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受益者代理人など
2018年02月17日

 

 

 

民事信託契約書のうち、受益代理人などを取り上げる。

 

1   受益者代理人など

 

1―1       条項例

 

チェック方式

(受益者代理人など)

第○条

□1 本信託の受益者【氏名】の代理人は次の者とし、□【本信託の効力発生日・

受益者が指定した日・受益者に成年後見開始の審判が開始したとき・    】から就任する。

【住所】【氏名】【生年月日】

□2 本信託の信託監督人は次の者とし、□【本信託の効力発生日・受益者が指定した日・          】から就任する。

【住所】【氏名】【生年月日】【職業】

□3受益者(受益者の判断能力が喪失している場合で、受益者代理人が就任していないときは受託者)は必要がある場合、【受益者代理人・信託監督人】を選任することができる。

□4 受益者代理人および信託監督人の変更及び変更に伴う権利義務の承継等は、その職務に抵触しない限り、本信託の受託者と同様とする。

 

1―2    解説

1項は信託契約締結時に特定の者を受益者代理人として定める。就任日は選択することが可能である。2項は信託監督人に関する事項であり、1項と同様の構成である。3項は、信託契約締結時に受益者代理人、信託監督人として特定の者を選任しない場合で、信託期中に受益者、受益者代理人又は受託者が、受益者代理人、信託監督人をそれぞれ選任することが可能にする定めである。

4項は、受益者代理人及び信託監督人の変更(任務終了事由[1]及び後任の指名方法[2])及び変更に伴って必要となる事務を、受託者と同様とするものである。ただし、受益者代理人及び信託監督人の職務に抵触することは出来ない。例えば、信託監督人は受託者を監督するための機関であるから、後任の信託監督人を選任する方法として任務終了前の受託者が、あらかじめ書面により指名する方法によることは出来ない。この場合、信託法135条で準用する信託法62条1項、8項により受益者が選任する。

 

2   成年後見関係者と家族信託・民事信託関係者の役割整理

 

2―1    前提

民事信託の関係者として、委託者、受託者、受益者及び受益者代理人を挙げる(信託法2条、信託法138条)

成年後見の関係者として、成年後見人(法定後見人)、後見監督人、任意後見人、・任意後見監督人、家庭裁判所を挙げる(民法7条、843条、民法849条、863条、任意後見契約に関する法律4条、7条)。

 

2―2    委託者

 

2―2―a   委託者の成年後見人は、民法103条の適用を受けるかを考える。民法103条は、任意代理人に関する規定であり適用はない。法定代理人である成年後見人の権限は、後見の事務として民法853条以下で法律として定められており、事務ができる行為は代理権がある。事務が出来るかの判断は、民法858条の解釈で対応する。

現在の実務上、成年後見人が民法103条の規定を超えるような行為をするときには、家庭裁判所や成年後見監督人への事前伺いが必要となっているが、運用上の扱いであり適用を受けるかどうかとは別の問題である。

委託者の成年後見人は、信託契約が可能であるかを考える。判断は民法858条の解釈による。信託契約が本人のためになるのであれば、家庭裁判所も不可能と回答する場合、その理由を説明する必要がある。成年後見監督人(民法864条)は、信託契約が本人のためになるのであれば、同意を与えない場合にはその根拠を示す必要がある。

成年後見人が信託銀行と成年後見制度支援信託契約を締結できる根拠としては、成年被後見人(本人)及び家庭裁判所の事務のためだと最高裁判所が判断しているからだと考える。

 

次は任意後見人について考える。任意後見人と成年後見人で異なる場合はあるのか。任意後見人は、本人との任意後見契約によって代理権を与えられている。任意後見監督人が選任されて、初めて代理権を行使することができる点が民法の委任契約、後見とは異なる点の1つである[3]。任意後見人には代理権の範囲が定められており、民法103条の適用はない。代理行為について迷う場合は、任意後見契約に関する法律6条の解釈による。信託契約について具体的な設計が代理権目録に定められていない場合は、任意後見契約に関する法律6条の解釈による。代理権目録に「不動産、動産及びすべての財産の保存、管理に関する事項」と定められ、「処分」が入っていない場合は、信託契約は財産の処分であり、信託契約の締結は不可能と考えられる。

成年後見人が信託契約を締結するのと比較し、改正信託法の施行日である平成19年9月1日以降に締結された任意後見契約については、厳しい解釈をすることになる。平成19年9月1日以降であれば、本人は信託契約を自ら締結することが可能であった。また任意後見契約締結時に代理権目録に記載することもできた。それらをあえてしなかったのは、本人の意思であり、尊重することが求められると解釈することが出来るからである。本人のためになるということをより明確に示すことが出来なければ、任意後見監督人の同意を得ることは難しいと考える(任意後見契約に関する法律7条)。

 

2―2―b    遺言と信託契約

成年後見人、任意後見人ともに本人の代理で遺言をすることはできない(民法973条、)。成年被後見人が遺言をするには制限があり、任意後見人の委任者が遺言をするには制限はない。後日の紛争に備え成年被後見人と同様の対策をしておく必要があると考える(民法973条)。遺言は禁止、制限があることから、信託契約についても制限がかかると考えることが出来るか。遺言との関係で信託契約をみると、遺言代用信託の場合、その効果は遺言に近いものがある(信託法90条)。異なる点として遺言は単独行為であるのに対して、信託契約は契約であり、遺言は本人が亡くなった後に効力が発生するのに対し、信託契約は通常、契約締結日から効力が生じる(民法985条、信託法4条)。このことから、信託契約は本人の意思を生前から尊重することに加え、相手方(受託者)の意思とも合致することを求められることになり、効果の面で遺言と同じ様な面があるとしても当然に制限されるべきではなく、本人の置かれた状況によって利用することが可能な場合もあると考えられる。

 

2―2―c   委託者の成年後見人

委託者の成年後見人は追加信託が可能だろうか。信託は、委託者の判断能力の低下や死亡により終了することがないように設計が可能な法律である。信託法の趣旨から、委託者に成年後見人が就任しても信託契約に記載がある場合、成年後見人による追加信託は可能となる。追加信託がどの程度可能か、という問いには、成年後見人には成年被後見人の身上監護の事務があり、その妨げにならない範囲に限られる。

 

委託者の成年後見人は、信託の変更が可能だろうか。委託者の成年後見人が信託の変更を行えると考えた場合、どのようなときを想定するのか。まず、単独で信託の変更を行えるという定めがあるとする。信託の目的が変更、受託者の負担増加、受益者の受益権の変更があると信託の安定性が損なわれる。よって、このような定めは信託法149条4項によっても定めることは出来ないと考える。仮に変更されても委託者の成年後見人に対して不法行為による損害賠償請求(民法709条)が可能と考える。また、このような定めがなされても受託者単独で、又は受託者と受益者の合意で信託の変更の定めを変更することになると考える(信託法149条2項、3項、150条)。

 

次に、受託者と合意して信託の変更を行う旨の定めがあるとして、信託の変更は可能だろうか。信託法149条2項2号を参考に、信託の目的に反しないこと、受益者の利益に適合することが明らかであるとき、の要件を満たせば成年後見人と受託者の合意で信託の変更はできると考えることができる。実務上、受益者の承諾を得ることが確実である。追加信託の場合と同様に成年後見人の身上監護の事務に妨げにならないことも前提となる。

 

受益者と合意して信託の変更をする場合は、受託者の利益を害しないことが明らかであるときは、変更することができると考える(信託法149条3項1号)。実務上は、受託者の承諾を得ることになると考える。成年後見人にとっての要件は、追加信託及び受託者との合意による変更と同様である。

 

信託の終了は可能だろうか。信託法163条1項2号から8号については、委託者の成年後見人が関与することは不可能であり考慮しない。信託の目的が達成されたとき、信託の目的を達成することができなくなったときは、信託の終了事由といる(信託法163条1項1号)。信託目的が客観的に判断できないような場合(例:受益者の安定した生活)、委託者の成年後見人が信託を終了させることは難しいと考える。

委託者のみで信託の終了を行うことができ、委託者が残余財産の受益者又は残余財産の帰属権利者と定められている場合、信託財産の独立性が疑われ、信託とみなされない可能性がある 。委託者の成年後見人は、成年被後見人の保護になる場合は、そのことを指摘できる。

受託者と合意して信託を終了させることが出来るか。信託目的に反することがなく、受益者の不利益にならなければ、終了することが出来ると考えることができる。実務上、受益者の承諾を得ることになる。他に信託財産の状況も検討事項に入れて、裁判所に特別の事情による信託終了の申立てをすることができる要件(信託法165条)を準用するという考え方も採ることができる。要件が揃っている場合には、委託者の成年後見人を監督する家庭裁判所に対する理解も得やすいのではないかと考える。委託者の推定相続人(成年後見人以外)が信託契約における残余財産の帰属権利者の場合も同様と考える。

 

成年後見人が委託者の推定相続人で、信託行為における残余財産の帰属権利者の場合、信託の変更及び信託の終了は可能だろうか。成年後見人が自ら財産を取得するために、信託を変更したり終了したりすることができるのだろうか。信託の変更、終了で検討した定めを置くことができない場合および信託とみなされない可能性がある場合は、この問いへの回答も同様と考える。成年後見人が残余財産の帰属権利者の場合であっても、裁判所に特別の事情による信託の変更、終了の申立てをすることができる要件を満たす場合は、信託の変更、信託の終了は共に可能と考える。実務上は受益者(受益者代理人)の承諾を得ることになる。

 

成年後見人が残余財産の帰属権利者となるのは、信託行為の効力発生時であり、そのとき、成年後見人は誰がなるのか不明である。家庭裁判所は、必ずしも申立人が推薦する候補者を成年後見人に選任するとは限らない。成年後見人になるのは推定相続人の意思だけでは決めることが出来ない。裁判所に特別の事情による信託終了の申立てをすることができる要件を準用する場合には、ある程度の範囲に限定されるが、客観的な要件も満たすことから可能と考えられる。

 

委託者の成年後見人は、信託の残余財産の帰属権利者を定めることができるだろうか。成年後見人が信託の残余財産の帰属権利者を定めることは、不可能だと考えられる。なぜなら残余財産の帰属権利者が定められている場合は、それが委託者の意思であり、定められていないときは信託法により残余財産の帰属権利者が法定されているからである(信託法182条)。

 

委託者の成年後見人は、信託の受益者の変更、受益権の割合の変更が可能だろうか。当初から変更について明確な基準があれば可能と考える(例:孫が20歳になったら、受益者に加える。子が住宅を購入したら受益権の割合を減らすなど)。

明確な基準がない場合、信託の変更と同じように裁判所へ特別の事情により信託の変更を命ずる申立ての要件を準用することが考えられる(信託法150条)。

委託者の推定相続人(成年後見人以外)が信託契約における残余財産の帰属権利者の場合、信託法150条と同様の要件が必要になると考える。

 

委託者の成年後見人は、自身を指図権者とすることは不可能と考えられる。信託行為において委託者が指図権者と定められている場合、委託者は自身の財産に関する権限を一定程度留保したものとして、自身の意思が信託に反映されることを考えて信託を設定したと推定される。委託者ではない成年後見人が行使することは信託行為にその定めがある場合を除いて不可能と考える。成年後見人が委託者の推定相続人で、信託契約における残余財産の帰属権利者の場合には、信託法149条と同様の要件が必要になると考える。

 

受託者は、委託者の成年後見人と信託報酬について協議することは可能か。

信託法54条では、委託者は原則として受託者の信託報酬には関わらない。信託行為に委託者又はその成年後見人との協議を要する旨の定めがない限り、受益者又は受益者代理人と協議することで足りる。受託者と成年後見人は、「信託報酬は協議して定める」と信託契約を変更することは可能だろうか。信託法149条と同様の要件が必要になると考える。

 

 

上記で考えた事例のうち、後見監督人が就任している場合に結論は変わりうるか。後見監督人の職務に制限はあるか。後見監督人が就任している場合、原則として結論は変わらない。しかし、後見監督人の職務は個々の見解に左右されるこがある。良く言えば画一的ではなく、事案によって方針が変わることもあり得るから、結論は変わり得ると考えておく方が信託行為の設計は安定する。

 

民事信託・家族信託が設定されていたからといって、後見監督人の職務が変わるということは基本的にはない。なお、後見監督人に信託行為の契約書などを閲覧する権利があるとした場合、信託設定時に委託者の能力などに疑いがある場合などは信託設定について調査を行うことが考えられる。

 

2―2―d   委託者の任意後見人

委託者の任意後見人の場合、成年後見人(法定後見人)のときと結論は変わるか。任意後見監督人の職務に制限はあるか。任意後見契約締結時の代理権目録に記載がない場合、職務を行うことは難しいと考える。裁判所への申立てができる事項に関しては、その要件を準用して任意後見監督人の同意を求めていくことになる。本人のためになるということを、成年後見人の場合よりも明確に示すことが出来なければ、任意後見監督人の同意を得ることは難しいと考えます(任意後見契約に関する法律7条)。平成19年9月1日以降に締結された任意後見契約については、2-2-aで述べたのと同様と考える。

 

2―3       受益者

 

2―3―a   受益者と成年後見人

受益者と成年後見人について考える。委託者の場合との違いとして、受益者は受益権を持っている点を1つ挙げる。受益者代理人が就任している場合の成年後見人の権限は、制限されるか。管理する財産が分かれているので原則として制限されない。受益者の成年後見人は、追加信託をすることが可能か。成年後見人の身上監護の事務に支障がない限り、追加信託をすることが可能であり、必要とされると考える。

 

受益者の成年後見人は、後任の受託者を指定することができるか。受益者の成年後見人は、後任の受託者を指定することは出来ないと考えられる。成年後見人の事務には財産管理もあるが、信託財産は別扱いとされており受益者の財産ではない。受益者の成年後見人は、身上監護の事務に支障が出るような場合であれば、利害関係人として裁判所に対して新受託者選任の申立てをすることが可能である(信託法62条)。受益者代理人は、後任の受託者を指定することが可能か。受益者代理人は、自らが代理する受益者のために、受益者の権利に関する一切の行為をする権限を持つ。よって受託者を指定することも可能である。

 

受益者の成年後見人は受益権の譲渡が可能か。受益者の成年後見人が受益権の譲渡を行うことは、不可能だと考える。受益権は成年後見人が管理する財産ではない。成年後見人が身上監護の事務をするために不動産の受益権を譲渡する必要がある場合、受託者とともに信託の変更及び受益者代理人を選任し、受益者代理人が受益権の譲渡を行うことが適切と考える。受益者代理人は受益権の譲渡を行うことが出来る(信託法139条)。

 

受益者の成年後見人は、受益者代理人へ就任することが可能か。成年後見人と受益者代理人は、扱う財産が違うのであるから可能と考える。適切な者が見つからない場合など、受益者代理人を成年後見人候補者として申立てをせざるをえないケースもある。家庭裁判所が適任者を就けることが可能であれば、第3者が成年後見人に選任されると受益者代理人の負担も重くならない。その際は、後見申立書において事情を記載する必要がある。

 

受益者の成年後見人は、信託の情報開示請求がどこまで可能か。信託行為の受益権の内容に関して、受託者に意見を言うことが可能か。

受益者の成年後見人は、信託に関して利害関係人として情報開示請求が可能であると考える。

ただし、貸借対照表、損益計算書などの書類又は電磁的記録に限らる。通帳の写しや信託帳簿は、それを財産状況開示資料としていない限り、開示請求することはできまない(信託法38条6項)。

信託関係者、主に受託者が開示請求に応じる義務はあるか。家庭裁判所が要求した場合はどうか。別扱いの財産なので原則として義務はない。例外として信託法36条6項の請求があった場合はその範囲で義務を負う。

 

受託者の信託財産の処分行為に関して、受益者の成年後見人は同意権者となることが可能か。「信託行為に受益者の同意が必要である。受益者に成年後見人が就任している場合は、成年後見人が同意権者となる」、というような定めがない限り、受益者の成年後見人が同意権者となることは不可能である。また、定めがある場合でも、受益者代理人が就任しているときは、受益者代理人が受益者を代理し、受益者の成年後見人が同意権者となることは不可能だと考える。

受益者の成年後見人は、受託者と合意して信託の変更、信託の終了を行うことが出来るか、についても同様の結論となる。

 

後見監督人が就任している場合、結論は変わり得るか。後見監督人の職務に制限はあるか。委託者の後見監督人と同様の結論になると考える。

 

2―3―b   受益者の任意後見人

受益者の任意後見人は、受益者代理人に就任することが可能だろうか。任意後見人は任意後見契約により、受益者代理人は信託行為により、扱う財産が異なることから可能と考える。任意後見人の場合、原則として任意後見契約に記載のある事項のみの代理権に限らる。よって、任意後見契約又は信託行為にその旨の記載があれば、受託者の指定も可能、受益権の譲渡が可能、受益者代理人と同順位で受益権の譲渡が可能になると考える。

任意後見監督人の職務に制限はあるか。委託者の任意後見監督人と同様の結論になると考える。

 

 

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[1] 信託法134条、141条

[2] 信託法135条、142条

[3] 小林昭彦ほか『新しい成年後見制度の解説』2017きんざいP242~