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加工   ラオスにおける民事関係法制に関する調査研究2
2016年04月26日

加工 ラオスにおける民事関係法制に関する調査研究

法務省HPより

 

 

 

Ⅲ 民事関係法制の概要

 

 

1.ラオスの司法制度の現状
ラオスの民事関係法制を検討するに先立ち,司法制度の現状を確認しておくことが便宜である 。ラオスの司法制度に関する主要データは,以下のとおりである 。
最高人民裁判所の統計(2013 年)によれば,ラオスには最高人民裁判所(1 か所),高等人民裁判所(3 か所),県人民裁判所または首都人民裁判所(16 か所),郡人民裁判所(39か所)が存在する 。裁判官数は約 375 人,軍事裁判官数は 29 人である。

 

 

最高人民検察院の統計(2013 年)によれば,ラオスには約 348 人の検察官がおり,約 1070 人の検察事務官が存在する。
ラオス弁護士会(the Lao Bar Association: LBA)に登録された弁護士数(2013 年 12 月 30 日)は 146 人であり,ほかに 23 人のインターン生が,近々弁護士登録する予定である。他に約 40 人の法律コンサルタントが活動しているが,LBA には登録されておらず,裁判所で弁論等の活動をすることはできない。

 

 

 

ラオスでは,人口比(10 万人当たり)で比較した場合の裁判官・検察官・弁護士という主要法曹人口の相対的割合において,裁判官の数が比較的多いのに対し,弁護士の数が極端に少ないという特色がある 。その一因は,政府主導による法運営の中で,事件解決のために職権主義的に関わる裁判官および検察官の果たす役割が大きいこと,それと相関的に,弁護士に固有の職務の意義やその必要性についての認識・理解が未成熟な中で,弁護士に対する実務的要請が少ないことにもよると考えられる。

ヴィエンチャン首都裁判所に第 1 審が係属した民事事件数(2013 年)は,331 件であり,そのうち 166 件が判決済または終了済で,145 件が係属中である。他に同裁判所には 68 件の家事事件の申立があり,44 件が終了済で,24 件が係属中である。

 

 

 

 

刑事事件は,同じくヴィエンチャン首都裁判所に第 1 審が係属した数(2012 年)は,931件であり,851 件が終了済,80 件が未済である。
ちなみに,裁判官が 1 人当たり抱えている事件数は 200 件程度であるが,減少傾向にあるとされている。その原因として,39 の簡易裁判所が設けられ,高等裁判所も北部・中部・南部の 3 か所に設置されたことが大きいと考えられている。事件解決に要する時間は,事案によって大きく異なるが,証拠に問題がなければ,第 1 審では 2 か月程度,控訴審では 2 週間~3 週間で判決が下される。他方,証拠が不十分な場合は,裁判官が職権で調査できるし,しているとの回答が注目される。なお,裁判官の報酬は,現在は特に根拠法規がなく,40 歳前後の裁判官で,正式な給与は 100 万キップ程度であるとの回答がされている 22。

 

 

 

2.ラオス法の法源と個人の権利・義務

民事関係法制の制度的基盤として,最初に,ラオスにおける法源の状況および個人の基本的な権利・義務の根拠がどのように捉えられているかを確認しておきたい。
ラオス法の法源としては,①憲法,②法律,③国民議会決議,④国民議会常務委員会の決議,⑤国家主席令,⑥政府決議,⑦首相による命令・決定・通達,⑧大臣による命令・決定・通達,⑨県知事による命令・決定・通達,郡長による命令・決定・通達,⑩村の規則がある。

 

 

 

憲法は第 1 条から第 98 条まで存在し,その第 34 条以下の部分に第 4 章として「国民の基本的権利及び義務」を定め,またラオス国籍法 2 条 1 項において,ラオス国家に対する個人としての市民の権利義務の付与およびラオス国家の市民に対する権利義務の付与について定められている。ここでいうラオス国民(市民)とはラオス国籍を有する者であり(国籍法 2 条 1 項),ラオス国籍は出生,帰化,およびラオス国籍の再取得により取得される(国籍法 9 条)。なお,国籍法にはそれら以外にも,父母の一方がラオス市民である場合の子,無国籍者を父母として出生した子,父母が知れない子,および外国市民または無国籍者についての国籍取得に関する規定が存在する(国籍法 11 条ないし 14 条)。

 

 

3.ラオスにおける民事関係法制の形成

 

ラオスにはフランス統治下で編纂された民法典(27 章 345 か条。1950 年 3 月 31 日法律68 号)23が存在したが,ラオス王国の独立(1953 年 10 月)後,クーデタを伴う内戦状態が続いた末にラオス人民民主共和国の成立に至ったため,形式的には承継されていない。 ラオスは 1975 年の王制廃止,ラオス人民民主共和国の設立以来,統治原理として社会主2014 年 11 月 25 日~12 月 2 日,2015 年 2 月 9 日~17 日におけるラオス裁判官(複数)へのインタビューによる。
22 松尾 2007: 41 頁注 8,51 頁【表1】参照。義を採用している。ラオスにおける民事関係法制は,個別制定法の形式を中心に,1986 年の人民革命党大会における新思想(チンタナカーン・マイ)・新制度(ラボップ・マイ)の導入を契機に,1990 年を中心に相当短期間のうちに立て続けに形成された。その主要なものとして,1990 年に財産法,契約法,相続法,家族法,契約以外の債務法(2008 年 12月 8 日,契約法と合体し,契約内外債務法に統合),民事訴訟法(1994 年,2004 年,2012年に改正)が,1991 年には家族登録法(2008 年に改正),公証法が,1994 年には担保取引法(2005 年に改正)が,1997 年は土地法(2003 年改正)が制定された。2008 年には家族法,相続法,契約内外債務法等,民法関連法規の比較的規模の大きな改正が行われた。

 

 

 

 

 

ラオスの民事関係法制の制定準備プロセスでは,世界銀行の支援の影響が大きかったとみる分析もある 。しかし,民法関連の主要法規に関しては,まずは社会主義諸国の影響を無視することができない 。すなわち,1989 年にソビエト(当時)の法律アドバイザーがラオスを訪問し,社会主義法の改正についてアドバイスが行われた。1990 年の一連の立法のうち,財産法,契約法,契約外債務法(不法行為法),家族法,相続法の制定に際しては,ソビエトおよびベトナムの専門家がアドバイザーとしてラオスを訪れた。起草に際しては,ソビエト法,ベトナム法がモデルとされた。フランス法もわずかではあるが参考にされた。

 

 

 

なお,契約法および不法行為法は,2008 年に改正されたが,その際には外国人アドバイザーの手を経ずに,ラオス人のみによって起草された。
他方,担保取引法(1994 年。2005 年改正)およびその施行のための首相令は,世界銀行グループに属する国際金融公社(International Finance Center: IFC)のアドバイザーがラオスを訪れ,起草支援をした。

 

 

 

 

 

また,土地法(1997 年。2003 年改正)は,アメリカ(USAID),ドイツ(当時の GTZ。現在の GIZ),オーストラリア(AUSAID)の支援によって起草された 。また,アジア開発銀行(ADB)の支援でラオスのチームがオーストラリアに研修に行き,トレンズ・システム(Torrens System)について学んだ。2003 年の土地法改正は,土地登記手続など,主として手続規定が中心である。また,土地登記の管理が,財務省から資源・環境省が管轄する土地管理局に移管された。土地法は近い将来さらに改正が予想されている。とくに,土地のコンセッションの期限が到来した場合の更新,外国人を含む土地投資を促進するために土地使用権の種類を現在の 8 類型からさらに増やすことを計画している。

 

 

 

 

一方,1990 年頃の立法初期においては,当時のラオス司法省の幹部(フランス語を解し,フランス民法の教育を受けている)に対し,アメリカのアドバイザーも関与した 。最近では,2008 年からアメリカが契約内外債務法を含む商事法のパフォーマンスを測定・評価するプロジェクトを実施している 。

このような経緯を背景にして形成された現行ラオス民法の特色として,①個別立法積上主義による複数法規への分散,②比較的簡潔な条文構成,③フランス法的要素 ・社会主義法的要素・英米法的要素・国際取引法の要素の混合的性格,④ラオス人自身による立法と適用の試行錯誤の蓄積という特色を見出すことができる。

 

 

 

 

1980 年代末以降における自由主義経済システムを導入するための一連の立法に対しては,ラオス内部でも,「世銀の主導に対応して一通りの早急な法整備を実施してきたものの,簡素な単行法の羅列の観を呈しており,内容的不足や深刻な不整合が存在すること」などへの危惧も生じていると指摘されていた 。その一方で,これらの個別単行法は裁判で適用され,試行錯誤的に部分改正も行われてきたことも看過すべきでないように思われる。

 

 

 

 

 

概してラオスの立法は,外国法令をそのまま移植することはせず,ラオスの起草者自身が独自にアレンジし,原案を作成する方式をとっている。その他の点で,外国法・外国人の影響は非常に少なく,民事訴訟法に関してオーストラリアのアンドリュー・ウィルソン(Andrew Wilson)が協力した程度である。2003 年以降は日本人の専門家がほとんど唯一の外国人協力者となった 。

近年は民事訴訟法の改正(ラオスでは 2003 年改正憲法に基づき,司法行政権が司法省から最高人民裁判所に移管され,司法部の独立への動きが加速したことを背景に,権力分立へ向けた動きが加速した。その一環として,1990 年民事訴訟法(72 条~77 条)に存在した確定判決のやり直しを命じる監督審制度が,2004 年改正民事訴訟法で廃止され,上告制度が導入された(109 条~114 条) 。また,2012 年民事訴訟法改正の準備過程では,検察官の立会権を制限するなど,当事者主義の強化が争点になった。これについては検察院との間で議論が続いている 。また,国会との関係でも,裁判所の法解釈権限には制限があるとの理解が根強く残っており,そのことが判例集の作成・公刊,そうした活動を通じた判例(法)の形成に対しても制約要因となりうることにも注意する必要がある 。しかし,これらの点も踏まえつつ,全体的傾向として,ラオスでは司法部の独立に向けたプロセスをゆっくりと歩んでいるとみることができるように思われる),知的財産法の制定,企業法の実施,弁護士法の制定準備(ラオス弁護士会が起草し,現在は曖昧になっている外国法律事務所の設立に対する規制等も含む予定),包括的民法典の編纂準備へと進み,基本的にシビル・ロー体系の色彩を強めていることが注目される。

 

 

 

 

 

 

このように経済・社会の変化に応じて個別立法積上主義で対応してきたラオスに対する法整備支援,とくに日本によるそれは,法令集,判決マニュアル,法律用語辞書,民・商法教科書等の作成支援等,ラオス人自身による法整備を比較的時間をかけて間接的に支援するプロセス志向型で実施されてきた 。こうした法整備および法整備支援のラオス・モデルが,今後,司法アクセスの拡充を含め,法整備と経済・政治・社会の発展の次の段階にどのように作用するか,注目される。