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加工   ラオスにおける民事関係法制に関する調査研究4
2016年04月26日

加工   ラオスにおける民事関係法制に関する調査研究4

法務省HPより

 

6.債権法関連

 

(1)契約法

 

(ア)契約の成立要件・有効要件

 

契約内外債務法に関して注目されるのは,①契約の有効要件(前提要件)としての約因(契約法 5 条・6 条,契約内外債務法 10 条 4 号・14 条) ,②確定無効(絶対無効)と不確定無効(相対無効)との区別(契約法 13 条・14 条,契約内外債務法 19 条・20 条)など,フランス民法的要素との連続線の指摘は,制度の連続性という観点からも,興味深いものがある。この点については,①の約因のほか,契約の理由(契約法 9 条,契約内外債務法14 条),取消事由における一方的不利益や非良心的契約(契約法 14 条,契約内外債務法 19 条),契約の履行が困難になった場合の通知義務と契約終了原因としての承認(契約法 22 条・33 条,契約内外債務法 29 条・38 条)などと併せ,契約法の制定過程における世界銀行やアメリカのアドバイザーを介して,英米法の影響とみる見解もある 。

 

 

 

しかしまた,おそらく制定過程からみるかぎり,フランス法教育を受けたラオス司法省の担当者と,英米法の影響下にある世銀・アメリカの担当者との意見が合致した結果とみることが妥当ではないだろうか。正確な検証を要する問題であるが,フランス民法典の影響を受けたラオス王国民法典と現行ラオス民法との間には形式的な連続性は切断されていても,実質的ないしインフォーマルなレベルでは,一定の連続性が存在することはむしろ自然であるように思われる。

 

 

 

 

契約の有効要件に関しては,原始的不能の契約の効力が問題になる。ラオス民法では,契約が有効に成立するためには目的物が現実に存在し,かつ履行可能でなければならないとされており(契約内外債務法 13 条 2 項「(契約の)目的は明確で,現実的で,合法的で,社会的秩序に反せず,かつ履行可能でなければならない」。なお,同法 10 条 3 号も参照),原始的不能の契約は無効と解されている 。ちなみに,契約の終了原因の 1 つとして「契約の履行が不可能であるとき」が挙げられ(契約内外債務法 38 条 1 項),後発的不能による債務の消滅も認められており,原始的不能の場合とともに,「不能なことを行うべき債務はない。」(Immpossibilium nulla obligatio est.) との一般法理を具体化している点で,首尾一貫している。

 

 

 

 

契約内外債務法によれば,錯誤による契約は,自発的意思を欠いた契約であり(同法 11 条 1 項・2 項),無効事由とされているが(同法 10 条,18 条),それが確定的無効原因か,不確定的無効原因かは,条文上はやや不明確な状況である。というのも,不確定的無効原因を列挙する同法 19 条 2 項が,錯誤による契約を挙げていないからである。しかし,確定的無効とされるのは「国家又は社会の権利に関係する無効な契約」(同法 20 条)であるのに対し,不確定的無効は「私人の権利に関係する無効な契約」の場合であるから(同法 19 条 1 項),不確定的無効と解しているようである 。

 

 

他方,詐欺による契約は,自発的意思を欠くもので,無効原因となり(同法 10 条,18条),かつ不確定的無効原因として明示的に列挙されている(同法 19 条 2 項)。
いずれにせよ,無効な契約については,契約の取消しを請求することにより,履行した財産の返還等,原状回復を請求することができる(相手方が応じない場合は裁判上の請求による) 。なお,詐欺者が相手方に給付した財産は,国家が没収するものとされる(同法23 条 2 項)。詐欺による契約や不法行為では,刑事手続と民事手続は密接に関連するものとして捉えられている。

 

 

 

 

 

【契約内外債務法 22 条】
①〔不確定的〕無効な契約については,取消しを請求することができる。
②契約当事者の一方が,締結した契約が〔不確定的〕無効であることを知ったときは,その契約を取り消すために,相手方に直ちに通知しなければならない。相手方が契約の取消しに合意しない場合は,通知した契約当事者は,裁判所に契約の取消しを請求する訴えを提起しなければならない。

 

 

 

【契約内外債務法 102 条】
①建築に関する契約の提訴時効は 10 年とし,その他の類型の契約及び損害賠償請求の提訴時効は 3 年とする。ただし,法律に別段の定めがあるときは,この限りでない。
②提訴時効は,契約期間の終了した時,又は損害が生じた時から算定する。

ここで両条文の関係が問題になる。起草者によれば,「相手方に直ちに通知しなければならない」(契約内外債務法 22 条)というのは,通知が遅れると相手方の不利益も増大するので,速やかに通知することを求めたにとどまり,通知しなかったからといって,救済を受ける権利が消滅するわけではない 。契約内外債務法 102 条の期間制限の範囲内で取消しができる。この帰結を矛盾なく説明することは一見困難に思われる。
しかし,契約内外債務法 22 条は直ちに通知すべきとの行為規範を,同 102 条の出訴期限は裁判規範と解することにより,ひとまず説明は可能である。ラオス民法では,前者のような行為規範がけっして珍しくないこともその背景事情として念頭に置く必要がある。

 

 

 

 

(イ)債務不履行責任と瑕疵担保責任
ラオス民法は,債務不履行を理由とする損害賠償責任の要件として,債務者の過失,その他の帰責事由を要件としておらず,条文上の構成からは,一般的な帰責事由主義をとらず,契約責任主義を採用しているようにみえる。また,瑕疵担保責任もそうした債務不履行責任の一環として捉えられている。

 

 

 

 

【契約内外債務法 33 条】(契約不履行の効果。旧契約法 36 条)
①契約不履行は,契約に定めたとおりの品質を伴わない,期限に間に合わない,若しくは誤った場所における契約履行等,契約当事者の一方による全体的契約不履行,部分的契約不履行又は非合理的な契約履行である。

②契約当事者の一方が契約不履行を行ったときは,その当事者が加えた損害を賠償する責任を負わなければならない。ただし,契約不履行が不可抗力によって生じたときは,この限りでない。

 

 

 

 

【契約内外債務法 40 条】(販売する物の品質。旧契約法 38 条)
①販売する物の品質は,契約の内容に従って適正でなければならない。販売した物が,契約に定められた品質を伴わないときは,売主はその物について責任を負わなければならない。
②買主が,その物が品質を伴わないことを知ったときは,買主は,品質を伴った同一の種類の物との交換を請求する,価格の減額を請求する,又は契約の解除を請求する権利を有し,並びに損害賠償を請求する権利を有する。
③買主は,購入した財物の品質を検査し,購入した物に瑕疵を発見した場合は,売主に直ちに通知しなければならない。その義務を怠ったときは,買主はその瑕疵について責任を負わなければならない。
ここではまず,(ⅰ)債務不履行に対しては,条文上はとくに過失等の一般的な帰責事由を要することなしに損害賠償請求が可能とされ,ただし「不可抗力」の場合は損害賠償責任を負わないとされている。したがって,条文構成上は契約責任主義を採用しているとも解される 。しかし,不可抗力の場合には契約不履行はないのか,契約不履行ではあるが損害賠償責任を負わないのか,また,そもそも不可抗力の場合になぜ損害賠償責任を負わないのかについては議論がある。少なくとも法実務家の間では,不可抗力の場合には契約不履行はあるが損害賠償責任を負わず,その根拠は不可抗力に対しては自己の行為も落ち度もないゆえに責任がないからであるとする見解が圧倒的であり,実質的には帰責事由主義的に解釈されていることに留意する必要がある 。

 

 

 
つぎに,(ⅱ)売買目的物の瑕疵についてはこれを契約不適合と解する主観的瑕疵概念がとられており,その結果,売主の瑕疵担保責任を債務不履行責任として位置づけている。そして,(ⅲ)買主の救済方法として,瑕疵に対しては,①損害賠償請求,②代物請求(追完請求),③代金減額請求,④契約解除が可能である。このうち,不可抗力の場合,①は免責されるが,②・③・④は免責されない(契約内外債務法 33 条 2 項,40 条 2 項)。これらの条文の内容は,旧契約法 36 条・38 条と同旨であり,実質的には「国際物品売買契約に関する国際連合条約」45 条,46 条~52 条,74 条~77 条に沿ったものであると考えられる。

 

 

 

 

もっとも,①損害賠償の範囲については定めがなく,今後の立法課題といえる 。
さらに,およそ買主には(商人,事業者といった限定なしに一般的に)検査・通知義務が課され,それを怠った買主は瑕疵について自ら責任を負わなければならない。これは消費者にとってはかなり厳しい義務を課すものといえる。しかし,これは,ラオス法には商人,事業者,消費者の区別がないうえに,かかる検査・通知義務を買主に課した背景として,ラオスでは外国製品を売る者が多いので,時間を経ってから品質についてクレームをつけられても困ってしまうことが多いからという立法理由も考慮に入れる必要がある 。

 

 

(ウ) 他人物売買
ラオス法では,他人物売買契約が有効か無効か,法令上は明確でない 。実務家の理解では,売買契約は所有権移転を生じさせるものであるが,他人物売買では所有権を移せないから,売主が自分に所有権がない土地を売ったときは契約が無効であり,買主は契約無効に基づく代金返還請求を行う 。なお,他人物売買の買主からの転得者は,善意で買っていれば契約内外債務法42 条 1項の保護が認められ,悪意であれば同法 42条 2 項に従う。 売買契約は「売主が買主に対して財産の所有権を移転する義務を負い,買主が財産を受領し,かつ,合意した価格に従って代金を支払う義務を負う,契約当事者による合意である」と定義されている(契約内外債務法 39 条 1 項)。他人物売買も有効と解されている。それは,例えば,売主Aが買主Bに対し,鶏 10 羽を 10 日以内に仕入れて引き渡すという契約をすることが実際に合理的な取引として要請されていることによる。

 

 

 

(エ) 二重売買
二重売買が有効かどうかについては,解釈が分かれている。財産法 28 条の解釈として,
起草者の見解は有効との立場である 。例えば,Aが所有する場合バイクをBに 1000 ドルで売却し,Bは代金を支払ったが,引渡しを受けていないうちに,AがCに 1500 ドルで売 却して引き渡してしまった場合。(a)Cが所有権を取得し,AはBとの契約の不履行に基づいて損害賠償の債務を負う。市場の現実では,先に引渡しを受けた方が所有権を取得するのが一般的である。(b)第二売買は違法であるから無効で,CはバイクをBに引き渡し,AはCに代金を返還し,損害を賠償しなければならない。(b)説をとる者もいる(違法な取引を奨励することになるのを懸念する)。しかし,契約法,財産法の起草者であるダヴォン氏は明確に(a)説をとる。

 

 

 

(オ) 契約類型契約類型として,請負契約のほかに建設契約や運送契約を別類型として設ける点は,一般消費者の活動に関する民事契約と生産活動に関する経済契約とを区別する社会主義的な発想が辛うじて残存しているとみうるであろうか。その点の区別が具体的な効果の相違とどの程度連結するかは,規定が簡素なこともあり,不明確である 。あるいはまた,陸上・
水上の運送業者の債務や商取引に関する特則を民法典に編入していた旧民法典の承継とみる余地があるかも知れない(旧民法典 XIV 章,XV 章参照)。

 

 

(2)不法行為

(ア)一般不法行為の要件・効果 一般不法行為の要件・効果については,契約内外債務法 83 条~91 条(旧契約外債務法 1 条~9 条参照)が定めている。それによれば,自己の行為によって他人に損害を生じさせた者は,自らが生じさせた損害を賠償する責任を負う(83 条。ただし,損害が自己防衛,合法的な職務執行,又は被害者の過失により生じたときは,この限りでない)。

「損害」とは,「既に生じている,又は将来において確実に生じる等,確実性を有する損害でなければならない」とされ,「将来において起こりうる,又は起こり得ない損害は,確実な損害とはみなさない」(84 条)。その際,「損害」を①財産的損害だけでなく,②生命又は健康上の損害,③精神的損害を含むものと捉えていることが注目される(85 条)。

 

 

何ぴとも,自己の不法行為と生じた損害の間に「因果関係」が存在する場合に限り,その損害を賠償する責任を負うが,原因は損害を生じさせるために不可欠な事象であり,損害の前に発生し,損害の直接的事由でなければならない(87 条)。
積極的損害および消極的損害 の賠償の算定は「加害者の過失に適合するように」行わなければならない(91 条 1 項) 。

 

 

 

そして,「過失」とは「法令に反し,かつ故意または不注意によって他人に損害を与える作為又は不作為」である(86 条)。 不法行為でも,民事と刑事は密接に結びついている。例えば,交通事故の被害者が加害者に損害賠償請求するためには,証拠書類の作成をしてくれる警察の役割が大きい。なお,ラオスでは民事裁判でも裁判官が証拠収集をする権限をもっており,それを通じて刑事裁判の結果も参考にする。

 

 

 

(イ) 共同不法行為
ラオスにも共同不法行為の規定はあるが ,複数人が「協力して」行為したことが前提となっていると解釈されており ,Yの飲酒運転による交通事故とZ病院のA医師の手術ミスによる医療過誤が連続して生じた場合,Y・Z・Aの過失は分けて考えるべきで,共同不法行為とみることはできない。

 

 

 

(ウ) 特別の不法行為
特殊の不法行為として,使用者責任,監督者責任,動物所有者・占有者責任,物の所有者・占有者責任を規定している(契約内外債務法 92 条~95 条。旧契約外債務法 10 条~13条参照)。物から生じた損害に対する責任(約内外債務法 95 条。旧契約外債務法 14 条)は,土地工作物(日本民法 717 条等)などに限定せず,広く物の所有者または占有者の責任を肯定している点が興味深く,参考になる。