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前文及び信託の目的
2018年02月07日

 

 

 

民事信託契約書のうち、前文及び信託の目的を取り上げる。

 

1     前文

1―1      条項例

・委託者【氏名】と受託者【氏名】は、以下のとおり、信託契約を締結した[1][2]

 

・委託者【氏名】(以下「委託者」または「委託者【氏名】」という)は、受託者【氏名】(以下「受託者」または「受託者【氏名】」という)に対し、第1条記載の信託の目的達成のため、第2条記載の財産を信託財産として管理処分することを信託し、受託者【氏名】はこれを引き受けた(以下「本信託契約」という。また、本信託契約に基づいて設定された信託を「本信託」という。)[3]

 

・委託者【氏名】は、その所有する財産を信託財産とする信託契約を、受託者【氏名】と締結する(「以下、本信託」という)。本信託はこれにより効力を生じ、委託者は受託者に対して信託財産を引き渡す。

 

(前文+目的)

・第○条

委託者【氏名】(以下「甲」という)は、財産の管理・処分を目的として、本信託契約第○条記載の【氏名】の財産(以下「信託財産」という)を受託者【氏名】(以下「乙」という)へ信託し、乙はこれを受託し、次のとおり信託契約(以下「本信託契約」という)を締結した。

本信託契約の締結により、甲の判断能力が低下したとしても、さらに甲が死亡した後においても、信託された不動産においては乙がその必要性を認識したときに確実に売却することを目的とする[4]

 

1―2            前文の意義

日本国憲法における前文は、必ずしも具体的な法規を定めたものではないが、その法令の一部をなすから、各条項の解釈の基準を示す意味を持つ[5]

法令に前文がある場合、各本条の前に置かれ、その法令の制定の趣旨、目的、基本原則を記載することが多い。ただし、近年は見出しを目的、基本原則などとして第1条に置くものが多い。

前文の内容から直接に法的効果が生じるものではないが、その法令の一部を構成するものであり、各条項の解釈の基準を示す意義・効力を持つ。改正について憲法改正、法令改正の手続きを必要とする。

契約書に前文を置く場合、契約の当事者及び法的性質を示すのが最低限の役割となる[6]。また、契約締結に至った経緯、契約の理念等を記載する際は、分けて考える必要がある。経緯・理念等が契約書本文の各条項を解釈適用する上で重要な意味を持つ場合は、その理由を付して契約書本文に条項として組み入れることを検討する必要がある。その他の場合は、和解契約における道義条項に類似するものとして、前文に記載するのが適当である[7]

 

 

1 民事信託契約書における前文と信託の目的条項の位置付け

 

2     信託の目的

 

 

2―1     条項例

(信託の目的)

第○条

1          本信託の目的は、次のとおりとする。受託者は、信託の目的に従い信託財産を管理、運用、処分およびその他の目的達成のために必要な行為をする。

(1)受益者とその家族(扶養親族[8])の安定した暮らし。

(2)財産の円滑な管理および承継。

 

(目的)

第○条 本信託は、次の事項を目的として、第○条記載の信託財産を受託者が管理、運用、処分する。なお、第1号を優先する。

(1)信託した不動産の賃貸による受益者の生活の安定。

(2)信託した不動産の売却による受益者の生活の安定。

 

2―2    一定の目的が、信託行為にどのようにして現れるか

信託法2条における「一定の目的」は、受託者の従うべき行為基準となる。信託行為の中で、受託者がどのように行動することが求められているのかが記載されている部分が一定の目的である。

受託者は、委託者がいなくなったとしても信託行為の際に作成された文書を理解し、受益者のために行動することが必要とされる。

 

信託契約書に、受益者の安定した生活に資する、と抽象的な記載があり、その他に受託者の具体的行為の定めがない場合には、これが信託目的となり、受託者はその都度この信託目的を解釈しながら信託事務を執行していくことになる。

 

受託者の具体的行為として、受益者への毎月○○万円を上限とする生活費の給付、預金として管理する、不動産は賃貸不動産の○○の管理のみ第三者へ委託する、などの定めがある場合はどうか。受益者の安定した生活に資する、という記載を大枠に考え、生活費の給付などを行うことが目的となる。

 

2―3    信託行為時の信託の目的条項の定め方

信託の目的の複数記載、並列的記載、事情変更による信託の目的の変更を認められる。[9]

信託の目的は、当該信託の指針であり行動基準[10]との考えがあるが、「受託者の」行動基準であり、信託財産の管理、運用、処分及びその他の信託目的達成のために必要な行為をするための定めのことを指していると考える。

 

まとまりのない信託の目的は困る、願いと目的は明らかに違う、情緒的で重複気味なものは困る[11]という考えがある。しかしまとまりのない信託の目的も受託者が理解し受益者のために信託事務を行うことが可能であれば有効であり、信託行為時における願いと目的の違いは明らかではない。委託者が願いを記載することにより、受託者がそれに従い行動できるのであれば、その願いが信託の目的となる。ただし、後任受託者や次順位の受益者(指定がある場合)が読んで理解できるような記載が求められる。

 

情緒的で重複気味の記載があっても同じである。他に受託者の信託事務に関する記載がなく、その中から受託者が具体的行動を起こすことが可能であれば、情緒的で重複気味の記載が信託の目的となる。

 

民事信託契約書の条項に、「信託の目的」がない場合はどうか。ないとしても、受託者の信託事務などで信託の目的が明らかであれば、その信託は一定の目的を持つ信託として有効となる。例えば、受託者の信託事務条項に「受託者は、その裁量により信託不動産を管理・運用・処分することができる。ただし、信託金銭が○○万円以下になり受益者の安定した生活が保てなくなる場合に限る。」との定めがあれば、受益者の安定した生活が信託の目的となり、受託者はそのために信託金銭および信託不動産を管理・運用・処分する。

また「信託の目的」条項がない民事信託契約書において、信託財産に不動産が含まれれる場合、信託登記

受益者が複数いる場合に、信託の目的条項の中に「特に高齢の受益者を支援する」など具体的に記載し、一方の受益者から受託者の公平義務違反が問われないようにする、との考えがあるが、[12]記載があれば公平義務違反に問われないとは限らない。

 

2  同一の信託行為における公平義務の位置付け

 

 

記載があっても「受益者らへの生活費などの給付は、受託者の裁量による」と定められている場合には、劣後する受益者からは、受託者の判断基準が明確ではないとして公平義務違反または善管注意義務違反を問われる可能性がある。

そのような記載がなくとも、受益権が金銭給付の一種類であれば、一方に月10万円、一方に月20万円を給付すると信託行為で定めても公平義務には問われない。高齢の受益者に給付する金額を高くするのであれば、受託者に問われる可能性があるのは善管注意義務違反である。公平義務違反が問われる場合としては、信託金銭が1000万円、収支がプラスマイナスゼロにも関わらず高齢の受益者に対して20万円を超える不必要な金銭(例:新車の購入代金)を給付したときなどを想定することができる。

 

2―4      (専らその者の利益を図る目的を除く。)について

かっこ書きが入ったのは、その者(受託者)が利益を長期間に渡って得ると、信託財産の独立を基礎づけることができず、信託が成立したとはいえないので改正によりそのことを明確にしたとされている[13]

アパートを信託した場合、受託者が賃料の全てを実質的に取得することができるような信託行為は成立しないと考えることが出来る。受託者=所有者とほぼ同義になり、信託財産の独立が保てないからである。

専らとはどの程度なのか、参考となるのは信託法163条2項である。受託者が受益権の全部を取得しても、1年以内でその状態の解消が、売却などによって予定されているならば有効だとされている[14]。これは実務上のニーズから生まれたものであるが、法律が期間の限度を示しているものと考えることができる[15]

この点から、割合については信託目的との関係もあるが、2分の1を超える同一種類の受益権を1年以上取得し続けていると「専ら」と指摘される可能性があることを一つの基準と考える[16]。なお、信託設定後は信託法8条によって処理される。

 

2―5            信託の目的が信託行為の時とは違う基準として使われる場合

信託の存続可能性を判断する際の基準として、信託法149条(関係当事者間の合意等)2項1号、同項2号、同条3項2号、150条(特別の事情による信託の変更を命ずる裁判)1項、163条(信託の終了事由)1項。

 

3     信託の目的に関するリスク

 

ここでは5点のリスクを挙げる。1点目は公序良俗による制限(民法90条)である。信託の目的に記載があるものとして、「信託財産の運用のため、受託者は麻薬の売買を行う」、「信託財産の運用益は、各賭博場の主催者に交付する」などが挙げられる。信託の目的に記載はなくとも、信託設定の動機が公序良俗に違反する場合として、委託者が受益者に賭博による借金を背負っていて、返済手段として信託の目的に「信託財産を株式に投資して毎年の利益を受益者に交付する」などが挙げられる[17]

 

2点目は脱法信託(信託法9条)である。反社会的勢力が、一般市民を委託者、受託者として自らは受益者となる場合などがある。受益者ではなく指図権者となっている場合も、所有しているのと同一の利益を享受しているのならば、本条の適用対象となる可能性がある。信託財産について特許権法25条など法律上の権利に関する資格制限がある場合に、信託を利用してその権利を持っている状態(受益者が25条に規定する「日本国内に住所又は居所(法人にあっては、営業所)を有しない外国人」で受益権が特許権の利用の場合)にある場合も本条の適用対象となる。また、信託の目的条項に不動産流通税の節税、などと記載がある場合は、削除するか不動産の円滑な承継などと訂正する必要がある。なぜなら不動産取得税、譲渡取得税が非課税となるのは、信託の目的を定めた信託行為に対して、法律の定めにより非課税となる、という順序を辿る。節税を信託の目的として信託行為を行った結果、非課税となるわけではない。よって信託の目的として脱法と指摘される可能性がある。

3点目は訴訟信託(信託法10条)である。信託行為時における主たる目的が訴訟行為[18][19]であった場合、その信託は無効となる。

 

4点目は詐害信託(信託法11条)である[20]。信託法11条の適用対象は図3に示す。

 

3 信託法11条の構造

 

 

 

5点目は信託の目的が、信託の変更及び終了(信託法149条、150条、163条)事由となり得ることである。ここでいう信託の目的は、信託法2条1項における「一定の目的」と同義であるのか明確ではない。明確ではない事由が起こった場合に信託の変更又は終了が信託行為の内部の者の間でなされると、外部関係者が予期しない不利益を受ける可能性がある。逆に信託の目的が「受益者が20歳になるまで月20万円の学費の助成」など明確な場合は、信託の目的に反するか反しないか、受益者又は受託者の利益を害さないか、目的達成か不達成かの判断を行いやすくなる。

 

 

4     対応

4―1            専門職及び金融機関の対応方法

1点目の公序良俗による制限(民法90条)に対しては、公序良俗違反により無効となった場合に備えて、委託者、受託者及び受益者に表明保証条項および違反にかかる損害賠償条項、口座の閉鎖条項を定める。貸付けがある場合または貸付けの予定がある場合は、相殺条項を定める。信託口口座開設時に、相殺に関する受託者の事前承諾を求めるなどの対応を考える。

2点目の脱法信託(信託法9条)に対しては、信託財産について特許権法25条などの所有の資格制限がないかの確認、受益者及び受益権の内容の確認が必要となる。

3点目の訴訟信託(信託法10条)に対しては、信託設定の経緯、信託行為時における信託目的、他の信託条項との総合解釈、受託者の職業、委託者と受託者との関係などの確認[21][22]が求められる。

4点目の詐害信託に対しては、委託者の負債(保証を含む)及び責任財産の確認をする、表明保証条項を設ける、などにより対応する。

5点目の信託の目的が信託の変更及び終了事由となり得ることに対しては、(1)信託法149条4項による定めを設ける、(2)当事者間では重要な変更ができないように金融機関への事前または事後の報告義務を必要とすることを定める、(3)信託法150条の申立てをする前に、金融機関へ事前または事後の報告義務を課することを定める、(4)信託法163条1項1号による終了による場合は、金融機関への事後報告の義務を課することを定める、などの対応が考えられる。

 

4―2            追記・不動産登記における信託の目的

 

信託の目的条項がない民事信託契約書において、信託財産に不動産が含まれているとき、信託目録中の信託の目的(不動産登記法97条1項8号)を登記申請できるか。民事信託契約書中に、受託者が信託財産(信託不動産)の管理又は処分をする旨が記載されている場合は、信託登記の申請情報において信託の目的を抽出し、記載して申請することが可能と考える(登記原因情報として民事信託契約書または別途登記原因証明情報を作成し添付する)。受託者が行うその他の信託目的の達成のために必要な行為についても同様と考える。

また、受託者が信託不動産の処分(売却等)を行うためには、信託目録中の信託の目的欄に「処分」の記録を要するという考えがある[23][24]。しかし、信託登記は信託行為後に行われるのであり、信託の効力が発生しているということは、信託法2条1項における「前略―財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為―略―」を行う権限が受託者に付与されていることを意味する。

よって、信託目録中の信託の目的欄に記載すべきは、「処分できること」ではなく(任意的記載事項となる。)、受託者による信託財産の管理又は処分その他の当該目的の達成のために必要な行為の「制限」であると考える。信託目録中の信託財産の管理方法(不動産登記法97条1項8号)についても原則として受託者は信託法26条の信託財産に属する財産の管理又は処分及びその他の信託の目的の達成のために必要な行為をする権限を持つ[25]。従って、記載すべきは受託者の権限に対する制限、受益者が受託者の行為によって権利を有することがないにも関わらず信託行為によって認められる権限、及び登記先例上必要な記載[26]となる。

 

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[1] 新井誠編『高齢社会における信託制度の理論と実務』2017日本加除出版P179

[2]伊庭潔『信託法からみた民事信託の実務と信託契約書例』2017日本加除出版P117

[3]遠藤英嗣『家族信託契約』2017日本加除出版P204

[4]杉谷範子『空き家にさせない!「実家信託」』2017日本法令P221

[5] 参考として『法律学小事典』2016有斐閣

[6] 田中豊『法律文書作成の基本』2011日本評論社P342、『民事訴訟における事実認定』2008法曹会P210

[7] 『書記官事務を中心とした和解条項に関する実証的研究』2002法曹会P38

[8]受益者に扶養親族である配偶者などを含めることなく、信託財産から(受益者の個人通帳を経由して)扶養に掛かる費用を支出するために記載。

[9] 「信託の目的の定め方の相談に答える」遠藤英嗣『信託フォーラムvol.7』2017日本加除出版

[10] 「信託の目的の定め方の相談に答える」遠藤英嗣『信託フォーラムvol.7』2017日本加除出版

[11]遠藤英嗣「信託の目的の定め方の相談に答える」『信託フォーラムvol.7』2017日本加除出版。河合保弘『家族信託活用マニュアル』2015日本法令P284を指していると思われる。

[12]遠藤英嗣「信託の目的の定め方の相談に答える」『信託フォーラムvol.7』2017日本加除出版

[13] 別冊NBL編集部『別冊NBL104号信託法改正要綱試案と解説』2005(株)商事法務P75

[14] 村松秀樹ほか『概説信託法』平成20年(株)きんざい P5

[15]『信託法改正要綱試案と解説』P208要綱試案の段階では、必要な期間とされている。

[16]参考として信託法113条。

[17]道垣内弘人「信託法入門」2007 株)日本経済新聞社P57~P58

[18] 破産手続開始、強制執行について最判昭和36年3月14日。

[19] 更生債権の届出について最判昭和42年5月23日。

[20] 委託者と受託者が共に悪意の場合について、道垣内弘人編著『条解信託法』2017弘文堂P67。

[21] 寺本昌弘『逐条解説 新しい信託法』2007(株)商事法務P54~P55、前掲別冊NBL104号P22

[22]道垣内弘人編著『条解信託法』2017弘文堂P62

[23]杉谷範子『空き家にさせない!「実家信託」』2017日本法令P177、斉藤竜『ゼロからはじめる「家族信託」活用術』2018税務研究会出版局P138など。

[25] 七戸克彦監修『条解不動産登記法』2013弘文堂P604

[26] 登記研究604号121号、659号171号など。