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「受託者の無限責任」の記事について
2019年08月20日

民事信託実務研究会(谷口毅司法書士主宰)のメールマガジン(2019716日号)の記事です。

 

谷口司法書士は、東京大学出身で日本司法書士会の民事信託に関するチーム、民事信託推進センターでも人気講師です。

学ぶことの方が多いです。

 

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なぜ、受託者は無限責任を負うのか?

本日は、鳥取の司法書士・行政書士の谷口毅が担当します。

これを書いている今は、ちょうど3連休の最後の夜。

一日中、何百通もの戸籍と格闘していたところです。

 

 

さて、簡単なクイズです。

受託者が信託事務を遂行する際に、債務を負った。

受託者はこの債務につき、無限責任を負わなくてはならない。〇か×か。

 

ちょっと勉強された方なら分かるでしょう。

正解は〇ですね。

ところで、読者のみなさんの中で、受託者が無限責任を負うという根拠の条文を、見つけた方はいらっしゃいますでしょうか?

実は…

信託法の中で…

受託者が無限責任を負うことは、どこにも明記されていません!

いや、敢えて言えば21条2項の反対解釈、とはいえますが、ストレートには書いていません。

 

 

一方、合名会社の場合はどうか?

会社法580条などで、「持分会社の債務を弁済する責任を負う」と明記されていますね。

 

 

なぜ、持分会社では無限責任を明記されているのに、信託では無限責任が明記されていないのでしょうか?

 

これ、要するに、「信託には人格がない」ということが影響しています。

 

合名会社は、会社と社員が別人格です。

会社と社員は同じではないので、会社の責任を社員に負わせるためには、法律に明記する必要があります。

 

でも、信託には人格がありません。

だから、法律に明記しないでも、無限責任を負うのは当たり前のことなのです。

 

例えば、受託者が、信託財産に属する家を修理するために工事を発注しました。

しかし、修理業者からすると、信託事務のために修理を発注されているのか、それとも、個人的な都合のために発注されているのかなんて、見分けがつくはずがありません。

受託者が「信託のためにする意思」をもって発注しているのかどうかなど、修理業者の目からは容易には見分けがつかないからです。

 

 

また、信託財産も固有財産も、いずれも受託者の所有物なので、所有権は1つしかありません。

これを区別するのは、「分別管理義務」という、信託の内部的な義務に過ぎないため、対外的に主張できるものでもありません。

 

そうすると、修理業者からみれば、「あなたが発注したんでしょ!?信託だとかなんとか、そんなこと知ったことではないので、あなたの所有する全財産で払ってください!」と言えるのが当然のことになります。

 

なので、法律の原則から言えば、固有財産と信託財産の区別に関係なく、自分が発注したものは、自分の所有する物で責任を負う、ということになります。

ただ、これを徹底すると、受託者が自分のために負った債務でも、信託財産に強制執行をかけることができてしまいます。

そこで、信託法は、受託者が自分のために負った債務で強制執行や相殺はできない、という特別の定めをおいて、信託財産の保護を図っているのですね。

これが倒産隔離機能です。

 

まとめると、

合名会社では、法人と社員が別人格であるから、「社員が無限責任である」と書く必要がある。

信託では、信託財産と固有財産が同一人物の所有に属するから、「無限責任である」と書かないでも全部に強制執行できて当然。

ただ、信託財産を守るために、「信託財産への強制執行や相殺は禁止する」という規定を置いている。

ということになります。

 

 

ちょっと難しかったでしょうか?

この辺をちゃんと解説している本があまりないので、ちょっと書いてみようと思ったところです。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・以上引用。下線は私です。

 

 

下線部分について考えてみたいと思います。

 

受託者はこの債務につき、無限責任を負わなくてはならない。

私なら、「受託者は第三者に対する債務につき、信託財産で足りない場合、原則として個人の財産で支払う義務を負う、とします。

無限責任という用語を使いません。根拠は信託法2条、21条、216条。破産法10章の2信託財産の破産です。ストレートに明記されていないから根拠法令ではない、というような考え方は難しいと思います。

「原則として」という用語は、法制審議会で受託者と受益者の無限責任を議論する際に出てきます(法制審議会信託法部会第1回など)。

 

倒産隔離機能

「倒産隔離」については、大垣尚司ほか編『民事信託の理論と実務』2016日本加除出版P255の見解を採って、私は利用に慎重になります。

 

 

 

 

合名会社では、法人と社員が別人格であるから、「社員が無限責任である」と書く必要がある。

信託では、信託財産と固有財産が同一人物の所有に属するから、「無限責任である」と書かないでも全部に強制執行できて当然。

この部分については、信託法177条に信う託債権と受益債権の優劣の記載があります。また会社法580条は、「持分会社の債務を弁済する責任を負う」と記載がありますが、その前に「次に掲げる場合には、連帯して、」とあります。条件がついており、持分会社と連帯債務者となる、ということが抜けているのではないかと思われます。

そのように考えると、合名会社の社員も当然に無限責任を負ってはいないということが出来ます。

 

 

まとめ

 

記事では、法人格に焦点が当てられ、合名会社の社員との比較を通じて信託受託者が無限責任であることは、信託法上に明記されない理由がまとめられている。

 

私は、信託の受託者が(当然に)無限責任を負う、とは考えない。根拠法令も信託法、破産法にある、と考える。

 

という違いになります。