〒903-0114沖縄県中頭郡西原町字桃原85番地 TEL098-945-9268 受付時間平日9:00~17:00

司法書士宮城事務所 > お便り > お便り > 相続に関する法律 フランス⑤

相続に関する法律 フランス⑤
2015年12月20日

 

立教大学 幡野弘樹

金沢大学 宮本誠子

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より

平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会

法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

 

 

4 遺留分制度

 

1 遺留分

 

(1) 原則

 

フランスでは、条文上は遺留分がいくらかという形ではなく、任意に処分できる財産はどの割合かという形で規定されている。この割合を処分任意分quotité disponible と呼んでいる。遺留分権利者は、卑属と配偶者である。尊属は、2006 年法律により、遺留分権利者から除外されるに至っている。改正前は、相続人である尊属が遺留分権利者であり、父系、母系双方に尊属がいる場合には2 分の1 の処分任意分(2 分の1 の遺留分)、一方の系にのみ尊属がいる場合には、4 分の3 の処分任意分(4 分の1 の遺留分)が定められていた。これは、直系尊属がいても生存配偶者の遺留分の妨げにはならないので、生存配偶者の利益になる65。

 

もっとも、現行法は、遺留分をなくす代わりに、尊属のための復帰権droit de retour を認めている(738 条の266)。復帰権は、尊属にかつて帰属していた財産(典型例としては被相続人の尊属が相続人に対して贈与した財産)の復帰を認めるという点で、相続財産を一体のもとして捉える通常の相続分とは異なる性質の権利である。

 

913 条は、遺留分権利者である子が1 人の場合、処分任意分が2 分の1(子の遺留分は2 分の1)、子が2 人の場合、処分任意分が3 分の1(遺留分が3 分の2)、子が3 人以上の場合、処分任意分が4 分の1(遺留分が4 分の3)と規定している。孫やひ孫がいる場合は、遺留分の算定は、彼らが代襲する子(被代襲者)を単位として計算される(913 条の1)。

 

配偶者は、2001 年12 月3 日法律により、遺留分権利者としての地位を獲得している。卑属がいない場合のみ、配偶者は4 分の1 の遺留分を有する(914 条の1)。

 

なお、2006 年法律により、遺留分侵害を理由とする贈与・遺贈の減殺を遺留分権利者が事前に(被相続人の生前に)放棄することが認められている(929 条以下)。ただし、被相続人の同意を要求しなければならない(929 条1 項)、放棄には公証証書が必要である、相続人の同意は他に誰

もいないところで公証人によって収受されなければならない(930 条)など、さまざまな厳格な要件を定めている。厳格な要件を求めているのは、父母の子どもたちへの影響力の濫用を防ぐためである67。

 

 

 

すみれ

「遺留分は、処分できるものの中から分けるのか。濫用を防ぐためにって、以前は、親から子供たちへの影響力の濫用あったってことかな。」

 

 

 

 

(2) 配偶者間の特則

 

夫婦間では、生存配偶者の保護の要請と、子の利益の保護との間の調整、とりわけ相続人である子が夫婦から生まれた子ではない場合の調整を考慮して、特別の処分任意分の規律がある。死亡配偶者が、夫婦から生まれた子あるいはその卑属のみを残していた場合、死亡配偶者は、他方の配偶者に対して、①4 分の1 の所有権および4 分の3 の用益権、②財産全部に対する用益権、③通常の処分任意分の所有権を与えることができる(1094 条の1 第1 項)。なお、死亡配偶者が、夫婦から生まれた子以外の子またはその卑属を残していた場合については、特別の処分任意分はなく、通常の処分任意分の規律にしたがう。

 

2 遺留分減殺

 

2006 年6 月24 日法律以前は、遺留分減殺は現物返還が原則であったが、同法律により、価額弁償が原則となった。924 条1 項は、「恵与が処分任意分を超過した場合は、受恵者(筆者注:受贈者および受遺者)は、相続権の有無にかかわらず、その超過分がどれだけであっても、恵与の超過部分を限度として、遺留分権利者に弁償をしなければならない」と規定する。

例外的に現物返還が行われるのは2 つの場合である。第1 は、受恵者の意思による場合であり(924 条の1)、第2 は、受恵者の支払い不能の場合である(924 条の4)。

 

 

すみれ

「遺留分は持っている人にお金で返すのが原則なんだ。原則が変わるってことは、結構大きいよね。現物で返すと上手くいかないことが多々あったのかも。日本もそうなるかな。でも共通財産と処分できる財産と分けてないし。分けてないと、自宅とかお金に変えるのが難しいものもあるし。」

 

 

 

 

 

5 遺産分割方法

 

1 遺産の分割

 

遺産は共同相続人間での分割がなされるまで、その共有indivision という状態におかれる。共同相続人はいつでも他の相続人に対し分割を請求することができる(815 条1 項)が、共有状態は長期にわたることも多い。そこで、遺産共有中の法律関係を明確にできるよう、1976 年12 月31 日の法律及び2006 年法律によって立法がなされた(815 条の2 以下)。

 

遺産の消極財産には、被相続人の債務のほか、相続財産の負担charge de la succession、遺贈があるとされる。被相続人の債務は、相続開始時に共同相続人間で当然に分割され(870 条、1220 条)、相続債権者は各相続人に対して分割して請求をすることになるが、遺産の積極財産から遺産分割前に先取りして弁済を受けることも認められている(815 条の17)。相続財産の負担は、被相続人の死亡を直接の契機として生じた債務で、被相続人の債務ではないが、被相続人自身が負担すべきと考えられる債務で、葬式費用や最後にかかった治療費などが含まれる。基本的に被相続人の債務と同様に扱われる。

 

遺産の積極財産を分割する方法としては、協議上の分割partage amiable と裁判上の分割partage judiciaire がある。協議上の分割は、共同相続人全員の自由な合意によってなされるものである(819 条1 項)。裁判上の分割は、協議が調わない場合、共同相続人中に未成年者、成年被後見人、不出頭者がいる場合になされる。裁判上の分割において、裁判官は割当分lot を用意するのみで、財産の分配をすることはできない。各自がどの割当分を取得するかは、共同相続人間の合意またはくじによって定める68。割当分が不平等である場合には、多い割当分を取得した者から、少ない割当分を取得した者に対して清算金soulte を支払うことで調整する(826 条3 項)。

 

 

 

すみれ

「くじ引きで割合決めるの!すごいな。どきどきするな。くじ引く順番はどうやって決めるのかな。やっぱりくじで決めるのかな。くじなら潔く割り切れるんかな。あー、くじで決まったんならいいか。しょうがない、帰って寝るか、ってなるかな。」

 

 

 

2 配偶者の貢献度・必要に応じた遺産の分割を実現するための措置

 

(1) 扶養定期金に対する権利

 

生存配偶者は、要扶養状態にある場合、扶養定期金を遺産から先取りすることができる(767条69)。遺産から先取りするというのは、遺産に法人格は認めないものの、積極財産と消極財産の集合体を独立した財産体を考えるフランス相続法の特徴によるもので、実質的には相続人全員で負担することを意味する。

 

 

このような請求が認められる根拠は、民法典212 条の定める配偶者間での扶助義務に求められている。フランス相続法は、被相続人の死亡後も遺産分割がなされるまでは、遺産をあたかも被相続人の人格が継続しているかのように考える特徴があるが、ここでも、夫婦の一方の他方に対する扶養義務が、死亡後も遺産分割までは継続するから、遺産が扶養義務を負うと説明される。

 

よって、扶養定期金の額は、生存配偶者の必要性(要扶養状態)と遺産の純益の額(積極財産の額から消極財産の額を差し引いた額。死亡した配偶者の財産状況に相当する)によって定まる70。遺産が扶養定期金を支払うのに十分でない場合には、特定遺贈の受遺者も遺言によって取得した割合に応じて負担しなければならない(767 条2 項)。ただし、遺言者(被相続人、死亡した配偶者)が、この受遺者については他の遺贈よりも優先して弁済することを明示していた場合には、相続人と他の受遺者が負担してなお十分でないという場合に初めて、扶養定期金を負担する(767条3 項、927 条)。

 

扶養定期金の請求は、配偶者の死亡時、または相続人らが以前は配偶者に対して与えていた給付の履行を中止した時から1年以内に主張することが求められるが、遺産が共有状態にある場合には、相続人である配偶者が共有財産において権利を有している、すなわち被相続人が配偶者から相続権を剥奪していない限り71、この期間は遺産分割が完了するまで延長される(767 条1 項)。

 

なお、生存配偶者が要扶養状態になる場合として、かつては、死亡した配偶者が自由分をゼロにするほどの恵与をしていた場合が挙げられていた。生存配偶者は遺留分を有しなかったから、死亡した配偶者が自由分を超えて恵与をおこなっていたとしても、遺留分を主張することができず、相続における取り分がないことさえ起こり得た。しかし、2001 年法律により、生存配偶者にも遺留分が認められ、また、相続権自体も拡大したため、現在では扶養定期金請求権の必要性は低くなっている。

 

(2) 居所の優先的割当

 

生存配偶者は、死亡した配偶者の遺産分割において、その者が実際に居住のために用いている建物等に対し、優先分与権が認められており(831 条の2)、とりわけ死亡した配偶者が所有する建物に居住していた場合には、この優先分与権は法律上当然のものとなる(831 条の3 第1 項)(1(4)参照)。居所の所有権が相続分を超える場合には、他の共同相続人に対して清算金を支払うことによって調整がなされる。

 

(3) 被相続人に対する寄与

 

フランスでは1935 年7 月29 日のデクレ・ロワにより農業擬制賃金の制度が創設された。この制度は主に農家を対象とし、被相続人に複数の子がいて、子の1 人は家族的農業経営に従事していたが、他の子は実家から離れ、給与収入を得ていた場合に、家族的農業経営においては給与が支払われないことからくる、子らの間での不公平を調整するものである。無給で働いた子は、当該農業経営の経営者である被相続人の死亡に際し、その遺産から農業擬制賃金を先取りすることが認められた(1939 年7 月29 日のデクレ63 条以下)。

 

この制度は当初は、子が家族的農業経営に従事した場合のみを対象としていたが、その後、1989年には、配偶者が相手方配偶者のおこなう手工業的事業または商業的事業に協力した場合、1999年には、配偶者が相手方配偶者のなす農業経営に協力した場合にも認められるようになった。ただし、配偶者に認められる擬制賃金は、被相続人死亡時に発効している年間最低賃金の3 倍で、遺産の積極財産の25%を上限とする(1989 年12 月31 日の法律14 条、農事法典L.321-13 ないし321-20)。10 年以上従事・協力し、報酬を受け取っていないこと、経営から生じる利益も得ず、損失を負担していないことも必要である。

 

家族間で、寄与に対して報酬を与える等の契約が締結されていればそれに従う。契約が締結されておらず、上記類型の家族経営にもあたらないが、本来報酬を得られた等の事情がある場合には、不当利得返還訴権成立の可能性がある。被相続人に対して寄与した者は、被相続人の死亡に

より、相続債権者となり、遺産分割前に遺産から先取りすることができる。

 

また、判例は、扶養義務を負っていないにもかかわらず、被相続人を介護し、時間及び費用を費やしたこと、それによって被相続人は介護施設に入らずにすみ支出を免れたことをもって、不当利得返還訴権が認められるともしている72。額をどのように認定するのかなどの基準は明らかではない。また、高齢者の世話・介護を、遺産目的でなすことになりかねず、家族間での争いを助長するという指摘もある73。

 

 

すみれ

「子どもだけでなくて、夫婦も一緒に仕事をしているところが多いのかな。寄与分てお世話した分何かくださいってことかな。言いづらい気もするけど。でも言う人もいるんだろね。そんなに持ってない方がいいかもね。」

 

 

 

(4) 生命保険

 

生命保険Assurance-vie は、死亡保険、生存保険、混同保険(死亡の場合には被保険者の指定する者に、生存の場合には被保険者に対して保険金・満期返戻金などが支払われる)の3種をいう74。民法典に規定はなく、1930 年7 月13 日の法律等による保険法典における個別条文の規律に委ねられている75。

 

生命保険は、立法当初、死亡の場合に備える性質のものとして運用されていたが、現在では一種の金融商品で、多くの場合単なる投資手段と位置づけられている76。銀行などに口座を開き、その中に投資信託を自由に組み込み、運用することで、資産形成をおこなう。

 

生命保険の契約者が死亡すると、生命保険の口座の残高が、契約者が指定していた受取人に支払われる。受取人は相続人か第三者か、個人か団体かを問わない。将来生まれてくる子の利益のために締結された生命保険契約も有効とされている(1930 年7 月13 日の法律63 条2 項)。それゆえ、相続財産を譲渡する手段の一つとなっており、相続法の範囲外での譲渡となる。受取人が、配偶者またはパクスのパートナーの場合、相続税は非課税である。

 

 

すみれ

「保険法ができたのは、日本より70年以上はやいんだね。相続法の範囲外だし。範囲外って、法律であるのかな。判例かな。生命保険て単なる投資手段として位置づけられているんだ。ちょっと違うような気もするけど。」

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA