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相続に関する法律 フランス④
2015年12月20日

 

立教大学 幡野弘樹

金沢大学 宮本誠子

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より

平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会

法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

 

 

 

3 被相続人の意思に基づく処分

 

被相続人の意思による無償譲渡を、恵与libéralité といい、フランスの伝統的概念である。2006年6 月23 日の法律第728 号(以下、「2006 年法律」と略称する。)により、生存者間の贈与と遺言(遺贈)がこれにあたることが明文化され、(893 条49)、法定相続分を修正するものとして位置づけられている50。

被相続人の意思による処分にはこのほか、契約による相続人の設定institutioncontractuelle51、恵与分割libéralité-partage がある。

 

 

すみれ

「贈与と遺言をたして恵与、フランスの伝統なんだ。2006年に入った言葉。ちなみに2007年には民法に信託が入る。何で教授はフランスの法律を勉強してるのかな。」

 

 

1 贈与(贈与分割を含む)

 

(1) 贈与の一般規則

 

贈与は、通常は生前贈与、すなわち生存者間での契約によってなされる贈与をいう。贈与者が贈与対象物を現実にかつ撤回しえないものとして手放し、それを承諾する受贈者に無償で与える行為である(894 条)。

 

贈与は贈与者・受贈者間での双務契約で、契約の通常の形式にしたがってなされるが、フランスでは、贈与契約は、公証人によって作成された証書である公証証書acte notarié によってなされることが要求されている(931 条52)。贈与は贈与者の資産patrimoine53に相当の影響を与えるため、公証人が贈与者の意思を確認する目的を持つ。公証証書によらない場合は、要式違反により絶対無効である(931 条)。贈与者がこれを追認することは認められず、正式の方法によってやり直さなければならないが、贈与者の死亡後に、贈与者の相続人が追認することは認められている。

 

 

すみれ

「人にあげるのに、公正証書にしないといけないのか。最初に確認しておいて予防するつもりかな。遠くにいる子供に振込みでお金をあげる場合も公正証書作るのかな。」

 

 

 

 

受贈者の承諾は明示的になされなければならず、贈与は、承諾の日から、贈与者を拘束し、贈与の効果が生じる(932 条1 項54)。承諾は、贈与の証書が作成された後に、公署証書acteauthentique によって別途なすことも可能である。その場合は、贈与の効力は、贈与の承諾を認定する証書を贈与者に通知した日から生じる(932 条2 項55)。

 

贈与対象物が特に現金や小切手等である場合には、贈与者から受贈者に直接手渡す方法がとられることがある。これを現実贈与don manuel という。現実贈与は、贈与が公正証書によってなされるという規律に反しているが、判例が古くから一貫して有効としている。

 

 

(2) 配偶者間の贈与

 

婚姻中になされる配偶者間の贈与についても、贈与に関する一般規定が適用される。ただ、撤回についてのみ例外的に、配偶者間においては常に撤回可能とされている(1096 条56)。撤回は、単独での意思表示によりなすことができる。また、婚姻中に夫婦間でなされた贈与において、撤回権を放棄することは、それが贈与証書内でなされたものであっても、贈与後になされたものであっても、無効である。

 

それゆえ、贈与のうち、撤回不可の原則と両立し得ない約定を含む贈与も、配偶者間においては無効とならない。将来財産の贈与donation de biens à venir、随意条件付贈与、将来債務弁済の負担付贈与、贈与物処分権留保付贈与も(943~946 条57)、配偶者間においては有効になされうる。

離婚は法律上当然に配偶者間の贈与契約撤回の効果をもたらす。

 

(3) 契約による相続人設定

 

配偶者間においては、夫婦財産契約の中に、将来財産の贈与に関する条項を含めておく方法で、贈与をなすことも可能である。契約による相続人設定institution contractuelle という方法であり、これは、財産の処分者(設定者instituant と呼ばれる)が、自己の財産の全部又は一部を与えるとし、受益者(被設定者institué と呼ばれる)がそれを承諾することによるものである。

 

フランス民法典は、将来の相続に関する約定を禁止している(722 条)58ため、契約による相続人設定は原則として認められないが、例外として、夫婦財産契約において、一方配偶者から他方配偶者に与える、または第三者から配偶者双方もしくは配偶者間に将来生まれる子59に与えるとの条項を入れることによって設定することが認められている(1082 条60、1093 条61)。

 

 

すみれ

「受益者が出てきた。でも信託で使っている受益者とは違う。」

 

(4) 贈与分割

 

(a) 恵与分割とは

 

フランス民法典には、かつては尊属分割partage d’ascendants と呼ばれ、2006 年法律以降は恵与分割libéralité-partage と呼ばれている制度がある。恵与libéralité は贈与と遺贈とを含めた無償譲渡を意味し、尊属分割・恵与分割も、贈与の形式をとる場合と遺贈の形式をとる場合があるが、いずれの場合においても、処分者(贈与者・遺言者)の処分行為により財産が移転するとともに、処分者の死亡時に遺産分割を経ることなく分割の効果が確定する。尊属分割・恵与分割によると、被相続人は、推定相続人以外の者を指定して財産を取得させ、推定相続人を除くことができると同時に、本来遺産分割は相続人らが行うものであるが、それを自ら行うことができる。 贈与の形式をとる場合を贈与分割donation-partage(1076 条以下)、遺言の形式をとる場合を遺言分割testament-partage(1079 条以下)という。前者では、分割は被相続人の死亡前におこなわれることになる。後者では分割は死亡時になされる。

 

かつては、親がその子らに財産を分配することを目的とする制度であったため、尊属分割と呼ばれていた。しかし、2006 年法律により、より広く推定相続人に対しても(1075 条)、また、推定相続人であるか否かに関わらず様々な世代の卑属に対しても(1075 条の1)、分配することが認められるようになったため、恵与分割と称されている。

 

 

すみれ

「おじいちゃんが孫にあげたりすることができるってことか。」

 

 

(b) 贈与分割

 

贈与分割は、贈与の規律に従い(1075 条2 項)、公証証書によってなされる(931 条)。

贈与分割の対象となるのは、現存財産のみであり、将来財産を含めることはできない(1076 条1 項)。必ずしも処分者の財産全てを対象としなくてもよく、一部でもよい。夫婦共通財産を対象とすることはできず、処分者が単独で処分可能な財産のみを対象とする62。配偶者双方が、贈与分割によって相互に相手方に財産を分配することは認められている。また、贈与分割の形式を用いて、個人企業または会社の社員権の分配および分割を行うことも可能である。

 

すなわち、1075条の2 第1 項は、「処分者の財産に、工業、商業、手工業、農業または自由業の性質を有する個人企業、または工業、商業、手工業、農業または自由業の性質を有する活動を行う会社の社員権が含まれており、かつ処分者が個人企業または会社において指導する職務に就いている場合、処分者は、贈与分割の形式を用いてかつ1075 条及び1075 条の1 に規定する条件の下で、同条に規定されている1 または複数の受贈者と1 または複数の他の者との間で、個人企業または会社の社員権の分配および分割を行うことができる。」としている。

 

贈与分割によって、処分者が、子の1 人に財産全部を割り当て、他の子らには清算金soulte(多くを取得した者から、少ない取り分の者への支払い)のみを与えるという分割をすることも判例で認められるに至っている63。相続人間の平等に反するおそれがあったが、2006 年法律が、遺産分割における割当分lot(被相続人から取得する財産の総体)が相続人間において不平等である場合に、清算金によって調整すると明文で認めており(826 条1 項)、判例の立場を補強している。

 

かつて、遺留分減殺は現物返還によるのが原則であったが、贈与分割に対する遺留分減殺は価額弁償によってしかなしえないとされていたため、受益者にとっては財産を贈与分割によって取得することは、減殺請求を受ける際のメリットであった。しかし、2006 年法律が、遺留分減殺を原則として価額弁償によるとし(924 条1 項)、遺留分減殺における贈与分割のメリットはなくなっている。

 

2 遺贈(遺言分割を含む)

 

(1) 遺言制度

 

遺言は、一方的法律行為であり、要式行為で、撤回可能性を備えている。遺言の内容は必ずしも遺贈legs に限らないが、民法典第3 編第2 章は、もっぱら財産処分としての遺贈を規定している(895 条64)。

 

(a) 遺言の方式

 

普通方式遺言にあたる通常遺言と、特別方式遺言にあたる特別遺言があり、通常遺言は、自筆証書遺言(970 条)、公正証書遺言(971~975 条)、秘密証書遺言(976~979 条)の3種類、特別遺言は、軍人遺言(981~984 条)、隔絶地遺言(ペストその他伝染病による隔離者の遺言(985 条)

および公証人役場が存在しないヨーロッパ内のフランス領の島で、フランス本国との交通が不能な場合になされる遺言(986 条))、海上遺言(988~995 条)、国外遺言(999 条)がある。

 

(b) 遺言能力

 

有効に遺言をなしうるためには、遺言者が健全な精神状態にあることが必要である(901 条)。

裁判官は、遺言の内容、遺言者の行為全体をみて、遺言作成時の精神状態を評価する。満16 歳未満の者は、遺言能力が認められてない(903 条)。満16 歳に達した未成年者は、成年者が処分することを許される財産の2 分の1 を限度として遺言での処分が許される(904 条1 項)。

 

(c) 遺贈の種類

 

遺贈には、包括遺贈、包括名義の遺贈、特定遺贈の3種がある。

包括遺贈は、遺言者が死後に遺す財産の全体を取得する可能性を1人または数人の者に与える遺贈である(1003 条)。包括名義の遺贈は、その対象が財産の一部分である場合をいう(1010 条)。

 

日本法でいう包括遺贈は、包括遺贈と、包括名義の遺贈をあわせたものに相当する。特定遺贈は、遺言者が死後に遺す財産のうち、特定または不特定の具体的な財産を取得する可能性を与える遺贈である。特定受遺者は、相続人または包括受遺者に対し、当該遺贈物を請求する権利を有する(1010 条2 項、1014 条)。

 

(2) 遺言分割

 

遺言の形式をとって、財産を与える方法として、遺言分割もある。尊属分割・恵与分割の一種であり、被相続人自らが財産を分配することになる(31(4)(a)参照)遺言分割は、遺言の形式をとるが、遺贈ではなく、遺産分割の効果が生じる。遺言分割により財産を受ける者は、相続財産の新たな分割を主張するために遺言を援用することを放棄することができない(1079 条)一方で、その遺留分に等しい割当分を受けなかったときは、減殺請求の訴

えaction de réducution を提起することができる(1080 条)。

 

 

すみれ

「遺言は日本とだいたい一緒かな。遺留分の減殺は当然には認められないんだね。」

 

 

 

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