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加工 ラオスにおける民事関係法制に関する調査研究8(終)
2016年04月26日

 

加工 ラオスにおける民事関係法制に関する調査研究

法務省HPより

 

 

6.相続法
(1) 相続法制の概要

 

 

相続については,現行法として 2008 年相続法が法源として重要である。この法典は 1990年相続法(遺産及び相続基準とも訳される)を改正したものである。
相続法は,相続の正当性および公平性を確保し,被相続人および相続人の権利義務が確実に履行され,社会の平穏が確保され,秩序が維持されるために,遺産分割,遺産相続および遺産管理に関する原則を定めるものである(相続法 1 条)。相続には,法律によるものと遺言によるものがあり(相続法 8 条),死亡した者に属した財産および権利義務を,相続人が承継することが相続とされる(相続法 2 条)。また,裁判所よる死亡宣告の場合には,その者の遺産は相続人の所有になり,その後に被相続人が生存していたことが判明した場合には,相続人は相続した遺産の残存するものを宣告された者に返還し,被相続人はその遺産の管理において発生した費用等を相続人に支払うこととなる。ただし,その物の生存が判明したとしても,裁判の宣告を知った日より,動産の場合 3 年以内,不動産の場合は 6 年以内にその者が財産の返還請求をしなければ,その者の財産は相続人の所有とされる(相続法 5 条)。

 

 

 

 

 

(2) 相続の開始および場所
相続は遺産所有者が死亡した日から開始する。被相続人が,裁判所に死亡宣告された場合,その裁判所の確定判決の日が相続開始日とされる(相続法 6 条)。相続は,被相続人の最終住所において開始し,被相続人の住所が不明または複数ある場合は,主要な遺産の所在地が相続開始場所とされる(相続法 7 条 1 項)。なお,相続の開始は文書により,相続人,親族および証人の参加,ならびに裁判所事務官の立会い,また裁判所事務官がいない地域においては村長の立会いが必要とされる(同条 2 項)。

 

 

 

 

(3) 法定相続

 

(ア) 法定相続の行われる場合
法定相続は,①個人または組織に相続を指定する遺言が作成されなかった遺産の場合,②遺言無効,受遺者(遺言による相続人)が相続開始以前に死亡した場合,③受遺者が相続を放棄する場合,④遺言による相続の遺産以外に,遺産が残存している場合に開始される(相続法 9 条)。

 

 

(イ) 法定相続人および相続順位 法定相続人としては,①被相続人の子(実子,養子,配偶者の子),②被相続人の配偶者,③直系の尊属(被相続人の父母,祖父母,曾祖父,曾祖母),④傍系の親族(被相続人の兄弟姉妹,伯父,伯母,叔父,叔母,孫,曾孫,玄孫 ),⑤政府,法人またはこの法律に定めている個人等とされる(相続法 10 条)。なお,胎児も相続権を有し,この場合には胎児
の母がその相続財産を管理するとされている(相続法 16 条)。
法定相続人の相続順位については,被相続人の子および配偶者は優先的に相続できる。彼らが存在しない場合に,他の親族が近親順に従って相続することとなる(相続法 11 条)。

 

 

(ウ) 相続分 配偶者および子が生存している場合には,被相続人の特有財産の 4 分の 3 をその子が相続し,生存配偶者は残りの 4 分の 1 につき相続分を有する(相続法 12 条 1 項)。ただし,夫婦財産については,生存している配偶者がその 2 分の 1 を相続し,子は残りの 2 分の 1 を相続し,子が複数いる場合はそれを相等しい割合で相続する(同条 2 項)。なお,生存配偶者は,未成年の子の相続分に関する財産を管理する権利を有する(同条 3 項)。

 

 

 

子を持たない夫婦の一方が死亡した場合には,生存配偶者と直系の親族が相続し,その相続分につき,被相続人の特有財産については,生存配偶者がその 3 分の 1 を相続し,直系尊属は各自その 3 分の 2 を相続する。直系尊属が複数いる場合は,その割合は各自で等しいものとされる。(相続法 13 条 1 項 1 号)。夫婦財産に関しては,生存配偶者がそのすべてを相続する(同項 2 号)。なお,離婚をしていない別居中の夫婦の一方が死亡した場合であっても,他方はその遺産を相続する権利を有している(相続法 20 条)。

 

 

 

 

被相続人に子および直系尊属がおらず,配偶者および傍系親族がいる場合には,傍系親族は被相続人の特有財産の 2 分の 1 を相続し(複数いる場合は各自平等の割合:相続法 14 条 2 項),生存配偶者は被相続人の特有財産の 2 分の 1,および夫婦財産のすべてを相続する(同条 1 項)。 子の相続分については,被相続人に複数の実子のみがある場合には,上記の相続法 12 条における夫婦財産に関する配偶者の相続分である 2 分の 1 を除いた残りの 2 分の 1 と,特 有財産に関する配偶者の相続分である 4 分の 1 を除いた残りの 4 分の 3 について実子各自が等分で相続分を有する(相続法 15 条 1 項 1 号)。被相続人に実子,養子および継子がある場合,被相続人の夫婦財産に関してはその者たちが等分で相続分を有する(同項 2 号)。被相続人の特有財産に関しては,養子と実子とは相続権を有するが,継子は相続権を有しない(同項 3 号)。養子の実親が遺言に別段の意思を表示した場合を除き,養子は実親の遺産を相続できない(同項 4 号)。なお,被相続人が死亡するまで介護し,葬儀の手配等を担った実子,養子および継子は,他の子の相続分の 2 倍を相続することができる(同条 2 項)。

 

 

 

 

 

(エ) 代襲相続
法定相続人が被相続人よりも先に死亡した場合,その法定相続人の相続人は代襲相続ができ,さらに再代襲相続も認められている(相続法 21 条)。代襲相続の要件として,代襲者が法定相続人であること,および被代襲者が相続権を有し,代襲者がその者の子であることが挙げられている(相続法 22 条) 。

 

 

 

 

 

(オ) 法定相続人の不存在および僧侶に関する相続
相続人が存在しない,または失踪の場合,使用人として 3 年以上当該の世帯に住んでる者は世帯主の遺産を相続することができる(相続法 17 条 1 項)。反対に,相続人が存在しない使用人が死亡した場合,世帯主が使用人の遺産を相続することができる(同条 2 項)。相続人が存在しない,または失踪の場合であり,相続財産の所有者が死亡してから 60 日以内に相続権の主張がないときには,政府が該当の遺産を管理することとなる(相続法 18 条1 項)。その後,死亡若しくは失踪の審判から 3 年を経過した場合,その財産に対する請求は認められず(消滅時効),当該相続財産は国庫に帰属する(同条 2 項)。なお,相続の開始に立ち会う裁判所事務官または村長は,被相続人の葬儀,債務弁済にかかる費用等を遺産から受け取ることができる(同条 3 項)。

 

 

僧侶,少年僧,その他の司教に関して,出家前または出家中に得た財産は,個人もしくは組織に贈与,条件付贈与,またはその趣旨の遺言(これらの内容につい ては,後述(4)(ア)を参照)をすることができ,さらに,彼らの財産は,個人または組織によって相続されることも認められている(相続法 19 条 1 項)。上記の者が死亡した際に,相続人が存在しない場合や上記の遺贈等がなされなかった場合には,その遺産は上記の者が所属する僧院または修道院等の所有になる(同条 2 項)。

 

 

 

 

 

(4)遺言による相続

 

 

(ア)遺言による相続の内容
国民すべてに,自己の意思による贈与,条件付贈与,および遺言をする権利を有することが法律上明確に示されている(相続法 24 条)。すなわち,相続法において遺言以外に贈与や条件付贈与の規定が置かれているのである。ここでいう贈与とは,生前に自己所有の財産を無条件で他人に譲ることであり,その財産は受取りの時より受贈者の所有となる(相続法 3 条 4 項)。条件付贈与とは,生前に自己所有の財産を条件付で他人に譲ることであり,受贈者はかかる財産の所有者になるために,条件を適法に履行する必要があるとされる(同条 5 項)。遺言とは,財産所有者が自分の意思を表示する法的文書であり,3 名以上の証人の立会いのもとで文書または口述で個人または組織に預け,記録されるものである(同条 6 項)。

 

 

 

 

ただし,これらの行為には,その範囲について一定の制限がなされている。第 1 に,財産所有者が 1 人の子を持つ場合,贈与,条件付贈与または遺言の内容は財産の半分を超えてはならないとされる(相続法 25 条 1 項 1 号)。第 2 に,財産所有者が 2 人の子を持つ場合,贈与,条件付贈与または遺言の内容は財産の 3 分の 1 を超えてはならないとされる(同項 2 号)。第 3 に,財産所有者が 3 人以上の子を持つ場合には,贈与,条件付贈与または遺言の内容は財産の 4 分の 1 を超えてはならないとされる(同項 3 号)。これらの範囲を超えた部分は無効とされ,法律の定めによってその分配が決定されることとなる(同条 2 項)。

 

 

 

 

すみれ
「実質的な遺留分かな。」

 

 

 

 

 

(イ)遺言の方式
遺言は,文書による方法と,口述による方法が認められている(相続法 26 条)。

 

(ⅰ)文書による遺言
文書による遺言は,財産所有者本人の文書によって行われ,また他人によっても行うことが可能である。他人が執筆する場合は 3 人以上の証人の立会いが必要であり,相続が開始されるまでその秘密を厳守しなければならない(相続法 27 条 1 項)。この遺言には作成年月日,遺贈財産の種類または金額,遺贈者,受贈者,執筆者,および証人の名前を記載しなければならない(同条 2 項)。遺贈者,執筆者および証人は,遺言に署名および拇印をしなければならない(同条 3 項)。遺言の作成後は密封し,財産所有者の所属する地域または近隣地域の公証人において保管されるか,または公証局がない地域の場合は村の統治機構において保管される(同条 4 項)。

 

 

 

(ⅱ)口述による遺言
口述による遺言は,財産の所有者が死亡の危急に迫っている,健康ではない,その他の理由により,文書による遺言をすることができない場合においてすることができ,3 名以上の証人の立会いの元で口述によりなされるものである(相続法 28 条 1 項)。この場合,証人は裁判所事務官または村の統治機構に,財産所有者の意思内容および文書によって作成することができない理由を,直ちに報告しなければならない(同条 2 項)。財産所有者が通常の状態に戻った場合には,その日より 30 日が経過すると,口述による遺言は無効とされる(同条 3 項)。
また,財産所有者は,自己が指定した相続人が遺言の執行より先に死亡した場合,または相続人がその権利を放棄した場合を補欠するために,補欠相続人を指定することもできる(相続法 29 条)。

 

 

 

(ⅲ)遺言の効力
遺言によって相続人となる者は,その者の法定相続分も相続し,かつ遺言による相続分も相続しうる(相続法 30 条)。ただし,遺言の執筆者,その配偶者および子,立会いの証人およびその配偶者もしくは子は,その遺言による相続において,相続権を有しない(相続法 31 条)。これは,彼らについては法定相続分を有することから,それを上回る額の相続を認めない趣旨と,証人等についてはその地位の悪用を防ぐためにそのような規定になったと考えられる。

 

 

 

財産の所有者が自己の財産を未成年者または知的障害者・精神障害者に遺贈する場合,その遺産を管理する人を選任することができる(相続法 32 条 1 項)。遺産の管理者は,財産所有者がその遺言に別段の意思を表示した場合を除き,自己以外の者をその遺産の管理者に選任することができる(同条 2 項)。この場合,その未成年者が成年になるとき,および知的障害者・精神障害者が通常に戻るときに,その管理人の役割は終了する。

 

 

 

(ⅳ)遺言の変更・取消し・失効・無効
新たな遺言を作成し,従来の遺言内容を変更または取り消すことが認められている(相続法 33 条 1 項)。新しく作成した遺言内容と従来の遺言の内容とが矛盾する場合は,その内容の一部または全部が取り消されたものとされる(同条 2 項)。遺言が失効する場合として,受遺者が遺言者よりも先に死亡したとき,受遺者がその権利を放棄したとき,遺贈物が遺言者により紛失もしくは破壊されたとき,またはその遺言が無効であるときがあげられている(相続法 34 条)。
遺言の無効な場合として,遺言者が未成年者または知的障害・精神障害者であるとき,目的が明確でない遺言,強迫,詐欺または偽造によりなされた遺言,または相続法 31 条に挙げられている者(遺言の執筆者,その配偶者および子,立会いの証人およびその配偶者もしくは子)に対する遺言が挙げられている(相続法 35 条)。

 

 

 

 

 

 

(ⅴ)遺言執行者
遺言につき,その執行者を選任することもできる。この遺言執行者は,財産の所有者,遺言に定められた者もしくは受遺者が就くこととなる(相続法 36 条 1 項 1 号 2 号)。財産の所有者が遺言執行者を選任しなかった場合,選任された者が死亡した場合,失踪者である場合,行為能力を有しない者である場合,不誠実な執行を行う場合,または執行できない場合においては,裁判所が選任を行う(同 3 号)。
遺言の執行は,財産の所有者が死亡しなければできない(相続法 37 条 1 項)。遺言執行者は,遺言が執行され,実務的に効果を発するために必要な行為を行うことができる(同条 2 項)。なお,遺言の執行にあたり特別報酬を得ることができないが,遺産の管理,維持にかかった費用に関しては請求することができる(同条 3 項)。また,遺言執行者には,受遺者に遺言の執行状況を報告する義務がある(同条 4 項)。

 

 

 

 

 

(5)相続の承認・放棄

 

 

(ア)遺産分割に至る流れ
相続人は,遺言による指定,または別段の内容が合意された場合を除き,相続の開始をいつでも申し出ることができる(相続法 38 条 1 項 )。相続人の中に未成年者の相続人がいる場合,その相続人が成年になるまでは相続の開始を延期することもできる。また,未成年者がいる場合に相続を開始するときは,裁判所書記官または証人として村長の立会いが必要とされる(同条 2 項)。
遺産の分割をする前には,相続財産に対し債権や債務の内容について計算等を行い,その状況を整理しなければならない。具体的には,被相続人が生前に他人に貸し出した財産,他人から借り入れた財産,または他人に預けたもしくは担保に提供した財産,詐欺,騙取,横領により取られた財産や(相続法 39 条 1 項 1 号),被相続人の葬儀費用や借金についてである(同項 2 号)。これらの整理が終了した後に,相続人は残っている財産のそれぞれの相続分を相続することができる(同条 2 項)。

 

 

 

 

 

遺産の分割を求める請求については時効期間があり,その請求は被相続人が死亡した日より 3 年以内に行う必要がある。被相続人が死亡したときに相続人が 18 歳未満である場合,もしくは相当な理由がある場合を除いて,その 3 年の期間が経過すると,分割を求める請求権は無効となる(相続法 40 条)。
分配されていない遺産があり,それを管理する相続人は,相続法 40 条の時効期間(3 年)の成立にかかわらず,いつでも遺産分配の執行を行うことができる(相続法 41 条)。

 

 

 

 

(イ)相続の承認
法定相続人は,相続開始場所の村の統治機構に相続の意思を表示してはじめて遺産を受継することができる(相続法 42 条 1 項)。

 

 

 

 

 

番人
「当然に相続する権利を持つわけではないんだ。」

 

 

 

 

遺言による相続人の場合は,その遺言を保管する裁判所書記局,または裁判所書記局がない場合は村の統治機構に,相続の意思を表示することになる(同条 2 項)。この受継は相続開始(相続法 38 条 1 項)から 6 か月以内に行わなければならない(相続法 42 条 3 項)。自己の相続分を放棄する相続人がいるとき,そ の相続人の相続分を受継する者は,残る期間内に受継の意思を表示しなければならず,残る期間が 3 か月未満の場合であれば,かかる遺産の受継者は裁判所に 3 か月間まで延長を申し出ることができる(同条 4 項)。受継があった場合,裁判所書記官または村長は相続人に遺産の受継の証拠となる公正証書を発行しなければならない(同条 5 項)。

 

 

 

 

他の相続人の相続の対象とされている遺産に関し,相続法 42 条 3 項の 6 か月の期間内にその者に受継されていない場合において,その遺産が他の相続人により受継され,または国に寄贈された場合には,未だその財物が以前の状態を維持している場合であれば,その受遺者はその相続の対象とされていた遺産を取り戻すことができる。ただし,取り戻すためには,それを実際に受継した者または国の同意を得なければならない。同意が得られないとき,裁判所がその取戻に関して相当な理由があるかどうかの判断を行う(相続法 43 条1 項)。なお,法定相続人または遺言による相続人が相続開始後に,その相続分を受継する前に死亡した場合,その相続人の相続人はかかる相続分を代襲相続することができる(同条 2 項)。

 

 

 

 

 

(ウ)遺産に対する差し押さえなど
相続の開始前または遺産の受継の証明書を受ける前において,遺産を管理する監督者または相続人は,一定の出費をした場合には遺産について差押え等の行為を行うことができる(相続法 44 条)。すなわち,第 1 に,被相続人を世話,治療し,被相続人の葬儀を行った場合,第 2 に,被相続人の監督の下におかれている者を世話している場合,第 3 に,被相続人の債務である賃金等を弁済する場合,第 4 に,遺産を管理,維持する場合である。
これ以外については,上記の者は遺産に対して何らの権限も有さない。

 

 

 

 

 

(6) 相続放棄
法定相続人または遺言による相続人は,自己の相続財産に対する自己の権利を放棄し,これを他の人,行政機関,財団などに譲ることができる。ただし,相続の放棄は相続の開始日から 6 か月以内に行わなければならない(相続法 45 条 1 項)。法定相続および遺言による相続を放棄したい場合,その者はその意思を文書によって表示し,遺産を譲りたい人または組織の名前を記入し,村の統治機構または裁判所書記局に提出しなければならない(同条 2 項,3 項)。遺産を譲りたい人,または組織が特定されなかった場合には,その遺産は他の相続人の相続分とされる(同条 4 項)。なお,未成年者,知的障害者もしくは精神障害者は,親または監督者の同意を得ずに相続を放棄することができない(相続法 46 条)。

 

 

 

 

 

 

(7) 相続権の喪失
自己の相続分以上の遺産を騙取,隠ぺい,横領した相続人は,本来の自己の相続分を受継することができない。その者はさらに,騙取,隠蔽,横領した遺産も返還しなければならない。騙取,隠蔽,横領した遺産が自己の相続分より少ない場合,その得られるべき相続分を受継することができない(相続法 48 条)。
裁判所の審判により親権を失った者は,その子の遺産を相続することができない。他方で,その子も,未成年者である場合を除き,その親の遺産を相続することができない(相続法 49 条 1 項)。裁判所の審判により,子を育成する義務を有する親がその義務を遂行しなかったときにも,子の遺産を相続することができない。また,成年である子が裁判所の審判により,親の世話をする義務を遂行しなかったとき,

親の遺産を相続することができない(同条 2 項)。

 

 

 

 

 

 

さらに,財産所有者が死亡した場合は当然に相続権を喪失し,生存している場合には文書により意思を表示することによって相続権を喪失させられる場合として,相続法 50 条は以下の場合を規定している。すなわち,①遺産を奪取する目的で,故意に財産の所有者または相続人を死亡させ,大怪我をさせたと,裁判所によって判断された者。②一部または全部の遺言を破壊,隠蔽または偽造した者。③被相続人と同県または同市に住んでいる者で,被相続人の死亡を知り,または知ることができるにも関わらず,理由なく,被相続人の葬儀に寄与しない,またはそれを自己の代わりに行う代理人を選任しない者。④遺言の一部もしくは全部を作成,取消しまたは訂正するよう,財産の所有者を脅迫する場合。⑤ 被相続人の生命,身体に対し非行を行い,被相続人に大怪我また身体に障害を負わせた者,およびそれらの者を蔵匿した者。⑥刑法 163 条に定められているような,財産所有者または相続人を中傷した者である(相続法 50 条 1 項)。前述のとおり,これらの者は,財産所有者が死亡した場合を除き,財産の所有者がその意思を文書により表示してはじめて相続権を喪失することとなる(同条 2 項)。これらの者が非行を行い,親の管理のもとにおらず,可能であるにもかかわらず老後の親または病気の親を世話しない者は,相続権を喪失した者とみなされ,相続権を失うこととなる(同条 3 項)。ただし,財産の所有者は証拠または 承認を得てその意思を表示することで,相続法 50 条に定められている場合において相続権の喪失を撤回することもできる(相続法 51 条)。

 

 

 

 

 

 

 

(8)遺産の管理
相続人による遺産管理の要請がある場合には,各相続人および債権者の利益を保障するために,遺産管理者の選任を申し立てることができる。この場合,相続開始場所の裁判所書記官または村長が遺産管理者の選任を行う(相続法 52 条)。遺産管理者になれない者は,①18 歳未満の者,②知的障害者,精神障害者,③復権の禁止期間に裁判所により破産宣告を受けた者,④親権を失った者または相続権を失った者(相続法 53 条)である。

 

 

 

 

遺産の管理者は幾つかの権利および義務を有する。第 1 に,相続人全員の立会いの下で遺産を整理(目録の作成を)する。この場合において,相続人のいずれかが参加できないときは遺産管理者に知らせなければならない。遺産の整理は全相続人の 3 分の 2 の立会いが必要であり,遺産管理者は任命された日から 1 か月に遺産の整理をしなければならない
(相続法 54 条 1 項 1 号)。第 2 に,相続人が遺産を受継する前に,被相続人の債権者の請求に応じ,被相続人の債務を弁済する必要がある(同項 2 号)。第 3 に,相続人に,各自の相続分通りに遺産を分配することである(同項 3 号)。なお,遺産管理者は相続人が任意に渡す場合を除き,遺産の管理にあたり報酬を請求することができない(同条 2 項)。
遺産の管理者がその権利および義務を履行しない場合,無責任または不誠実な義務を行った場合には,遺産管理者の選任に関係する裁判所書記官または村長がその選任を取消し,取消した日より 7 日以内に新しい遺産管理者を任命することができる(相続法 55 条)。

 

 

 

 

 

 

(9)相続人の責任
法定相続人または遺言による相続人は,被相続人の債務について,自己の相続分を上限として弁済する責任を有する(相続法 56 条 1 項)。

 

 

 

すみれ
「上限があると、相続人も負担が少ないね。」

 

 

 

 

 

 

 

ただし,遺産がまだ分配されていない場合には,債権者はその遺産の相続人または管理者に自己に対する債務のすべてを弁済するよう要求することができる(同条 2 項)。逆に,遺産がすでに分配(分割)された場合であれば,債権者は相続人のいずれかに対し,自己に対する債務の弁済を求めることができる。相続人いずれかが債権者に対して自己の負担分以上に弁済した場合には,他の相続人のすべてが同等に,負担分以上の分をかかる相続人に弁済しなければならない(同条 3 項)。相続人のいずれかが自己の負担分を弁済することができない状況になっている場合では,他の相続人のすべてはかかる者の負担分を同等に弁済しなければならないとされる(同条 4項)。なお,被相続人の債務の弁済は遺産からのみ計算される(同条 5 項)。

 

 

 

 

 

 

被相続人に対する債権者は,相続の開始から 3 年以内に相続人,遺産管理者,もしくは遺言執行者に自己に対する債務の弁済の請求,または相続開始場所の裁判所書記官,村長,もしくは裁判所に債務の弁済について申立てることができる(相続法 57 条)。
なお,相続人間で相続財産の分配について合意に達することが不可能な場合には,相続人には,裁判所に審判を申立てることができる(相続法 58 条)。

 

 

 

 

 

 

Ⅵ 結論

 

 

1.ラオスにおける民事関係法制の形成プロセスの特色

 

 

ラオスは 1980 年代半ばにおける開発政策の転換,その一環としての市場経済システムの導入を契機にして,本格的な民事関係法制の構築に乗り出した。ラオスにおける民事関係法制の形成に際しては,様々な形で外国人アドバイザーの関与が認められるものの,外国法令をそのまま,翻訳的な敷き写しによって立法化する例はあまりみられず,ラオスの立法担当者自身の理解を通じて,その範囲での立法が行われてきたという色彩が強いといえる。その意味では,経済・社会の実態にできるだけ引き寄せた民事関係法制の形成が行われてきたとみることができよう。また,1990 年を中心にいったん制定された民法関連の法律は,その後,対外開放政策に伴う経済活動の活発化,土地取引の進展,商品取引の発達などに応じる形で,大小の改正が行われており,経済・社会の変容に伴ってラオスの民事関係法制が引き続き変容してゆく様も窺われる。

 

 

 

その一方で,ラオス民事関係法制の内容をみると,財産法と家族法を問わず,政府が人民に提示する行為規範的な色彩が強く,ラオスの経済・社会を運営しようとする政府の積極姿勢も濃厚である。そのこと自体をどのように評価すべきかについては,極めて興味深い,かつ重要な問題であるが,いましばらくラオスの経済・社会の変化と民事関係法制の変容を考察することが必要であると考えられ,本調査報告の段階では評価判断は差し控えておきたい。
これらの事情に鑑みると,ラオス民事関係法制の形成の原動力は,経済・社会の変容,人々の行動や要求を敏感に感じ取った政府のイニシアティブにあるということができよう。

 

 

 

 

 

2.ラオスにおける民事関係法制の課題

 

 

ラオスは,小規模の人口ながら,比較的恵まれた天然資源,水利,食糧生産事情,安定した政治状況の下で,インドシナ諸国中でも最も高い経済成長を達成している。ラオス政府は,中国,タイ,韓国,シンガポール,日本等をはじめとする外国投資も活発化する中で,経済発展のスピードをコントロールしながら,それに即応する形で,民事関係法の整備を徐々に進めてきた。そうした「ラオス風」ともいえる漸進主義は,開発プロセスにおける法整備の進め方として,1 つの効果的な方法論を提示しているように思われる。

 

 

 

しかし,今後予想される経済構造の高度化・複雑化,社会問題の複雑化等にも引き続き対応してゆくためには,法律の制定,裁判,執行等に携わる法曹人材のさらなる育成が求められると考えられる。それに至る諸方策の 1 つとして,大学における法学教育を強化する余地が大いにある。そこでは,体系的な教科書,比較法教材等が未だけっして十分とはいえず,法的人材育成の初期段階の強化が特に望まれる。
また,すでに述べたように,ラオスでは人口比で比べると,ベトナムやカンボジアに対しても,裁判官の数が比較的多いのに対し,弁護士の数が極端に少なく,その原因として裁判官(および検察官)が事件解決のために職権主義的に関与することが多い反面として,弁護士に固有の職務とその必要性についての認識が未成熟であることが考えられる 。しかし,政府と当事者の間で第三者的な立場から法運営をモニターし,必要なサポートをする存在としての弁護士の役割の強化は,民事関係法制の充実・発展という観点からは,今後特に注力すべき課題ということができるであろう。民事訴訟や法律相談業務への弁護士の関与がより強まることにより,新たな裁判例や紛争解決例の蓄積をも通じて,社会が求める民事関係法制の改革が進展することが期待される。また,何よりも,日々の経済活動や社会生活の中心主体である市民のレベルにおける民事関係法制の知識の普及がさらに重要な課題になる。

 

 

 

 

 

そして,法曹教育・法学教育を強化し,市民レベルでの法的知識の普及を実効的なものにしてゆくためには,民事関係法制の要となる民法典の編纂が重要な意味を帯びてくると考えられる。今後当面は,民法典編纂を基軸にして,民事関係法制の整備・改善・再編が重要な課題になることが予想される。それによって顕在化しうる「ラオス風」の法形成の方法は,他国の法整備にとっても一定のモデル的価値をもちうるように思われる。

ラオスに対する法整備支援に際しても,以上のような視点をもちながら,協力関係と情報交換を進めてゆくことが肝要である。そのようにして今後もラオスとの法整備協力を継続してゆくことが,相互に生産的で創造的な法形成を促すことに通じるものと考えられる。【参考文献・参考情報】

 

 

 

 

 

 

 

 

○邦語文献(編著者名の五十音順)
・石岡修「ラオスの民事裁判制度」鈴木基義編著『ラオスの開発課題』(JICA ラオス事務所,2014)117 頁以下。
・井関正裕「日本法と比較しての特徴(裁判官,監督審,緊急保全処分など)」ICD NEWS
21 号(2005)。
・井関正裕「ラオス判決書マニュアル作成支援」ICD NEWS 33 号(2007)。
・伊藤浩之「ラオス法律人材強化プロジェクト 第1 回本邦研修」ICD NEWS 47 号(2011)。
・小川富之監修/伊藤弘子=大川謙蔵訳「1991 年ラオス家事登録法(1),(2)」戸籍時報 680 号(2011),681 号(2012)。
・小口光「ラオス検察官マニュアル作成支援」ICD NEWS 30 号(2007)。
・金子由芳『ラオスの経済関連法法制の現状と協力の焦点』(国際協力事業団・国際協力総合研修所,2001)。
・菊池陽子=鈴木玲子=阿部健一編『ラオスを知るための 60 章』(明石書店,2010)。
・工藤恭裕ほか「ラオス法制度の概要」ICD NEWS 3号(2002)。
・国際協力機構(JICA)・公共政策部『法整備支援に関するプロジェクト研究 「法の支配」の実現を目指して――JICA の法整備支援の特色』(JICA,公共 JI 09-015,2009)。
・古積健三郎「ラオス民法教科書作成支援について:担保法について」ICD NEWS 30 号
(2007)。
・小宮由美「特集:各国法整備支援の状況~ラオス~」ICD NEWS 16 号(2004 年)。
・桜井由躬雄=石澤良昭『ヴェトナム・カンボジア・ラオス』(山川出版社,1977)。
・鈴木基義『ラオス経済の基礎知識』(日本貿易振興機構,2009)。
・鈴木基義編著『ラオスの開発課題』(JICA ラオス事務所,2014)。
・マーチン・スチュアート-フォックス/菊池陽子訳『ラオス史』(めこん,2010)。
・瀬戸裕之「ラオスにおける法学教育」ICD NEWS 4号(2002)。
・瀬戸裕之「ラオス」鮎京正訓編『アジア法ガイドブック』(名古屋大学出版会,2009)267-293 頁。
・瀬戸裕之『現代ラオスの中央地方関係――県知事制を通じたラオス人民革命党の地方支配』(京都大学出版会,2015)。
・田中嘉寿子「特集:ラオス法整備支援――ラオス法制度整備プロジェクト/事業事前評価表(技術協力プロジェクト)/ラオス法制度整備プロジェクトの実施概要とその成果に
ついて」ICD NEWS 30 号(2007)。
・田中嘉寿子「特集:ラオス法制度整備プロジェクト――民事判決書マニュアル」ICD NEWS
33 号(2007)。
・中東正文=松浦好治=今井克典「ラオスの商法教科書作成支援について――企業法注釈書の作成と人材養成」ICD NEWS 30 号(2007)。
・チャンディラマニ・ニリマ/伊藤弘子訳「インド家族法(上)」戸籍時報 598 条(2006 年)16 頁以下。
・ユイス・ヌールラエラワティ/小川富之監修/伊藤弘子=堀井穂子訳「インドネシア家族法(1)」戸籍時報 717 号(2014 年)2 頁以下。
・野澤正充「ラオス民法教科書作成支援について――2.債権法について」ICD NEWS 30 号(2007)63-64 頁。
・野澤正充「ラオスの契約法と日本民法(債権法)の改正」小野秀誠=滝沢昌彦=小粥太郎=角田美穂子編『松本恒雄先生還暦記念 民事法の現代的課題』(商事法務,2012)。
・塙陽子『家族法の諸問題(下)』(信山社,1993)。
・松尾弘「法整備支援における民法整備支援の意義と課題」ICD NEWS 27 号(2006)。
・松尾弘「ラオス民法教科書作成支援について――回顧と展望」ICD NEWS 30 号(2007)
40-56 頁。
・松尾弘=松邑翔太=杉田彩子「ラオス法律人材育成強化プロジェクトにおける『民法基本問題集』作成支援から」ICD NEWS 49 号(2011)97-108 頁。
・松尾弘「司法アクセスの改善への統合的アプローチ――良い統治と法の支配の関係に焦点を当てて」慶應法学 23 号(2012a)。
・松尾弘「民法学と開発法学」小野秀誠=滝沢昌彦=小粥太郎=角田美穂子編『松本恒雄先生還暦記念 民事法の現代的課題』(商事法務,2012b)997-1101 頁。
・松尾弘「ラオスにおける民法の発展」『アジア法研究 2012』(アジア法学会,2013)。
・松元秀亮「報告:ラオス法制度整備プロジェクトの成果物の普及活動の現状と課題」ICD
NEWS 35 号(2008)。
・三澤あずみ「国際研修:第8回ラオス法整備支援研修の概要」ICD NEWS 13 号(2004)。
・安田信之「ラオス」『東南アジア法』(日本評論社,2000)273-285 頁。
・山田紀彦編『ラオスにおける国民国家建設――理想と現実』(アジア経済研究所,2011)。・山田紀彦編『ラオス人民革命党第 9 回大会と今後の発展戦略』(アジア経済研究所,2012)。
・ダヴォン・ワーンヴィチット(ラオス最高人民裁判所副長官〔当時〕)「ラオスの司法
改革と日本の支援」ICD NEWS 14 号(2004)。
・カム・ヴォーラペット/藤村和広=石川万唯子訳『現代ラオスの政治と経済 1975-2006』
(めこん,2010)。

○欧文文献(編著者名のアルファベット順)
・The Bar Association of the Kingdom of Cambodia (BACK) and the Japan Federation of Bar Associations (JFBA), supported by the Japan International Cooperation Agency
(JICA), The International Conference on “Access to Justice in Asia,” 10-11 February 2014, Phnom Penh, the Kingdom of Cambodia.
・Hiroshi Matsuo, “Access to Justice in Indochinese Countries,” in: Michèle and Henrik Schmiegelow (eds.), Institutional Competition between Common Law and Civil Law, Springer Verlag, pp. 249-277.
・International Monetary Fund (IMF), World Economic Outlook Database, October 2014. ・The United Nations Development Program (UNDP), People’s Perspectives on Access to
Justice Survey in Four Provinces of Lao PDR, UNDP, Vientiane, 2011.

○ラオスの法令(英訳)情報
・http://www.la.emb-japan.go.jp/jp/laos/laolaws.htm ・http://www.ilp.gov.la/Lao_Law_Eng.asp
・http://www.la.emb-japan.go.jp/jp/laos/laolaws.htm
・http://www.asianlii.org/la/legis/laws/