、被相続人との身分関係によりそれになりうる人の範囲が自ずと限定されるということは全くない。

 

このような形で選任される者は遺産管理人(administrator)と呼ばれ、この場合のgrant は遺産管理状(letter of administration)と呼ばれる。遺言執行者と遺産管理人の総称が、人格代表者という概念であり、微妙な違いはあるが、人格代表者として個々の遺産に対して持つ権限の範囲という点からは、両者は同じであると考えて差し支えない。

 

 

イングランドは遺言の国であるというイメージがあり、また遺言法は独自の一ジャンルとして長い伝統を誇るが、実際に遺言がどれほど普及しているかは別の問題である6。統計的に厳密な数値を示すことは困難だが、成人のうち、半分から3 分の2 のあいだの割合の者たちは、遺言を作ったことがない7、とか、成人の4 割以上は遺言をしていない8、とか言われている9。

 

また、遺言を作ったとしても無効と判断されたり、さらには、無効と判断されるという結果を見越して、そもそも被相続人が作成した遺言をgrant の申請時に提出しないこともあるようである10。このように、少なくとも件数という観点からは、無遺言相続の場合の方が、有効な遺言がある場合より

も実際上の重要性は高く、本報告書では、日本法への導入可能性が暗に想定されているという事情にも鑑み、全く遺言がない相続(total intestacy)の場合を遺言法よりも先に扱うことにする。

 

なお、本報告書で「婚姻」「配偶者」と呼ぶ場合には、特に断らなくても、同性愛カップルにつき婚姻と全く同じ効果を認めるcivil partnership の関係を当然に含むこととする。

 

 

すみれ

「遺言執行者と遺産管理人を足したのが人格代表者。イングランドでも遺言を作ったことがない人の方が多いんだね。伝統と現在たくさん使われているかどうかはあまり関係ないんだ。件数という観点から重要性が高いってどういう意味だろ。件数が多いから、重要性が高いのかな。日本への導入可能性が暗に想定されているんだ。初めて知ったよ。」

 

 

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