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認知症などへの備え 家族信託
2015年11月08日

 

すみれ

「―親が倒れて以来、父親の様子を毎日観察してきた俺の目には、その足取りは日常生活へと向かうのではなく、確実に母親のいるところへ向かっているように映っていた。

ラストワンマイルをどのように歩んでいくのか、そこに何が待ち受けているのか、それだけが俺にとっての、そして父親にとっての問題だった。

 

人間の一生には、いくつかの転轍点が用意されている。子どもから青年になるところに小さなカーブがある。そこで自我に出会い、阻隔感に悩んだり、親との葛藤に苦しんだりする不安定な時間をくぐり抜けることになる。

 

青年期を過ぎて、やがて心身ともに成熟した大人になる成長のピークのところに、最初の折り返し点がある。そこからこれまで辿ってきた旅程を、降り下っていく。

 

気候は同じようでも、春の風景と秋の風景が違うように、そこに見える風景は成長期に見たそれとは全く別の色合いに染められている。秋は日を負って深まり、やがて紅葉していた葉が落ち始める。明らかに日が短くなり、肌に冷たい空気を感じ始める頃、もうひとつの転轍点が見えてくる。

 

その転轍点が視野に入ると、そこから遠ざかったり、別の迂回路に入ったりというプロセスが待っている。成熟し、老いていく体と、それを受け入れたり抗ったり精神が拮抗し、葛藤する。そして、いよいよ最後の転轍点を跨ぎ越すという段になる。

 

そこまでの転轍点は、いったん跨ぎ越しても、再び戻ってやり直すことも可能であったが、最後の転轍点だけは、戻ったりやり直したりすることができない。

 

死の否認から、怒り、取引、鬱を経て需要に至るという有名なキューブラー=ロスの理論とは相容れない。俺が見ている現場で起こっていることが、そう告げているように思えるのである。

 

俺には父親が、この最後の転轍点をどこかで跨ぎ越してしまったということが分かる。医師にも、本人にもそれは分からない。なんら科学的な根拠があるわけでもないし、実証的な事例があるわけでもない。

 

それでも、その変化がそれまでの変化とは質的にも意味的にも違うものであることが分かる。それが分かるのは、最も近くにいて、ともに生活してきた近親者だけだ。なぜかは分からないが、俺はそのときに何か発見でもしたかのように、そのことを確信したのである。

 

目の前で手を拘禁され、点滴の管につながれ、酸素マスクをして朦朧としている父親を見ていると、もう母親の待っている場所のすぐ近くに逼っているように見えた。―」

 

ポリー

「すみれ、おはよう。どうかしましたか。」

 

 

すみれ

「ポリー、おはよう。認知症の父親を介護した人の本読んでた。」

 

ポリー

「そうですか。」

 

すみれ

「この前の宮崎県での車の事故とか、名古屋での電車の事故とか、何か他に方法はなかったかな。」

 

ポリー

「すみれ、車の免許証って、返すのは勇気要るんじゃないですかねぇ。車がないと今までの生活ができなくなるし。自由に外で出回って海に行ったりしたいけど、車や電車での事故は怖いですね。」

 

番人

「危険はあると思うけど、認知症になっても、やっぱり外に出たい時にでたいな。引き際は自分で考えたいよ。運転は、未来のある人を傷つける可能性があるから、車を運転しないでも生活できるようにしておきたいな。」

 

ポリー

「番人も色々考えているんですね。」

 

番人

「あぁ。介護したりされたりする関係もこれから起こってくるだろうし。尿取りパットやベッドに移す時の身体の使い方も、負担がかからないような方向に変わってくるかもな。」

 

すみれ

「―役所や銀行への届出だけでもあちらこちら走り回らなければならない。関心でいる暇などはないというように。さまざまな用事が次から次へと押し寄せてきた。まずは、銀行から自動引き落としになっている保険や年金の届出をしなければならない。もともと仮住まいのつもりで移り住んできた実家であったので、電気、ガス、水道から電話まで、あらゆる名義も、アパートの管理人の名義や、町会の通帳の名義もすべて父親のものであり、それらすべてを書き換える必要があった。

 

相続の書類を集めるのも一苦労だった。相続人の印鑑証明やら戸籍謄本、父親の改正原戸籍など、なかなか一回ではすべてをそろえられない書類集めに奔走しなければならないのである。

 

まったく人間が生きていくというのは、さまざまなしがらみや経済にがんじがらめにされるということなのだとおもわずには いられなかった。

 

会社通いの間の時間を見つけてこれらの書類づくりをしているうちに、またたく間に数週間が過ぎ去っていった。―」

 

 

 

 

 

 

 

引用「俺に似たひと」2012平川克美 (株)医学書院

 

参考:

 

 

「別冊判例タイムス36」2013(株)判例タイムス社

 

「相続対策で信託・一般社団法人を使いこなす」

2014 宮田房枝 (株)中央経済社