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加工   ラオスにおける民事関係法制に関する調査研究3
2016年04月26日

加工 ラオスにおける民事関係法制に関する調査研究

法務省HPより

 

 

Ⅳ 財産法制

 

 

 

1.私有財産権の承認・保障 財産法は,ラオスの所有権秩序の根幹をなすものとして,基盤的な重要性をもつ。それは,財産権を定義し,それを 5 種類に分類し,各種財産権の対象,内容,取得,利用規制をしている。それは,一方では,「消費財,個人用途の商品,施設,住宅,家具,家畜及び個人所得」を対象とし,「必要に応じて自らの資産及び所得を占有,利用,収益,処分する権利」として「私有財産権」を定義し,その保護を保障している(財産法 1 条,2 条,20 条,21 条)。

これに加え,財産法と同日に成立した相続法(2008 年に改正)により,これを含む様々な財産権の法定相続または遺言による承継が認められたことにより(相続法旧 1 条・2 条・15 条・32 条・33 条,相続法 9 条・24 条など。財産法 35 条も参照),私有財産制度を承認している 36。

 

 

 

 

2.土地に対する所有権の観念

 

 

 

ラオス憲法(2003 年改正)では,「土地については,国家共同体の所有に属し,国家は法律に従い,その土地を使用,譲渡及び相続する権利を保護する」(17 条)と規定する 。その結果,個々の国民(私人)がもちうるのは,国家によって認められた土地の「使用権」である 。もっとも,個々の国民(私人)が土地の「所有権」をもち,それが私人間で売買され,移転する旨の表現も行われている。

ラオス憲法制定に際して土地は誰のものかが議論され,国民全体のものであると観念され,財産法でも土地はラオス国家全体の所有とされ,個人には政府の管理下で使用権と相続権が認められるとされた 。その後,現在の考えでは,ラオス国民も土地の所有権をもっていると考えており,これについてはイギリス等のコモンウェルスにおける土地所有権概念(形式的には国王の所有であるが,実質的には国民が所有しうる)に類比する説明も行われている。

 

 

 

こうした土地所有権観念の変化は,財産法・土地法の改正に反映している。元々財産法 20 条によれば,土地は自由に使用できず,売買も禁止されているが ,市場経済の進展に伴い,政府通達により,土地の所有権は売買によって取得されることが認められた。2003 年土地法(改正)では,土地が売買の対象外である旨の規定が削除された。そして,土地使用権を売却,譲渡,交換によって他の者に与える権利が認められた(土地法 57 条。2003 年改正による)。土地法は,土地使用権は国家による割当てのほか,譲渡,相続によっても取得されると規定しており(土地法 52 条),土地使用権の保有者の権利として,土地を保護する権利,使用する権利,用益に関する権利,譲渡する権利,承継に関する権利を認めている(土地法 53 条~58 条)。

 

 

 

 

 

こうした法意識の変化および政府通達に伴い,財産法自体を改正すべきであるとの意見も出ている。ラオスの法実務および一般市民の意識としては,土地に対する私人の「所有権」が成立するという観念が普及している。このことは,革命前後の土地所有権の連続性の経緯が影響を与えていることも考えられる。ラオスでは,革命時には,従来の土地を国家によって接収された者もあったが,土地の占有をそのまま認められた者も少なくなかった。

 

 

 

 

それらの者にとっては革命前の土地の占有(所有権に基づく)と革命後の占有は連続性をもっている。この事情(社会的実体)が,社会主義下での土地の使用権をも「所有権」と呼ぶ意識の基底にあるように思われる。これに加え,土地の使用権の期間が限定されていないこと,譲渡・担保権設定等の処分が自由であること,相続が認められることと相俟って,社会主義憲法下での土地使用権という建前にもかかわらず,一般市民がこれを「所有権」と意識することをごく自然なものにしていると考えられる 。

 

 

 

3.土地と建物との関係(建物の独立不動産性)

 

 

 

土地と建物の関係,建物の独立不動産性は,ラオス法では明確でない 。担保取引法 22 条(不動産の性質の決定と価格評価に)は「不動産に関わる担保契約は,担保として使用されるかかる不動産の価額評価ならびにその区分,種類,大きさ,品質,数量,および所在といった当該不動産の特性に関する明確な記述を含むものとしなければならない」と規定し,担保権の客体を明らかにすることを求めているものの,建物が土地と独立した不動産かを明らかにしていない。
ラオスの法実務家の中には,(a)土地に担保権を設定した場合,担保契約書に建物を担保不動産に含めると明確に記載していなければ,建物は含まないとの見解と,(b)担保契約書に記載されていなくとも,建物および土地の付属物は担保不動産に当然に含まれるとの見解がある 。後者は,ラオスでは建物について独立した登記制度は設けられていないため,法実務では土地と建物を一体的に捉えることを前提にしつつ,事案に応じて利益調整を図っているという理解によるものと考えられる。

 

 

 

 

ポリー
「建物は登記の制度がないっていう国は結構あるんですね。」

 

 

 

4.物権的請求権
財産権の保護に関しては,財産権に基づく請求権として,返還請求権,妨害排除請求権,財産権の侵害を生じさせるおそれのある障害の除去請求権,財産権の確認請求権の類型を規定する(財産法 57 条,62 条,63 条)。
その際,善意の占有者に対しては果実・収益の取得や費用の償還請求を認めるが,悪意の占有者には一切否定しており,時効取得の場合と併せ,悪意者に対する制裁的色彩が比較的強い(財産法 59 条~61 条)。

 

 

 

 

 

5.物権変動

 

(1)一般原則

 

財産法では,民法関連法規として,財産権の取得・喪失・消滅に関する財産法Ⅴ章(28 条~55 条。物権変動に対応する),財産権の保護に関する財産法Ⅵ章(56 条~68 条。物権的請求権に対応する)が重要である。また,後述のように登記が必要とされる不動産物権変動に関しては,土地登記に関する土地法(2003 年改正参照)10 章(43 条~51 条) ,土地管理局がもつ土地登記の振興・土地評価の実施・土地登記の実行・土地権利証書の発行および土地統計の収集の権限と義務に関しては土地法(10 条 5 号)が規定している。

 

 

 

 

 

ラオス民法では,財産権は,原則として財産の引渡し(当事者間の授受)によって移転するが,引渡前であっても当事者間で財産権の移転時期を契約によって定めたときは,それによる(財産法 28 条 1 項。なお,契約内外債務法 41 条はこのことを前提にしている)。ただし,登記が必要とされている財産権は,「登記が完了した時」に移転する(取得者の下に財産権が発生する)(財産法 28条 2項)。かかる物権変動の原則を引渡主義と呼ぶべきか,当事者の私的自治に委ねている部分の広さをどの程度のものと解釈するかにより,意思主義的要素も無視できず,ファジーな性格を残している。財産法によれば,所有権移転の要件は以下のとおりである。
【財産法 28 条】財産〔権〕の取得
①財産〔権〕の取得は,資産が法律に従い付与される〔引き渡される〕か,受領された際に発生する。〔資産における〕財産〔権〕は,かかる資産の付与または受領前に締結された契約に基づき取得することもできる。
②資産を別の個人に付与することを盛り込んだ契約,またはかかる資産が未だ登録されていない場合,財産〔権〕は,たとえ付与行為が発生していたとしても,登録が完了した際に発行するものとする。

【財産法 29 条】資産の引渡し
①資産の引渡しとは,受益者として指定された組織または個人に資産を与えることである。
②〔かかる資産を〕受益者へ搬送することを目的とした運送業者または郵送による資産の付与,および輸送書類または荷物の引渡しは,かかる資産を受益者へ付与する行為とみなされる。

ここでは,財産と財産権の概念的区別は必ずしも明確でない。したがって,所有権の移転は,財産の移転を基本に理解されている。登記すべき財産は,登記によってそもそも財産権が発生するかのように観念されている。「財産〔権〕は…登記が完了した時に発行する」という表現は,権利と形式が不可分のものという考え方が根強いように思われる。それゆえに,観念的な所有権の移転という概念は未発達であるようにも思われる。

 

 

 

 

 

 

(2)不動産取引

 

(ⅰ)法令の規定

 

ラオスの土地取引実務では,土地の所有権移転のために,①売買契約書,②譲渡証明書,③土地登記証が必要である。もっとも,土地法制定後も土地登記をせず,土地登記証がないまま,代替的文書(村長が発行した証明書など)によって土地の権利を証明し,土地取引が行われていた。しかし,現在の土地取引実務では土地所有権の移転を登記することが一般化してきている 。その際には,公証人の証明を受けた譲渡証明書と土地登記書が必要である。公証人は土地登記証(その真正さ,担保権設定の有無など)のほか,契約書の適性(例えば,僅かな額の借金のために土地に抵当権が設定されようとしていないか,利息はどうなっているか,水田の場合に土地だけか,作付米を含むか,被担保債権額が土地価格を超えていないかなど)も確認する。

 

 

 

すみれ
「公証人偉いね。」

 

 

 

 

1 個の土地の上に複数の抵当権を設定することは可能であるが ,被担保債権の総額が土地の価格を超えないことが要件となる。このことも経済の発展状況に応じた法発展の例ということができよう。
また,ラオスの人々の一般的意識として,法実務家も含め,「登記簿に所有者として記載された者には所有権がある」と観念されるのが一般的であり,登記(形式)から概念的に分離された抽象的な権利(実体)の観念は明確でないように思われる。

 

 

 

売買等に基づいて土地所有権の登記を申請する個人または組織は,村落行政体,および地域または市町村の土地管理当局を通して,地方または都市土地管理当局に申請書を提出しなければならない。その際に提出すべき書類は,①土地取得証明書(国家による土地割当証明書,譲渡または相続の証明書),②農地または森林地の場合は土地証明書(3 年間の土地証明書を指す),③当初の所有者または土地が所在する場所の地方行政当局からの土地保証に関する証明書(これは,当初の所有者がかかる土地を現行所有者へ譲渡する権利を有していたという保証事項を盛り込んだ書類を指すものである),④その他の必要書類である(土地法 45 条) 。ちなみに,土地登記には職権による登記の場合と申請による登記の場合がある(土地法44 条)。

 

 

 

 

 

土地登記に関しては,土地法制定前から,すでに 1992 年土地所有・管理令(1992 年命令 99 号)に従い,世界銀行およびオーストラリアの支援を受けたトレンズ・システム方式の地積調査・土地登記・権原証書の発行のパイロット・プロジェクトが実施された 48。土地登記の後に(90 日間の異議申立期間の経過後に)発行される土地権原証書(いわゆる地券。様式・記載内容は土地登記簿と同様)は,土地使用権の「唯一の証拠書類」とされる(土地法 49 条)。その証明力が実際どの程度のものであるか,いわゆる公信力にまで至るかは,なお明確ではない。加えて,土地登記および土地権原証書の発行が進行する中で,法定の手続(財産法 28 条 2 項,土地法 45 条・51 条など)によらず,同手続の煩雑さや費用を回避するために,土地権原証書それ自体の授受による譲渡や担保権設定の例もあるといわれ,その定着や効力については,今後の推移をみる必要があろう 49。

 

 

 

 

 

(ⅱ)登記手続の実際 一方で,都市における土地取引は,公証局での手続(2009 年改正公証法による)と土地登記所での手続に二分される 50。公証人は司法省の中にある公証局(局長 1 人,副局長 2 人,専門官 13 人。そのうち,公証事務に関係しているのは 5 人),県・都の公証局(所長 1人,副所長 1 人,専門官 5 人),ヴィエンチャンの 9 郡のうち,離れた場所にある 2 郡の公証ユニット(所長 1 人のみ)に属している。公証は局長・所長だけがサインできるが,テクニカル・スタッフ(専門官)が補佐する。公証人は,①取引が真実に存在するか,②法律に照らして正当か(ラオス人同士の取引かなど)を確認する。公証に際して必要な書類は,①契約書(売買契約書など。土地の場所,番号も記載),②土地登記簿(①と合致しているかを確認),③土地登記簿が正当かどうかを証明する書類(「土地に関する正当性の証明書」。土地管理局が発行する。抵当権が設定されていないかどうかなどを証明するもの)である。公証の申請は,共同申請主義・当事者出頭主義・本人出頭主義であり,申請者の
拠として使用可能な物件の痕跡が何もない場合は,土地権利証書の写しが発行可能となる前に,土地が所在する場所の地方人民裁判所から裁定が下されなければならない。いずれの場合も,土地権利証書の写しの発行に先立ち,規制事項に従い,30 日間にわたる一般大衆への通告が行われなければならない(土地法 50 条) ヴィエンチャンの土地登記所でも,登記簿,地図,権原証書,譲渡証書等の作成実務を確認した(2003 年 8 月)。

 

 

 

 

 

 

このほか土地法は,登記関連部局における土地登記の事務処理手続(土地法 46 条),土地登記簿の構成(47 条),土地証明書(土地法 48 条),土地権利証書(土地法 49 条),土地管理局の権限と義務(土地法 10 条)について規定している。
49 ヴィエンチャン都・公証局長カンパイ氏からの聴取調査(2014 年 8 月 26 日)による。拇印を押す。

ついで,当事者が土地管理局(資源環境省の所管)に赴いて所有権,その他の権利の登記を申請する。登記が行われると,登記証書が 2 通発行される。①1 通(原本)は所有者本人に交付され,②もう 1 通(コピー)は登記所が保管する。登記証書の記載内容は,土地の用途,地図,所有者の氏名である。裏面には当該土地の所有者の移転経過などが記載される。③土地税(land tax)の納税を郡の登記所で行う。
なお,抵当権設定登記手続(2005 年担保取引法,2011 年担保執行首相令による)の場合は,抵当権設定者は,貸主(銀行)に①土地登記簿のオリジナル,および②土地登記簿が正当かどうかを証明する書類を提示し,土地価格の評価を受けて,金銭消費貸借契約をする。それについて公証局でチェックを受けたうえで ,貸主(銀行)と借主が拇印を押して,確認を受けた旨の書類を 2 通作成する。1通は公証局に保管し,もう1通を土地関管理局にもってゆき,抵当権の記録をする。

 

 

 

 

 

 

他方で,地方における土地取引は村長の面前での手続と土地管理局での手続に二分される 52。まず,①村長が土地の売買契約書(当事者,物件の同一性,合意内容などを含む)を確認し,サインをし,村の印を押す。ついで,②当事者が郡(district)の土地管理局に赴き,登記を申請する。登記が行われると,登記証書が 2 通発行される。①1 通(原本)は所有者本人に交付され,②もう 1 通(コピー)は登記所が保管する。登記証書の記載内容は,土地の用途,地図,所有者の氏名である。裏面には当該土地の所有者の移転経過などが記載される。③土地税(land tax)の納税を郡の登記所で行う。このように農村では村長が土地取引の公証人の役割を果たしている。

 

 

 

 

 

 

(3)取得時効

所有権の原始取得に関する規定(財産法 36 条~44 条)のうち,財産法 42 条は取得時効について定めている。すなわち,「他人資産の善意占有による財産権の取得」であり,①不動産については 20 年間,動産については 5 年間,他人の資産を自分が所有者であるのと同様に善意で継続して占有した者は,かかる資産に対する財産権者となることができる。こうした善意の占有は,公然,継続かつ平穏に表れている必要がある。この期間を経過した後,本来の財産権者は,上述の資産に対する返還請求権を有しない(財産法 42 条 1 項)。

 

 

 

 

 

 

②前記の者が資産を占有している期間がいまだ第 1 項の期間に満たないもののこれを善意で他人に占有を引き渡した場合,財産権を取得するのに必要な期間は,最初の者が占有を開始した日から計算し,上述の期間を経過した後,新しい占有者が財産権を取得する(同条 2 項)。③国有財産又は共同体財産は,いかなる場合であれ,第 1 項の期間が満了しても,善意の占有者の財産とはならない(同条 3 項)。
取得時効の期間は,不動産は 20 年,動産は 5 年であるが,いずれも「善意で継続した占有」を要件にしている。この善意は時効取得に必要な期間中継続していることを要する点に特色がある。例えば,BがAから引渡しを受けたSの土地を 19 年 10 か月経った時点で,真の所有者Sから明け渡すよう申し立てられ,その後,占有開始時から 20 年 6 か月経った時点で訴えが提起された場合,Bの「善意」要件が満たされないことを理由に,取得時効の成立は認められない。
SがBに明渡しを申し立ててから提訴までの期間は制限されていないが,SのBに対する明渡しの申立ては書面で行わないと証明が困難であるから,例えば,慣習的に村長に依頼して書面による申立てをしてもらうことがある。
なお,ラオス法には,提訴時効があり,契約に基づく権利の場合,原則として契約期間終了時または損害発生時から 3 年で提訴時効が成立する(契約内外債務法 102 条)。

 

 

 

 

 

 

(4)善意取得

 

(ア)善意取得の根拠規定 善意取得に関連する規定として,財産法 58 条と契約内外債務法 42 条(旧契約法 40 条も同旨)および両者の関係が注目される。すなわち,財産法 58 条は,物権的請求権(所有権に基づく返還請求権。前述4)関連の規定の中で,真の所有者が財産の返還請求する際に,相手方たる占有者が他人の財産であることについて善意・無過失であったときは,占有者に対して「その財産の価値に応じた補償」をしなければならない旨を規定する(財産法 58 条 2 項)。一方,契約内外債務法 42 条は,売買及び交換に関する一般規定の中で,他人の財産を「市場での適切な価格」で購入した者が善意であったときは,真の所有者が返還請求するときは,「購入者が支払った代金」を償還すべきことを規定する(契約内外債務法 42 条 1 項)。各条文内容は,以下のとおりである。
【財産法 58 条】善意による財産の非合法的占有
①財産を善意で保有する非合法的占有者とは,かかる資産が他の個人の財産であると関知しないか,〔相応の注意を払ったとしても〕関知し得なかったと思われる者のことである。
②この場合,当初の所有者がその財産の返却を要求した場合,かかる占有者は返却しなければならないが,所有者は資産価額に応じて占有者に補償しなければならない。当初の所有者は,財産を非合法的に引き渡した者から損害の補償を要求する権利も有する。
③占有者が付与または相続により財産を受領している場合,財産価額または損害に関する補償は一切ない。

【契約内外債務法 42 条】違法に取得した財物の購入
①善意による財物の購入者は,自らが法律に適合して財物を購入したと信じている者であり,購入時における市場での適切な価格により購入したこと,並びに公然と,継続的に,平穏に購入し,かつ使用していることに示される。財物の所有者は,購入者が支払った代金を償還するときに限り,その財物を取り戻すことができる。財物の所有者は,自己の財物を違法に販売した者に対する訴えを提起する権利を有する。

②悪意による財物の購入者は,法律に反する財物を購入していることを知りながら,又は知りうる状況にありながら,その財物を購入した者であり,購入時における市場からみて不適切な価格により購入したこと,秘密に,非継続的に,又は非難されているにも拘らずに購入し,かつ使用していることに示される。財物の所有者は,購入者に対していかなる賠償も支払わずに,財物の返還を求める権利を有する。購入者は,販売者に対して,財物を購入した代金の返還を主張することができるが,裁判所に訴えを提起する権限を有しない。

これらの規定について,注目すべきは,第 1 に,他人物売主Yから物を買った善意の買主Xの保護(善意者保護)は,いわゆる即時取得によるのではなく,①真の所有者AがXから目的物の返還を求めるためには価格賠償義務を負い,②Aがこの価格賠償義務を果たさないことにより,Aは目的物の返還をしないことにした(または返還請求しないことの反射的効果としてXは目的物の返還を免れることになった),それによってよるXの所有権取得が認められるという限りで図られることになる。これら①・②の 2 段階の説明により,《なぜ無権利者と取り引きしたのに権利を取得できるのか》,いわば無から有を生じるのはなぜか,という,即時取得制度の法的説明に対する根本的な疑問に答えるための 1 つの方 途を見出すことができるように思われる 。それは,真の所有者による返還請求権の制限が善意者保護の原初形態の 1 つと考えられることとも符合する 。

 

 

 

 

 

 

しかし,現行日本民法の構成を所与の前提にしてしまうと,代価賠償義務(民法 194 条)は,即時取得の原則(民法 192 条)に対する盗品・遺失物の回復の例外(民法 193 条)の例外(市場や商人から取得した者に対しては,代価賠償を要する)と位置づけられていることから,即時取得――いわば無から有を生じる――こそが原則にみえてしまう。

しかし,即時取得制度は,①《何ぴとも自己のもつ以上の権利を他人に移転することはできない》という原則から出発し,② 所有者に価格償還義務を課すことによる善意者保護制度による所有権取得(所有者が価格償還をしてまで取り戻すことを止めた結果としての善意者による取得)を経て,③取引安全をさらに強化するために,価格償還による取戻しを制限した結果として成立したものと位置づけることが可能になる。このように③段階の即時取得制度は,②段階の価格償還義務の段階を介し,さらに取引安全を強化するためのその発展形態として位置づけることにより,法的説明が可能になる。ラオス法は現在この第 2 段階にあると位置づけることができる。

 

 

 

 

 

この形態の善意者保護は,即時取得制度に比べると,所有権の保護にややウェイトを置く形で,取引における善意者保護に配慮しており,静的安全と動的安全とのバランスの取り方として,注目される。以上のような意味で,ラオス現行法における善意取得制度の現状の確認は,重要な意味をもつものと考えられる。

第 2 に,財産法 58 条と契約内外債務法 42 条は,規定内容がほぼ重複しているようにみえる。その一方で,所有者が占有者に償還すべき価額につき,財産法 58 条 2 項は「資産価額に応じて…補償」と規定するのに対し,契約内外債務法 42 条 1 項は「購入者が支払った代金を償還」と規定しており,両者の関係が問題になる。実務上は,財産法 58 条 2 項の「資産価額」は取得時における「市場価格に基づく代価」を意味すると解釈することにより,買主Xが売主Yに支払った代価を意味するものとして,契約内外債務法 42 条と統一的に解釈している 。
例えば,①X所有の水牛をAが無断でBに 70 万キップで売却した場合,その後XがBに返還を求めた時点では当該水牛が 100 万キップに値上がりしていたときでも,70 万キップを償還すればBから返還を受けることができる。

 

 

 

この場合,Bが目的物の使用利益を得ていると考えられるから,Bとしては 70 万キップの償還を受けることが衡平であろう。それに対し,②XがBに返還請求をした時点で水牛の値段が 50 万キップだったときでも,70 万キップを償還しなければならないとすると,Bにむしろ利益を与える場合もある。とくに減価償却が行われる資産の場合,Bは使用利益と元の資産価値の双方を取得できることになり,この場合はむしろ返還請求時の時価を償還すべきとする方が衡平な場合もある。ラオスの実務家の中には,値段が下がったときは支払った金額を払わなければいけないが,上がったときには,(a)AB間の契約時にBがAに支払った代金額であるという見解と,(b) 最初に支払った金額を現在の時価に換算すべきであるとの見解があり,なお流動的である。
将来的にはこれら 2 つの規定は新立法によって一本化されることも考えられる。

 

 

 

(イ) 善意の主張・立証責任
「善意」(財産法 58 条 1 項,契約内外債務法 42 条)については買主Xが立証責任を負うものと解されているが,善意の推定規定(日本民法 186 条参照)はないことから,訴訟では両当事者ともに証拠を提出することを求められており,それに従ってどれだけの証拠を提出できるかが重要になってくる 。

 

 

 

 

 

(ウ) 果実の返還
他人物売主Aからの取得者Bが所有者Xに目的物(例えば,水牛)を返還する際に,Xの取得後・返還前に生じた果実(例えば,生まれた水牛の子)も返還すべきかについて,ラオスの実務家の間では,(a)Xの取得時に水牛が妊娠していれば返還すべきであるが,Xの取得後に妊娠したときは返還しなくともよいとの見解,(b)妊娠時期がXの取得前か後かを問わず,子牛も水牛から「生じた」果実(財産法 60 条 2 項)であるとすれば,XがAから代価賠償と引き換えに返還請求されるまでに生まれた子牛はXのものになるが,「生じた」の解釈によるとの見解がある 。

 

 

 

 

 

(4)財産権の内容・用益物権関連
いわゆる用益物権については,財産法には規定がなく,財産権の行使範囲に関する規定の中に,相隣関係的な法規が存在するにとどまる(財産法 46 条~54 条)。そこには,隣地から越境した樹木の枝や根の切取権(ただし,所有者への通知後 7 日以内に返答がない場合。財産法 48 条 1 項),囲繞地通行権(財産法 49 条 1 項),排水溝の敷設権(財産法 50 条)などが含まれている。
他方,土地法は,財産法よりも遅く 1997 年に制定されたが,2003 年に改正された。これは,1990 年財産法に基づく市場経済システムの導入に伴い,土地使用権の分配(設定)や侵害をめぐって紛争が頻発し,社会問題化したことも背景にしているとみられる 58。土地法は,土地所有権が国家共同体に帰属することを規定する(土地法 3 条。なお,2003 年憲法 17 条も参照)一方で,土地に対する使用権の設定 ,その譲渡,相続,使用,果実収取等を承認する(土地法 13 条,52 条~58 条,65 条~66 条。なお,2003 年憲法 17 条も 参照)。また,外国人の使用権は最大 30 年(更新可能),外国投資家の使用権は最大 50 年(更新可能),経済特別区の場合は最大 70 年(国会決議によって更新可能)とされている(土地法 65 条)。もっとも,土地法の規定上,更新は「事案に応じて」とされており,国家による土地管理が前面に出た規定となっている。
また,公用収用に対する損失補償も規定されている(土地法 71 条) 。