加工内閣府第2回デジタル基盤ワーキング・グループ自筆証書遺言のデジタル化について

加工内閣府第2回デジタル基盤ワーキング・グループ自筆証書遺言のデジタル化について

令和4年3月1日(火)

https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2201_05digital/220301/digital02_agenda.html

議題1.自筆証書遺言のデジタル化について(SAMURAI Security株式会社、陰山司法書士事務所、法務省からのヒアリング)

議題2.公正証書の作成に係る一連の手続のデジタル化について(フォローアップ)(法務省からのヒアリング)

資料3-1【自筆証書遺言】論点に対する回答(法務省 御提出資料)

分野

自筆証書遺言のデジタル化について

省庁名

法務省

以下の論点について、下記回答欄にご回答ください。

 自筆証書遺言は、民法上、書面・自書(署名を含む)・押印が求められており、デジタル技術を活用して作成することができない。 デジタル社会の実現に向けた構造改革が進められる中、昨年12月には、デジタル臨時行政調査会において、構造改革のためのデジタル原則が提示されたところであり、自筆証書遺言についてもデジタル原則を踏まえた見直しを検討すべきものと考えられる。

【論点1】自筆であっても、遺言の有効性等について争いは生じるものであり、デジタル技術の活用や民間サービスの利用等により、本人確認、真意の確認、方式の正確性等が担保されている場合に、遺言を無効とする理由はないのではないか。遺言の方式を法律で一律に定めるのではなく、本人確認、真意の確認、方式の正確性等が担保されているかという実質に着目するべきではないか。 仮に何らかの規律を設けるとしても、リスクベース・ゴールベースの規律や、技術の進展等を踏まえて機動的に対応し得るような規律(法律には原則を記載し、詳細は政省令で規律)とすべきではないか。

【回答1】  民法上、遺言をするためには、同法が定める一定の方式に従うことが要求されています(注1)。その趣旨は、遺言の場合には遺言者の死亡によって効力を生ずるという特殊性があること等を踏まえ、一定の蓋然性をもって遺言者の真意に基づいて遺言がされたとの判断が可能となるような方式をあらかじめ定めておき、これを満たすもののみを有効とすることで、遺言の有効性に関する信頼を確保してその効力をめぐる紛争の発生をできる限り予防し、その法的安定性を図ることにあります。

 自筆証書遺言については、全文を自書すること等の方式を定めることで、遺言者がその内容を認識し理解した上で作成したものであって、遺言者の真意に基づくものであることを担保することとしています。

 このような趣旨に照らせば、デジタル技術の活用等によって自筆証書遺言と同程度の信頼性を確保することができるのであれば、遺言者の選択肢を増やす観点から、新たな方式を設けることはあり得るものと考えています。このような方向で検討する場合には、デジタル技術の活用等により、具体的にどのような形であれば本人確認やその真意の確認が適正に担保されるかといった観点や、遺言者の負担の軽減といった観点から、検討を進めることになるものと考えています。

 特に、遺言の場合には、その効力が発生する際には遺言者は既に死亡していることに加え、相続人や第三者が被相続人の判断能力の低下等につけ込んで自己に有利な遺言を作成させるというリスクがあるため、他の法律行為以上に、本人の真意の確認を慎重に行う必要があるものと考えています。

 これに対し、遺言について、一定の方式を定めることなく、真意の確認等が担保されているものであれば効力を認めるとの規律を設けるのは困難であるものと考えています。このような規律は、遺言の外部的方式の問題と、遺言という意思表示自体の成立・効力の問題との区別を失わせるものであり(注2)、個々の遺言について、真意の確認等が担保されたものであるか否かについて常に個別的・具体的判断を要することとなって、遺言者自身にとっての予測可能性が害されるのみならず、遺言者の最終意思の実現や円滑な遺産の分割が阻害される結果を招来するおそれがあるためです。

 また、遺言の有効、無効は、相続人だけでなく、相続債権者や被相続人に債務を有していた者など、多くの利害関係人に極めて大きな影響を及ぼすものであり、その信頼性の確保が重要であること等に照らしますと、遺言の方式を政省令で定めることについては、憲法第41条(国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。)の趣旨等に照らし極めて慎重な検討を要するものと考えています。

→遺言の方式変更は形式的な変更に留まらないので、政省令ではなく法改正が必要。

 いずれにしても、新たな方式を定めることの当否や具体的にどのような方式を定めるかについては、遺言者の真意により作成されたものであることの適正な担保等が図られるか、遺言を作成しようとする者のニーズを的確に把握した上で、当該方式によって遺言の有効性に対する信頼等を確保することができるか、とりわけ、前述のとおり、第三者等が遺言の作成に不当に関与するリスクを増大させることにつながらないかといった観点から、慎重に検討を進める必要があるものと考えています。

(注1):民法第960条は、「遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。」と定めています。

(注2):遺言の方式とその成立・効力の問題は区別されるものであり、そのような法制は海外法制においても一般的です。このことは、遺言の方式については、我が国が昭和39年に批准したハーグ国際私法会議条約である「遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約」及びその国内実施法である「遺言の方式の準拠法に関する法律」が適用され(なお、「法の適用に関する通則法」第43条第2項は、遺言の方式を適用除外とする旨を明定しています。)、遺言の成立・効力については「法の適用に関する通則法」(第37条第1項)が適用されることに端的に示されています。

遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約(昭和39年6月10日-条約第9号)

http://www.pilaj.jp/text/yuigon_j.html

法の適用に関する通則法(平成十八年法律第七十八号)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418AC0000000078_20150801_000000000000000

(遺言)

第三十七条 遺言の成立及び効力は、その成立の当時における遺言者の本国法による。

2 遺言の取消しは、その当時における遺言者の本国法による。

【論点2】 自筆証書遺言の作成において、デジタル技術を活用することにより、方式不備の防止が期待されるほか、時間的・地理的・金銭的な制約から専門家のサポートを受けることができない者であっても、自筆証書遺言が無効となるリスクを減少させることができるものと考えられる。一定の規律が必要であるとしても、電子文書や映像等による遺言を認めるべきではないか。

 遺言者の真意の確認についても、デジタル技術の活用や民間サービスの活用等により、自筆以上の確実性が期待できるのではないか。

【回答2】 デジタル技術の活用によって御指摘のようなメリットが生ずることはあり得るものと考えていますが、そのような方向で見直しを検討するに当たっては、前述のとおり、遺言を作成しようとする者のニーズを把握した上で、当該方式によって遺言の有効性に対する信頼等を確保することができるかといった観点から検討を進める必要があるものと考えています。

【論点3】 令和2年7月から自筆証書遺言書保管制度の運用が開始されているが、遺言が不動産登記等の手続に活用されるものであることを踏まえ、そうした一連の手続のデジタル完結を目指すため、自筆証書遺言書保管制度に基づき法務局が保管している遺言について、データによる遺言書情報証明書等の交付を可能とするべきではないか。

 また、現在は、遺言書情報証明書等の申請について、法務局における対面での手続又は郵送によることとされているが、申請手続自体もデジタル完結を図るべきではないか。

【回答3】  遺言書情報証明書には遺言書の画像情報が印刷されており、相続人等は、関係者の戸籍や住民票等を添付して同証明書の交付申請を行った上、自筆証書遺言書の原本に代えて同証明書を用いて、不動産登記や預金解約等の各種手続を行うこととなります。

 そして、遺言書情報証明書は、制度の運用開始から令和3年12月までの約1年半の間に約750件交付されています。

 遺言書情報証明書につき、その申請手続のデジタル化やデータによる交付を行うことについては、国民からのニーズの程度、申請に際して必要となる添付書面のデータ化の進展状況、遺言書情報証明書のデータを用いて行うことができる各種手続の範囲、費用対効果等を踏まえて検討する必要があると考えています。

【論点4】 自筆証書遺言のデジタル化のニーズを検討するに当たって、平成30年の法改正により可能となった自書によらない財産目録の添付について、その活用実績及び効果について把握し、参考とすべきではないか。自筆証書遺言であっても、少なくとも、自筆証書遺言保管制度により法務局に保管されている遺言書については、自書によらない財産目録が添付されている件数を把握することができるのではないか。

【回答4】自筆証書遺言は、第三者が関与することなく作成することができる文書であることから、法務省において、自書によらない財産目録を添付した遺言書の利用実績等を把握することは困難です。

 また、自筆証書遺言書保管制度に基づき法務局に保管されている遺言書についても、法務局においては、自書によらない財産目録を添付した遺言書か否かを区別せずに保管しているため、直ちにその件数を把握することは困難です。

【論点5】 書面による場合に、自書による署名がなされていれば、全文の自書は必要ないのではないか。また、印として実印が求められているわけではなく、「押印」を義務付ける必要はないのではないか。

【回答5】  民法第968条第1項が自筆証書遺言についてその全文(財産目録を除く。)の自書を必要としているのは、遺言が遺言者の真意に基づくものであることを担保し、第三者等が遺言の作成に不当に関与するリスクを低減させるなどのためであり、全文を自書することにより、文書の記載自体から遺言者が全文の内容を認識し理解した上で記載していることが明らかになります。

 そのため、書面による場合に、自筆証書遺言に署名がされているからといって、全文の自書を不要とすることには慎重な検討が必要であると考えます。  また、同項が自筆証書遺言に押印を必要としているのは、当該遺言が遺言者本人の意思によって作成されたものであることを担保することに加え、押印により文書を完成させるという慣行を踏まえ、作成途中の遺言書の下書きと完成した遺言書とを区別する意義も有しているものと考えられます。

 この点、自筆証書遺言が遺言者の死後に自宅等から発見されることが多い現状に鑑みると、近時の行政への申請手続における押印の見直しの状況等を踏まえたとしても、これを不要とすると、この点に関する紛争を増加させるおそれがあり、書面による場合に、自筆証書遺言の押印を不要とすることには慎重な検討が必要であると考えます。

 なお、ここでいう自筆証書遺言の見直しの当否及びその内容の問題と、デジタル遺言のような新たな方式を定めることの当否及びその内容の問題は、区別して議論されるべきものと考えられます。

【論点6】上記を踏まえ、自筆証書遺言の見直しについて、今後どのような体制で、いつまでに何を行うかを示していただきたい。

【回答6】 遺言の作成においてデジタル技術等の利用を可能とすることについては、それによるメリットが想定されることを前提としつつ、前述のとおり、遺言者の真意により作成されたものであることの適正な担保等が図られるか、相続の当事者や一般国民からの信頼が確保されるか、遺言を利用する者にとってデジタル化した遺言のニーズがどの程度あるか等の観点からの調査を行った上で検討していくことが相当であるものと考えています。

 また、諸外国等において、遺言の作成においてデジタル技術等がどのような形で遺言の作成に活用され、運用されているかを調査することは、我が国における遺言法制の在り方を検討するに当たっても有用ですので、諸外国等における遺言法制やその実情等を調査することが相当であると考えています。

 そこで、令和5年度中に、上記の各調査を行うなどの必要な検討を進めてまいりたいと考えています。

【論点7】取組を進めるに当たっては、「遺言」という閉じた世界だけで考えるのではなく、関連する仕組みも含め、社会全体の将来像を意識しながら取り組むことが重要である。

 現在、死亡・相続ワンストップサービスの実現に向けた検討が進められているが、遺言のデジタル化だけでなく、相続手続に必要となる戸籍謄本、除籍謄本、遺産分割協議書など一連の書類のデジタル化を進め、一連の死亡・相続手続のデジタル完結を実現することで、国民の利便性が高まると考えられる。 

 法務省においては、死亡・相続手続の将来像を見据えながら、関係省庁と連携して、必要な取組を積極的に進めるべきであるが、法務省の見解如何。 

【回答7】現行法では、相続の開始後、相続人が、相続の放棄・承認の選択をした上で、遺産分割協議等を経て被相続人の財産の承継を行うことが予定されており、また、遺言がある場合も、受遺者は遺贈を受けるかどうか選択することができます。

 このように相続による財産の承継については、相続人の自主的な判断が尊重されていることから、この場面における死亡・相続ワンストップサービスの実現に当たっては、それぞれの相続人の自主性との調和のとれた制度とすることが重要ですが、その実現については、関係する制度を所管する府省と連携して、引き続きデジタル庁における法定相続人の特定に係る遺族等の負担軽減策の検討に積極的に加わる予定です。

 なお、法務省においては、戸籍謄抄本の添付省略等に向けて戸籍情報連携システムを整備し、令和6年3月から稼動させる予定であるところ、これにより、戸籍謄抄本の請求者の負担軽減を図ることができるよう、デジタル庁等の関係府省と連携しつつ検討を進めてまいりたいと考えています。

→法務省 戸籍情報連携システムに関するお知らせ

https://www.moj.go.jp/MINJI/kosekirenkei.html

(公社)商事法務研究会

デジタル技術を活用した遺言制度の在り方に関する研究会報告書

2024(令和6)年3月

https://www.shojihomu.or.jp/list/digital-igon

資料2自筆証書遺言のデジタル化について

陰山司法書士事務所 司法書士隂山克典

司法書士業務と遺言の関連性について

➢ 不動産登記、商業登記をはじめとした各種登記申請の手続代理

➙ 遺言書を登記原因証明情報とする登記手続も多数

➙ 民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)により、相続登記の義務化が法制化されたため、遺言書の重要性は高まると思われる

➢ 地方裁判所や家庭裁判所等へ提出する裁判書類の作成

➙ 遺言の有効性を確認するための訴訟書類、遺言の検認申立書作成など➢ 成年後見人や遺言執行者等としての財産管理

➙ 遺言の内容に沿った相続手続の執行、内容に疑義がある場合の訴訟など➢ 遺言書の作成の支援

➙ 意思の実現のためのサポート

遺言書のデジタル化に係る諸外国の取組状況について第196回国会 参議院 法務委員会 第21号 平成30年7月5日元榮太一郎委員「紙の遺言書を必要としないで電子情報だけで完結するデジタル遺言ということがあるべき未来の姿ではないかなというふうに思っております」小野瀬厚政府参考人「アメリカにおきましては、一部の州においてビデオ録音や電子署名の付されたコンピューターファイルの形式の遺言が認められておりまして、また、韓国や中国におきましては、録音による遺言が認められているものと承知しております。」

アメリカの一例・・・アメリカ統一州法委員会(Uniform Law Commission)は、2019年7月、統一電子遺言法(UniformElectronic Wills Act)を承認

統一電子遺言法の制定状況等

州法による電子遺言

➢ Florida(2021年2月20日最終閲覧)Statutes732.523「Self-proof of electronic will.—An el ectronic will is self-proved if」

➢ Nevada Revised. Statutes133.085「Electronic will. 1. An ele ctronic will is a will of a testator that」その他、アリゾナ州、イリノイ州の規律が見受けられる

相続が発生した際、自筆証書遺言が原因で生じる紛争について

➢ 訴訟になる事案の多くは、判断能力を有していたか否かが争点になっていると思われる

➙ 東京地裁令和3年7月16日判決(令和元年(ワ)第30518号) 有効➙ 東京地裁令和3年4月22日判決(平成30年(ワ)第33173号・平成30年(ワ)第34196号) 有効

➙ 東京地裁令和3年3月3日判決(令和元年(ワ)第25537号) 無効など

➢ そのほか、本人の自書によるものであるか否かについても争われることがある

➙ 東京地裁令和3年6月23日判決(令和元年(ワ)第20063号) 有効

➙ 東京地裁令和3年4月28日判決(令和元年(ワ)第18640号) 有効

➙ 東京地裁令和3年3月4日判決(平成30年(ワ)第10423号・令和元年(ワ)第20888号) 無効など

  •  遺言書保管法に基づき保管された遺言につき、デジタル交付の可能性➙ 相続手続のデジタル化への第一歩とならないか・・・同意です。画像データに遺言書保管官が電子署名を付した遺言書情報証明情報あれば、印刷された遺言書情報証明書と同様の信頼性が確保されると考えられます。

→デジタル遺言作成が法改正により可能となった場合

□遺言者の本人確認情報が運転免許証、マイナンバーカードからマイナポータルから電子署名と併用、または変更。

1、司法書士が遺言書に付与された電子証明書の有効性確認などを行う

2,デジタル遺言に公的個人認証を付与

3、司法書士が本人確認及び意思確認を行ったことの記録として、電子証明書を付与。

・・・司法書士が公正証書遺言における公証人の役割のうち、本人確認及び意思確認を行う。収益の移転防止に関する法律により、特定取引時に司法書士が行っている本人確認などと類似。

2と3の順序が逆ではないのかなと思いました。

犯罪収益移転防止法施行規則6条1項1号ワに掲げる本人確認方法

3、登記に必要な書類を送信・・・委任状、住民票、被相続人の戸籍の附票など。委任状以外の官公庁が保管している書類については、デジタル遺言が実現した際、システム連携がどの程度進んでいるかによって紙かデータになる。

加工公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の一部を改正する法律

加工公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の一部を改正する法律

公益法人インフォメーション

https://www.koeki-info.go.jp/regulation/koueki_meeting.html

令和6年3月5日「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の一部を改正する法律案」及び「公益信託に関する法律案」閣議決定

公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の一部を改正する法律案

https://www.koeki-info.go.jp/regulation/koueki_meeting.html

※施行期日:公布後1年以内において政令で定める日(令和7年4月予定)

公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の一部を改正する法律

公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(平成十八年法律第四十九号)の一部を次のように改正する。

目次中「第三条」を「第三条の二」に改める。

第一章中第三条の次に次の一条を加える。

(公益法人等の責務)

第三条の二公益法人は、公益目的事業の質の向上を図るため、運営体制の充実を図るとともに、財務に関する情報の開示その他のその運営における透明性の向上を図るよう努めなければならない。

2 国は、前項の規定による公益法人の取組を促進するため、必要な情報の収集及び提供その他の必要な支援を行うものとする。

第五条第六号中「当該公益目的事業に係る収入がその実施に要する適正な費用を償う額を超えない」を「第十四条の規定による収支の均衡が図られるものである」に改め、同条第九号中「遊休財産額」を「使途不特定財産額」に改め、同条第十号中「その配偶者又は三親等内の親族(これらの者に準ずるものとして当該理事と政令で定める特別の関係がある者を含む。)で」を「当該理事と特別利害関係(一方の者が他方の者の配偶者又は三親等以内の親族である関係その他特別な利害関係として政令で定めるものをいう。第十二号において同じ。)に」に改め、同条第十八号を同条第二十一号とし、同条第十七号中「一箇月」を「一月」に改め、同号を同条第二十号とし、同条中第十六号を第十九号とし、第十五号を第十八号とし、第十四号を第十七号とし、第十三号を第十四号とし、同号の次に次の二号を加える。

十五理事のうち一人以上が、当該法人又はその子法人(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成十八年法律第四十八号。以下「一般社団・財団法人法」という。)第二条第四号に規定する子法人をいう。以下この号及び次号において同じ。)の業務執行理事(一般社団・財団法人法第百十五条第一項(一般社団・財団法人法第百九十八条において準用する場合を含む。)に規定する業務執行理事をいう。以下この号において同じ。)又は使用人でなく、かつ、その就任の前十年間当該法人又はその子法人の業務執行理事又は使用人であったことがない者その他これに準ずるものとして内閣府令で定める者であること。ただし、毎事業年度における当該法人の収益の額、費用及び損失の額その他の政令で定める勘定の額がいずれも政令で定める基準に達しない場合は、この限りでない。

十六監事(監事が二人以上ある場合にあっては、監事のうち一人以上)が、その就任の前十年間当該法人又はその子法人の理事又は使用人であったことがない者その他これに準ずるものとして内閣府令で定める者であること。

第五条中第十二号を第十三号とし、第十一号の次に次の一号を加える。

十二各理事について、監事(監事が二人以上ある場合にあっては、各監事)と特別利害関係を有しないものであること。

第六条第一号イ中「第二十九条第一項」の下に「(第四号を除く。)」を加え、同号ロ中「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成十八年法律第四十八号。以下「」及び「」という。)」を削り、同条第二号中「第二十九条第一項」の下に「(第四号を除く。)」を加え、同条第五号中「又は地方税」を「若しくは地方税」に改める。

第七条第二項第五号中「第五条第十三号」を「第五条第十四号」に改める。

第十一条第一項第三号を削り、同条第四項中「及び第三号」を削る。

第十三条第一項第四号中「前三号」を「前各号」に改め、同号を同項第五号とし、同項第三号中「前二号」を「前三号」に改め、同号を同項第四号とし、同項中第二号を第三号とし、第一号の次に次の一号を加える。

二収益事業等の内容の変更

第十三条第二項中「前項第一号」の下に「又は第二号」を加える。

第十四条の見出し中「収入」を「収入及び費用」に改め、同条中「当たり」を「当たっては、内閣府令で定めるところにより」に、「の実施に要する適正な費用を償う額を超える収入を得ては」を「に係る収入をその実施に要する適正な費用(当該公益目的事業を充実させるため将来において必要となる資金として内閣府令で定める方法により積み立てる資金を含む。)に充てることにより、内閣府令で定める期間において、その収支の均衡が図られるようにしなければ」に改める。

第十六条の見出しを「(使途不特定財産額の保有の制限)」に改め、同条第一項中「遊休財産額は、」を「使途不特定財産額は、当該」に改め、「当該事業年度に行った公益目的事業と同一の内容及び規模の」及び「引き続き」を削り、「事業年度における」を「事業年度前の事業年度において行った」に改め、同条第二項中「遊休財産額」を「使途不特定財産額」に、「かんがみ」を「鑑み」に、「財産と」を「財産(第十八条に規定する公益目的事業財産のうち、災害その他の予見し難い事由が発生した場合においても公益目的事業を継続的に行うために必要な限度において保有する必要があるものとして内閣府令で定める要件に該当するもの(次項において「公益目的事業継続予備財産」という。)を除く。)と」に改め、同条に次の一項を加える。

3 公益法人は、毎事業年度の末日において公益目的事業継続予備財産を保有している場合には、翌事業年度開始後速やかに、内閣府令で定めるところにより、当該公益目的事業継続予備財産を保有する理由及びその額その他内閣府令で定める事項を公表しなければならない。

第十八条第五号中「支出する」を「運用し、支出し、又は処分する」に改め、同条第六号中「第五条第十六号」を「第五条第十九号」に改め、同条第七号中「公益認定を受けた日の前に取得した財産であって同日」を「前各号に掲げるもののほか、公益法人が保有する財産であって公益認定を受けた日」に改める。

第十九条を次のように改める。

(区分経理)

第十九条公益法人は、内閣府令で定めるところにより、公益目的事業に係る経理、収益事業等に係る経理及び法人の運営に係る経理(収益事業等を行わない公益法人にあっては、公益目的事業に係る経理及び法人の運営に係る経理)をそれぞれ区分して整理しなければならない。ただし、収益事業等を行わない公益法人であって、その行う公益目的事業の内容その他の事項に関し内閣府令で定める要件に該当するものについては、この限りでない。

2 前項ただし書の規定の適用を受ける公益法人における前条及び第三十条第二項の規定の適用については、前条中「を公益目的事業」とあるのは「及び当該公益法人が保有する公益目的事業財産以外の財産のうち当該公益法人の運営を行うため必要な財産として内閣府令で定めるもの以外のもの(以下「公益目的事業財産等」という。)を公益目的事業」と、同項各号中「公益目的事業財産」とあるのは「公益目的事業財産等」とする。

第二十条第一項中「第五条第十三号」を「第五条第十四号」に改め、同条第二項を削る。

第二十一条第二項中「三箇月」を「三月」に改め、同項第三号中「第五条第十三号」を「第五条第十四号」に改め、同条第六項中「第四項第二号」を「第五項第二号」に改め、同項を同条第七項とし、同条中第五項を第六項とし、第四項を第五項とし、第三項の次に次の一項を加える。

4 公益法人は、一般社団・財団法人法第百二十三条第二項(一般社団・財団法人法第百九十九条において準用する場合を含む。)の規定により作成する事業報告に、各事業年度における公益目的事業の実施状況、公益法人の運営体制その他の公益法人の適正な運営を確保するために必要なものとして内閣府令で定める事項を記載しなければならない。

第二十二条を次のように改める。

(財産目録等の提出等)

第二十二条公益法人は、財産目録等(定款を除く。)について、前条第一項に規定する書類にあっては毎事業年度開始の日の前日までに(公益認定を受けた日の属する事業年度にあっては、当該公益認定を受けた後遅滞なく)、その他の書類にあっては毎事業年度の経過後三月以内に(公益認定を受けた日の属する事業年度にあっては、同条第二項各号に掲げる書類及び社員名簿を当該公益認定を受けた後遅滞なく)、内閣府令で定めるところにより、行政庁に提出しなければならない。

2 行政庁は、内閣府令で定めるところにより、この法律又はこの法律に基づく命令の規定により公益法人から提出を受けた財産目録等(役員等名簿又は社員名簿にあっては、これらに記載された事項中、個人の住所に係る記載の部分を除く。)を公表するものとする。

第二十五条第五項中「及び第三十条第二項」の下に「(これらの規定を第十九条第二項の規定により読み替えて適用する場合を含む。以下この項において同じ。)」を加え、「公益認定を受けた日の前に取得した財産であって同日」を「前各号に掲げるもののほか、公益法人が保有する財産であって公益認定を受けた日」に、「第十八条第六号に掲げる財産にあっては、」を「公益認定」に改め、「第二十五条第五項の規定により読み替えて適用する第十八条第七号に掲げる財産にあっては、」を削り、「」と、「もの」とあるのは「もの(当該公益法人が同日以後に第十八条第七号の内閣府令で定めるところにより公益目的事業の用に供するものである旨を表示したものを除く。)」を「公益認定」に、「にその」を「に内閣府令で定める方法によりその」に改め、「譲渡した公益目的事業財産」の下に「(当該消滅する公益法人が第十九条第一項ただし書の規定の適用を受けるものである場合にあっては、同条第二項の規定により読み替えて適用する第十八条に規定する公益目的事業財産等)」を加える。

第二十六条第一項中「一箇月」を「一月」に改める。

第三十条第一項中「第五条第十七号」を「第五条第二十号」に、「一箇月」を「一月」に改め、同条第二項第一号中「すべて」を「全て」に改め、同項第三号中「受けた日以後に」の下に「内閣府令で定める方法により」を加え、同条第五項中「第五条第十七号」を「第五条第二十号」に改める。

第四十三条第二項第一号中「第十二号ただし書」を「第十三号ただし書」に、「及び第十七号ト」を「、第十八号ただし書及び第二十号ト」に、「第四十三条第一項ただし書及び第三項ただし書」を「前項ただし書及び次項ただし書」に、「第五条第十三号及び第十五号」を「第五条第十四号から第十六号まで及び第十八号」に、「第二号を除く。)」を「第三号を除く。)、第十四条」に、「第二十一条第一項及び第二項」を「第十九条第一項及び同条第二項の規定により読み替えて適用する第十八条本文、第二十一条第一項、第二項及び第四項」に改める。

第五十九条第一項中「権限(」の下に「第四十四条第一項の答申又は第四十六条第一項の勧告のため必要なものに限り、」を加え、「。次項において同じ」を削り、同条第二項中「場合には」を「場合における第二十七条第一項の規定による権限(第五十二条において準用する第四十四条第一項の答申又は第五十四条において準用する第四十六条第一項の勧告のため必要なものに限り、第六条各号に掲げる一般社団法人又は一般財団法人に該当するか否かの調査に関するものを除く。)の行使については」に改め、「その」を削る。

第六十二条中「次の」を「次の各号の」に、「者は」を「場合には、当該違反行為をした者は」に改め、同条第一号中「者」を「とき。」に改め、同条第二号中「同項第一号又は第二号」を「同項各号」に、「者」を「とき。」に改め、同条第三号中「又は第三号」を削り、「者」を「とき。」に改める。

第六十三条中「次の」を「次の各号の」に、「者は」を「場合には、当該違反行為をした者は」に改め、同条各号中「者」を「とき。」に改める。

第六十四条中「次の」を「次の各号の」に、「者は」を「場合には、当該違反行為をした者は」に改め、同条各号中「者」を「とき。」に改める。

第六十六条中「次の」を「次の各号の」に改める。

附則

(施行期日)

第一条この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

ただし、次条及び附則第十条の規定は、公布の日から施行する。

(準備行為)

第二条内閣総理大臣は、この法律の施行の日(以下「施行日」という。)前においても、この法律による改正後の公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「新法」という。)第四十三条第二項(第一号に係る部分に限る。)の規定の例により、同号に規定する政令又は内閣府令(この法律による改正前の公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「旧法」という。)第四十三条第二項第一号に規定する政令又は内閣府令を除く。)の制定の立案又は制定に関し、公益認定等委員会に諮問をすることができる。

(公益法人の運営に関する経過措置)

第三条新法第十四条、第十六条、第十九条及び第二十一条第四項の規定は、施行日以後に開始する公益法人の事業年度について適用し、施行日前に開始した公益法人の事業年度に係る財務その他の公益法人の運営に関する事項については、なお従前の例による。

(公益認定の基準に関する経過措置)

第四条次条に定めるもののほか、新法第五条(第十二号、第十五号及び第十六号に係る部分に限る。)の規定は、施行日以後にされる公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律第四条の認定(以下「公益認定」という。)の申請について適用し、施行日前にされた公益認定の申請に係る公益認定の基準(理事又は監事の資格に係るものに限る。)については、なお従前の例による。

(公益認定の基準に関する経過措置の特例)

第五条この法律の施行の際現に存する公益法人又は施行日以後に前条の規定によりなお従前の例によることとされる旧法第五条の基準に基づいて公益認定を受けた公益法人については、新法第五条(第十二号に係る部分に限る。)の規定は、この法律の施行又は当該公益認定の際現に在任する当該公益法人の全ての理事及び監事の任期が満了する日の翌日(その日前に当該公益法人が同号の基準に適合した場合にあっては、その適合した日)から適用する。

2 この法律の施行の際現に存する公益法人又は施行日以後に前条の規定によりなお従前の例によることとされる旧法第五条の基準に基づいて公益認定を受けた公益法人については、新法第五条(第十五号に係る部分に限る。)の規定は、この法律の施行又は当該公益認定の際現に在任する当該公益法人の全ての理事の任期が満了する日の翌日(その日前に当該公益法人が同号の基準に適合した場合にあっては、その適合した日)から適用する。

3 この法律の施行の際現に存する公益法人又は施行日以後に前条の規定によりなお従前の例によることとされる旧法第五条の基準に基づいて公益認定を受けた公益法人については、新法第五条(第十六号に係る部分に限る。)の規定は、この法律の施行又は当該公益認定の際現に在任する当該公益法人の全ての監事の任期が満了する日の翌日(その日前に当該公益法人が同号の基準に適合した場合にあっては、その適合した日)から適用する。

(変更の認定に関する経過措置)

第六条この法律の施行の際現に旧法第十一条第一項の認定の申請(同項第三号に掲げる変更に係るものに限る。)がされているときは、施行日以後に当該変更があった時に、新法第十三条第一項の規定による届出(同項第二号に掲げる変更に係るものに限る。)がされたものとみなす。

(報酬等の支給の基準の公表に関する経過措置)

第七条施行日前に旧法第五条第十三号に規定する報酬等の支給の基準を定め、又は変更した場合の公表については、なお従前の例による。

(財産目録等の提出等に関する経過措置)

第八条新法第二十二条第一項の規定は、施行日以後に公益認定を受ける公益法人の財産目録等(新法第二十一条第五項に規定する財産目録等をいう。以下この条において同じ。)の行政庁への提出について適用し、施行日前に公益認定を受けた公益法人の財産目録等の行政庁への提出については、なお従前の例による。

2 新法第二十二条第二項の規定は、施行日以後に行政庁が提出を受ける財産目録等について適用し、施行日前に行政庁が提出を受けた財産目録等の閲覧又は謄写については、なお従前の例による。

(罰則に関する経過措置)

第九条この法律の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。

(政令への委任)

第十条附則第二条から前条までに定めるもののほか、この法律の施行に関し必要な経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)は、政令で定める。

(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の一部改正)

第十一条一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成十八年法律第五十号)の一部を次のように改正する。

第百十九条第二項第一号ロ及び第百三十条中「第五条第十七号」を「第五条第二十号」に改める。

(医療法の一部改正)

第十二条医療法(昭和二十三年法律第二百五号)の一部を次のように改正する。

第七十条の三第一項第十九号中「第七十条の二十二において読み替えて準用する公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(平成十八年法律第四十九号)第三十条第二項」を「第七十条の二十二第二項」に改める。

第七十条の九中「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」の下に「(平成十八年法律第四十九号)」を加える。

第七十条の二十二を次のように改める。

第七十条の二十二認定都道府県知事が前条第一項又は第二項の規定による医療連携推進認定の取消しをした場合において、第七十条の三第一項第十九号に規定する定款の定めに従い、当該医療連携推進認定の取消しの日から一月以内に医療連携推進目的取得財産残額に相当する額の財産の贈与に係る書面による契約が成立しないときは、認定都道府県知事の管轄する都道府県が当該医療連携推進目的取得財産残額に相当する額の金銭について、同号に規定する定款で定める贈与を当該医療連携推進認定の取消しを受けた法人(第四項において「認定取消法人」という。)から受ける旨の書面による契約が成立したものとみなす。当該医療連携推進認定の取消しの日から一月以内に当該医療連携推進目的取得財産残額の一部に相当する額の財産について同号に規定する定款で定める贈与に係る書面による契約が成立した場合における残余の部分についても、同様とする。

2 前項の医療連携推進目的取得財産残額は、第一号に掲げる財産から第二号に掲げる財産を除外した残余の財産の価額の合計額から第三号に掲げる額を控除して得た額をいう。

一当該地域医療連携推進法人が取得した全ての医療連携推進目的事業財産(第七十条の九において読み替えて準用する公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律第十八条に規定する医療連携推進目的事業財産をいう。次号及び第三号において同じ。)

二当該地域医療連携推進法人が医療連携推進認定を受けた日以後に医療連携推進業務を行うために費消し、又は譲渡した医療連携推進目的事業財産

三医療連携推進目的事業財産以外の財産であつて当該地域医療連携推進法人が医療連携推進認定を受けた日以後に厚生労働省令で定める方法により医療連携推進業務を行うために費消し、又は譲渡したもの及び同日以後に医療連携推進業務の実施に伴い負担した公租公課の支払その他厚生労働省令で定めるものの額の合計額

3 前項に定めるもののほか、医療連携推進目的取得財産残額の算定の細目その他その算定に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。

4 認定都道府県知事は、第一項の場合には、認定取消法人に対し、前二項の規定により算定した医療連携推進目的取得財産残額及び第一項の規定により当該認定取消法人と認定都道府県知事の管轄する都道府県との間に当該医療連携推進目的取得財産残額又はその一部に相当する額の金銭の贈与に係る契約が成立した旨を通知しなければならない。

5 地域医療連携推進法人は、第七十条の三第一項第十九号に規定する定款の定めを変更することができない。

理由

公益法人による社会の諸課題の解決に向けた活動の一層の促進を図るため、公益法人等の責務を定めるとともに、公益認定の基準及び変更の認定の対象の見直し、公益目的事業の収入、遊休財産額の保有の制限及び区分経理に関する規定の見直し等を行う必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

渋谷陽一郎『Q&A 家族信託大全』 第7章民事信託の融資(民事信託案件に対するファイナンス)

  • 渋谷陽一郎『Q&A 家族信託大全』2023年、日本法令。
  • 第7章民事信託の融資(民事信託案件に対するファイナンス)

P337、信託財産責任負担債務として受託者が借入人となる場合、一般の実績では、通常の融資の金利・手数料の約2倍前後の水準となっているようだ(もちろん、各金融機関によって取扱事例の金利実績は異なる)。について・・・一般の実績の出典はどこからなのか、記載が必要だと思います。

P345、信託目的達成のため、高齢者の介護費または施設入所費用などを使用使途とする受託者による借入が可能なのか否かという論点がある。・・・もし、介護費などで借り入れが必要な状況であることが信託行為時に予想される場合、信託制度を利用するのではなく、任意後見制度を含む後見制度を利用する方が良いのかなと思いました。

P406、信託法の清算規定は、会社制度を参照した結果、会社の清算のように、バランスシートをゼロとする必要があるとの想定なのか。・・・信託法177条1号の現務の結了が、事業や契約の終了を必ずしも意味しない(道垣内弘人『信託法〔第2版〕: 現代民法別巻 (現代民法 別巻)』2022年、有斐閣、P439、P440)ので、信託法177条2号の信託債権に係る債務の弁済は、残余財産の給付との関係では、強行規定には該当しないと考えます。

P411、信託法179条の、清算受託者は、直ちに信託財産についての破産手続開始の申立て、信託法181条の、信託債権に係る債務の弁済と受益債権に係る債務の弁済をした後でなければ、の強行法規性について。・・・債権者の合意があれば、強行法規とはならないと考えます(道垣内弘人編著『条解信託法』)2017、弘文堂、P782)。

P427~、Q343~Q346にかけて、抵当権が設定されている不動産に対して、抵当権者の金融機関に黙って信託行為を行う事例が、実際にある前提の記載があり、このような実務を行うことがあるのだと初めて知りました。

Q352、担保物件を任意売却する場合、債務者が委託者であり認知症などにより判断能力を欠いているときは、成年後見制度を利用することが原則になると考えます。任意後見契約を締結していない場合、任意売却に関わらず、委託者が判断能力を欠いた時点で成年後見制度を利用することが必要となり、任意売却が必要となってから何かしら特別な手続をする、ということにはならないのではないかと思いました。

Q353、信託登記と抵当権設定登記の連件申請において、信託登記の信託目録記載事項、信託財産の管理方法として被担保債権を特定することが必要か。・・・被担保債権を特定すると抵当権設定登記との連続性が、より保たれることになり、確実性が増すといえます。この場合、抵当権設定登記が完了した後も信託目録に被担保債権の特定事項は残り、権利部の登記記録と重複する部分が出てくることになります。そこまで必要なのか分かりませんでした。抵当権設定の権限のみを信託条項とするのでは足りないのかなと、個人的に思いました。

Q354、信託行為に、信託財産責任負担債務として委託者の債務引き受け、などと注意書きとして受託差の権限を定める方法があるのではないかなと思いました。

Q341,で信託監督人はあくまで受益者の保護という観点から監督を行うのであり、債権者のために監督を行うのではないことに注意しておきたい、との記載があります。Q355、において金融機関に対する債務の利率変更について記載があります。本書では専門職の信託監督人が推奨されています。信託監督人が利下げなどの交渉を受託者と同行して出来るのはないか、状況によっては義務にもなり得るのではないかと思いました。

Q357、について、解説記載のとおり新受託者が債務引き受けの特約を行う場合に審査を行えばよく、事前に予備的受託者の審査をする必要性は、原則としてないのではないかと思います。

Q372、並存的債務引受は、併存的債務引受の誤植かと思います。

Q375、なぜ受益者全員を連帯保証人にする必要があるのか、分かりませんでした。連帯保証人が必要であれば、委託者兼受益者のみで足りるのではないかと思いました。

Q376、受託者、予備的受託者は抵当権消滅請求(民法379条から386条。)における第三取得者に該当するか、について。・・・第三取得者に該当する可能性は低いと考えます。受託者は委託者に対価を支払っているわけではないことが理由です。

Q385、金融機関が、委託者や受託者から、遺留分侵害なきことの表明保証を取得することに対して、どのような意味があるのか、分かりませんでした。通常の融資でも遺言の有無と遺留分侵害なきことの表明保証を取るのでしょうか。

Q386、金融機関が事前に受託者に対する誓約条項を公開していただければ、信託行為の定めを作成するのも、今までよりやるやすくなります。

Q388からQ404、金融機関が予備的受託者として、旧受託者の推定相続人を求める場合があるかもしれない、との記載について。・・・旧受託者の死亡を前提としているなら、旧受託者の推定相続人でも良いのかなと思いました。旧受託者の配偶者としている場合、委託者兼受益者の推定相続人とはならないときでも、受託者交代のときにもう一度審査があると思うので、その時に適切な人を、信託行為に関わらず、必要なら変更して、受託者に就任してもらえば良いと考えます。

Q407、金融機関独自の審査基準を内製化し、可能であれば公表することは必要だと思います。信託口口座開設が出来ない場合、信託行為を予定している当事者の納得と金融機関選定の目安ともなります。金融機関としても、予め自行の審査基準に該当しない人を、支援している専門家を通して選別出来ることで、審査に係る時間を減らすことが出来ると思います。私なら、本書記載の審査項目に、審査時点における委託者の遺言書の有無、任意後見制度利用の有無を追加します。遺言書について、内容の公開は含みません。

Q409、金融機関が、信託に関する審査を同じ地方の士業に委託したとしても、審査結果に対しての根拠付け、質問に対しての法的根拠のある回答が可能であれば問題ないと思います。困るのは融資あり、抵当権付き不動産を信託する場合に、その金融機関が提携している士業でないと、信託は出来ない、と言われることです。地方では地銀は限られており、他の地銀に借り換える労力がある場面は多くありません。委託者が専門家を選ぶことが出来るのが普通ではないかなと思います。

Q411、金融機関の審査コストについて。・・・信託契約書の審査に時間・労力がかかっているのは外部からみている限り確かなので、信託口口座開設のために審査料を設定するのは、適切だと思います。ただし、金融機関は資産を持っている信託行為の当事者の情報、財産承継の計画、親族関係を把握することが出来ます。遺言書より詳細な情報を見ることが出来ます。その情報を基に、融資や保険商品などの話をすることが可能です。このような利益を考えると、審査料は無料という考え方も成り立つと思います。または、審査料を設定する場合は、信託行為の情報に基づく営業活動を禁止する、という取扱いが適切だと思います。

 口座管理費用を徴収するのは、現在のところ他の口座管理とどのように違うのか説明がないので、理屈が分かりません。

 

Q415、受託者が解任されてしまった場合はどうするか。・・・解任前に金融機関への報告を義務付ける取扱いが考えられます。

 受託者が解任された際、「信託口」口座の承継手続は具体的にどうすべきか(いかにして継続が可能となるのか)。・・・原則として受託者の変更手続きになると考えます。いかにして継続が可能となるのか、については、信託財産責任負担債務がある場合で、金融機関の審査に耐えられる新受託者が見つからないときは、担保、保証の追加や信託の終了などの対応になると思います。

Q417、金融機関に対する報告事項を信託行為に定めることについて。・・・信託口口座開設予定の金融機関から、事前にテキストで提示していただけるなら信託行為に定めることが可能ですが、提示がない場合は金融機関から別の契約・合意を委託者、受託者に求めるのが合理的だと考えます。

Q421からQ424、受益者代理人について。利用する場合は、任意後見・成年後見制度との権限の棲み分けを信託行為や任意後見契約書に定める必要があると思います。

Q425からQ435、受託者を法人とする信託について。実質的支配者、特定取引の観点を入れると、判断がしやすくなる面があると思いました。参考、警察庁、犯罪収益移転防止法の概要、令和6年4月1日時点。

Q447、信託内部における受益権の処分禁止(信託法93条など。)や譲渡に受益者以外の者の承諾を要する定めが、信託外の第三者たる受益者の債権者に対して、どこまで主張できるのか、について。・・・信託当事者内部の定めであり、債権者に対して主張出来ないと考えます。

加工司法書士及び司法書士法人の業務のマネー・ローンダリング及びテロ資金供与に関するガイドライン

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00607.html

司法書士及び司法書士法人の業務のマネー・ローンダリング及びテロ資金供与に関するガイドライン

令和6年4月1日 法務省・日本司法書士会連合会

目   次 第1 本ガイドラインの目的等 …………………………………………… 2

1 本ガイドラインの目的 …………………………………………….. 2

2 本ガイドラインの基本的な考え方 …………………………………….. 3

  •  リスクベース・アプローチの位置付け ……………………………….. 3
  •  監督指導等の指針 ………………………………………………. 4

第2 司法書士に求められる取組み ………………………………………… 4

1 司法書士が取り組むべきリスクベース・アプローチ ………………………. 4

  •  リスクベース・アプローチの意義 …………………………………… 4
  •  リスクの特定及び評価 …………………………………………… 5
  •  リスク低減措置 ………………………………………………… 6
  •  リスク低減措置を講じてもリスクが許容される程度に低減されない場合の対応 … 8

 2 犯収法上の義務との関係 …………………………………………… 9

第3 監督指導等の対応 ………………………………………………… 9

1 基本的な考え方 ………………………………………………….. 9

2 司法書士会による監督指導等 ……………………………………….. 10

3 法務大臣等による監督 ……………………………………………. 10

第4 ガイドラインの実現に向けた取組み等 ………………………………… 11

 1 日司連による手引の策定 ………………………………………….. 11

2 司法書士会によるアウトリーチ等 ……………………………………. 11

 3 その他留意事項 …………………………………………………. 11 

第1 本ガイドラインの目的等

1 本ガイドラインの目的

 経済・金融サービスのグローバル化、暗号資産の普及といった技術革新により、資金の流れが多様化し、国境を越える取引が容易になっている中で、マネー・ローンダリングやテロ資金供与(以下「マネロン・テロ資金供与」という。)の手口も複雑化・高度化している。 こうした資金の流れを放置すると、不正な資金が将来の犯罪活動や犯罪組織の維持・強化に利用され、組織的な犯罪及びテロリズムを助長するとともに、これを用いた事業活動への干渉が健全な経済活動に重大な悪影響を与えるおそれがあり、我が国や国際社会にとっての大きな脅威につながる。

 このため、国際社会においては、不正な資金の移転が、国境を越え、脆弱な規制や不十分な対策の隙をついて行われるという認識のもと、金融活動作業部会(Financial Action Task Force(以下「FATF」という。))の多国間枠組みを通じて、マネー・ローンダリング、テロ資金供与、大量破壊兵器の拡散活動への資金供与への対策の国際基準(以下「FATF基準」という。)の策定・履行を協調して行い、世界全体での対策の実効性向上を図っている。我が国でも、犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成19年法律第22号。以下「犯収法」という。)等を制定するなどして、FATF基準の履行を図っている。

 犯収法は、令和4年12月に改正され(国際的な不正資金等の移動等に対処するための国際連合安全保障理事会決議第1267号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法等の一部を改正する法律(令和4年法律第97号))、司法書士を含む一定の資格者に義務付けられる取引時確認事項が、犯収法第4条で規定する全ての事項に及ぶこととなった。司法書士及び司法書士法人(以下、両者を併せて「司法書士」という。)については、日本司法書士会連合会(以下「日司連」という。)が特定取引において果たすべき確認事項を示すチェックシートのモデルを作成し、これに基づいて司法書士が取引時確認の義務を果たすこととなる。また、司法書士は、犯収法第8条に規定される疑わしい取引の届出義務が課されないこととなったが、当該義務に代わる自主的な制度として、各司法書士会(以下、日司連と併せて「日司連等」という。)の会則において「特別事件報告」の制度が設けられた。

 しかし、社会情勢等が刻々と変化することに伴うマネロン・テロ資金供与のリスクの変化等に機動的に対応し、個々の依頼についてマネロン・テロ資金供与を目的とするものか否かを的確に判断するためには、これまで行われてきた、法令等の整備によるいわゆる「ルールベース・アプローチ」に基づく対策のみでは不十分であり、司法書士が直面するリスクに応じた柔軟な対応を取ることが不可欠である。

 そこで、本ガイドラインは、司法書士を対象とする「リスクベース・アプローチ」の枠組みを示し、これを遵守させることを目的とするものである(リスクベース・アプローチは、FATFによるマネロン・テロ資金供与対策に関する勧告における基本原則とされており、司法書士を含む特定非金融業者及び職業専門家(DNFBPs)に対しても遵守が求められている。)。リスクベース・アプローチは、自らの業務について直面しているマネロン・テロ資金供与のリスクを適時かつ適切に特定及び評価し、リスクに見合ったリスク低減措置(資産及び収入の状況の確認を含む。)を講ずることをいい、司法書士が業務を行う上での姿勢を示すものである。

 また、司法書士の業務におけるマネロン・テロ資金供与への対策を実効的なものとするために、法務省、日司連等が行うべき取組みや司法書士に対するモニタリングのあり方について明らかにする必要がある。法務省、日司連等が本ガイドラインを踏まえたマネロン・テロ資金供与対策への対応状況等についてモニタリングを行い、適切な是正措置を行うことで司法書士が果たすべき執務の一層の適正化を図るものである。

2 本ガイドラインの基本的な考え方

  •  リスクベース・アプローチの位置付け

 犯収法は、国民生活の安全と平穏を確保し、経済活動の健全な発展に寄与する上でマネロン・テロ資金供与の防止が極めて重要であること(犯収法第1条参照)に鑑みて、その防止のために特定事業者による措置等を規定している。このような法の趣旨及び目的並びに司法書士の職責(司法書士法(昭和25年法律第197号)第2条)に照らすと、司法書士は、自らの業務に関する依頼の目的がマネロン・テロ資金供与であると認めた場合には、その依頼を受けてはならないことになる。そのため、自らの業務に関する依頼を受けようとするときは、その依頼の目的がマネロン・テロ資金供与であるか否かについて慎重かつ的確に検討しなければならない。また、その検討の結果、依頼の目的がマネロン・テロ資金供与であることの疑いを払拭できない場合についても、その依頼を受けてはならない。

 リスクベース・アプローチは、依頼の目的がマネロン・テロ資金供与であるか否かを検討するための合理的な方法であり、司法書士は、自らの行う業務がマネロン・テロ資金供与に利用されないことが極めて重要な社会的責務であることに鑑みて、全ての依頼について、マネロン・テロ資金供与に関するリスク(以下単に「リスク」という。)の観点から、犯収法等の趣旨を踏まえ、リスクベース・アプローチに基づく対応を行わなければならない(リスクベース・アプローチに基づく検討を行うまでもなく依頼の目的がマネロン・テロ資金供与を目的とすることが明らかである場合には、当然、その依頼を直ちに拒否しなければならない。)。

  •  監督指導等の指針

 マネロン・テロ資金供与対策の実効性を確保するためには、司法書士会及び法務省が、司法書士によるマネロン・テロ資金供与対策の取組状況についてモニタリングを行う必要がある。また、司法書士によるマネロン・テロ資金供与対策が明らかに不十分であるなどの場合には、監督指導による是正が必要となる(以下、モニタリング及び監督指導を合わせて「監督指導等」という。)。 このような監督指導等の具体的な内容は、司法書士がマネロン・テロ資金供与に関わるリスク(以下「監督上のリスク」という。)に応じて決められるべきである(第3を参照)。

第2 司法書士に求められる取組み

1 司法書士が取り組むべきリスクベース・アプローチ

  •  リスクベース・アプローチの意義

 リスクベース・アプローチとは、司法書士が、業務に関して依頼を受けようとする際及び依頼を受けた後に、自らが直面しているリスクを適時かつ適切に特定及び評価し、当該依頼を行うことが許容される程度にまで当該リスクを実効的に低減するため、当該リスクに見合った対策を講ずることをいう。

 リスクベース・アプローチの枠組みは、司法書士の業務に関する依頼の目的がマネロン・テロ資金供与にあるか否かを検討するための基本原則であることから、本来的には、その適用対象は犯収法上の特定取引(犯収法第4条第1項)に限定されるものではなく、司法書士の業務(司法書士法第3条若しくは第29条に定める業務又はこれらに付随し、若しくは関連する業務)のうち、依頼者のためにする行為又は手続に係る依頼全般に適用されるべきものである。

  •  リスクの特定及び評価

ア リスクの特定及び評価

  リスクの特定は、司法書士が、自らが依頼を受け、又は依頼を受けようとする行為や依頼者の属性等のリスクを包括的かつ具体的に検証し、マネロン・テロ資金供与に係るリスクを特定するものであり、リスクベース・アプローチの出発点というべきものである。

 リスクの特定について、司法書士は、司法書士の業務について依頼を受けようとする場合には、依頼者の属性、依頼者との業務上の関係、依頼内容及び依頼に関係する事実(例えば、不動産登記の代理申請の依頼においては、当該申請の登記原因に係る事実)等の事情を包括的かつ具体的に検討した上で、これらを総合的に考慮してリスクを特定しなければならない。

 また、依頼を受けたであっても、同様にこれらの事情について新たなリスクが判明した場合には、これを踏まえてリスクの特定を検討する必要がある。そして、司法書士は、特定されたリスクについて、自らへの影響度等を踏まえて総合的な評価を行い、その依頼について高リスクであるか否かの判断を行わなければならない。

 このようなリスクの特定及び評価は、リスク低減措置の具体的な内容を基礎付けるものであり、リスクベース・アプローチの土台となるものである。

 イ 高リスクの依頼

 高リスクとは、その依頼を受けようとする場合に、特定したリスクの評価の結果、司法書士会の会則(以下「会則」という。)で定められた依頼者等の本人であることの確認並びに依頼の内容及び意思の確認(以下「依頼者等の本人確認等」という。)の義務や犯収法で規定された取引時確認等の義務を履行するだけでは許容されない程度のリスクが残ることをいう。

 ここで、「許容されない程度のリスク」とは、依頼の目的がマネロン・テロ資金供与であることの疑いを払拭できないことを意味している。この場合には、後記⑶アのとおり、追加的なリスク低減措置が講じられなければならない。

ウ リスクの特定及び評価の具体的方法

 司法書士は、リスクの特定及び評価に当たっては、自らの有する情報のほか、後述するリスクベース・アプローチに関する解説や国家公安委員会作成の「犯罪収益移転危険度調査書」(以下「危険度調査書」という。https://www.npsc.go.jp/policy/)などを参照したり、法務省等の関係省庁から提供される情報や日司連等から提供される情報等を踏まえたりするなどして、高リスクであるか否かの判断を適切に行うように努めなければならない。

 また、特定の依頼者との関係で継続的に業務に従事する場合には、依頼を受けた後においてもリスクの特定及び評価が必要とされる場合がある。

  •  リスク低減措置

ア リスク低減措置としての顧客管理

 前記⑵で特定及び評価されたリスクを許容される程度に実効的に低減するための措置を講ずることは、マネロン・テロ資金供与対策の実効性を決定付けるものである。リスク低減措置のうち、特に個々の依頼者に着目し、自らが特定及び評価したリスクを前提として、個々の依頼者の情報や当該依頼者の依頼内容等を調査し、調査の結果をリスク評価の結果と照らして、講ずべきリスク低減措置を判断及び実施する一連の流れを、本ガイドラインにおいては「顧客管理」という。リスク低減措置の中核的な事項である。

 依頼者との個別的な契約締結を前提とする司法書士の業務において、リスク低減措置は、通常、個々の依頼者を単位として講じられることとなる。そこで、司法書士は、特定及び評価されたリスクについて、個々の依頼者に着目したリスク低減措置を講ずることが基本となる。 顧客管理は、依頼を受けようとする際の顧客管理(以下「依頼時の顧客管理」という。)と依頼を受けた後の顧客管理(以下「依頼後の顧客管理」という。)に分けることができる。

 一般的にいえば、単発的な不動産登記手続の代理申請業務の多くは、依頼時の顧客管理のあり方が中心的な問題となり、財産管理業務など依頼者との間で継続的な関係が予定される場合には、依頼時の顧客管理に加えて依頼後の顧客管理のあり方も問題となることが多い。

イ 依頼時の顧客管理の内容

  依頼時の顧客管理は、依頼者等の本人確認等を典型例とする。講ずべき措置の内容は、特定及び評価されたリスクの内容及び当該リスクが高リスクであるか否かに応じて決められるべきである。本ガイドラインにおいては、高リスクと判断した場合に講ずべき顧客管理を「厳格な顧客管理」といい、高リスクではないと判断した場合に講ずべき顧客管理を「通常の顧客管理」という。 (ア)厳格な顧客管理(高リスクの場合)

  高リスクと判断した場合には、依頼者等の本人確認等を行うだけではリスクを許容される程度に低減することはできないため、追加的なリスク低減措置を講ずることが求められる。追加的なリスク低減措置の具体的な内容は、犯収法第4条第2項に規定する取引(以下「ハイリスク取引」という。)における追加的な確認方法及び後述するリスクベース・アプローチに関する解説や危険度調査書に記載された取組内容等を参照しつつ、司法書士が直面する具体的なリスクの内容に応じて決められるべきである。なお、高リスクと判断した場合には、その判断根拠や講じたリスク低減措置の内容について記録化しておくべきである。

  • 通常の顧客管理

  高リスクではないと判断した場合には、司法書士の職責上求められる依頼者等の本人確認等の義務や犯収法で規定された取引時確認の義務を履行することで、リスクを許容される程度に低減することができる(後述する「簡素な顧客管理」は、「通常の顧客管理」の一態様として整理される。)。

ウ 依頼後の顧客管理

 依頼者との契約に基づく財産管理業務に従事したり、同一の依頼者から継続的に登記申請手続の代理業務に従事したりする場合など、特定の依頼者との関係で継続的に業務に従事するときには、依頼時の顧客管理によって低減されたリスクを依頼後も適切に管理しなければならない。これに加えて、業務に従事する過程で新たなリスクが判明した場合には、リスクの評価を行い、その内容に応じたリスク低減措置を講じなければならない。このように、依頼後の顧客管理は、継続的なリスク管理と新たなリスク等への対応に分けることができる。

  • 継続的なリスク管理

 継続的なリスク管理は、依頼時の顧客管理において取得した情報を更新していくことが想定されている。その更新の頻度については、高リスクであるか否かに応じて決められるべきであるが、依頼時の顧客管理を実行することにより許容される程度にリスクが低減されていることから、依頼後に新たなリスク等が生じたり、依頼時に行った適切な顧客管理をもってしても判明しなかった事情が事後的に判明したりしたといった場合を除いて、適切な顧客管理の実効性が妨げられない範囲で、取引の円滑な遂行等を考慮した顧客管理が許容される(以下、このような顧客管理を「簡素な顧客管理」という。)。

  • 新たなリスク等への対応

 特定の依頼者との関係で継続的に業務に従事する過程で新たなリスク等が判明したり、依頼時に行った適切な顧客管理をもってしても判明しなかった事情が事後的に判明したりしたといった場合には、依頼を受ける際と同様のリスク評価を行わなければならず、これによってその依頼が高リスクと判断された場合には、速やかに依頼時の顧客管理において取得した情報を更新するとともに、厳格な顧客管理として追加的なリスク低減措置を講じなければならない。その内容は、前記イ(ア)に記載したことが基本的には該当する。

  •  リスク低減措置を講じてもリスクが許容される程度に低減されない場合の対応

 リスクベース・アプローチに基づくリスク評価の結果、その依頼が高リスクと判断され、リスク低減措置を講じてもそのリスクが許容される程度まで減ぜられなかったときには、依頼の目的がマネロン・テロ資金供与であることの疑いが払拭できない場合に該当するとして、司法書士は、その依頼を拒まなければならず、受任後であれば、辞任しなければならない。

 依頼の目的がマネロン・テロ資金供与であることの疑いが払拭できない場合であるかに関する判断過程は合理的なものである必要があり、前記⑴から⑶までのリスクベース・アプローチの手順に則ったものである必要がある。また、リスクが許容される程度を超えているかについては、リスク低減措置を講じた後に残るリスクの程度が、高リスクと同程度のものといえるかによって判断されることとなる。

 上記の枠組みは、依頼後に新たなリスク等が生じた場合についても同様に当てはまる。

 2 犯収法上の義務との関係

  前記1のリスクベース・アプローチは、司法書士の業務に関する依頼の目的がマネロン・テロ資金供与であるかどうかを合理的に検討する枠組みであり、これをもって司法書士が犯収法上の義務の履行を免れるものではないことに注意する必要がある。

  例えば、司法書士は、リスクベース・アプローチの枠組みに基づき依頼を高リスクではないと判断した場合であっても、犯収法上の取引時確認等を要する取引類型については、これを実施しなければならないのは当然である。

第3 監督指導等の対応

 1 基本的な考え方

  マネロン・テロ資金供与対策の実効性を確保するためには、司法書士に対する適切な監督指導等が行われる必要がある。監督指導等は、大きく分けて、司法書士会による監督指導等と法務大臣又は法務局及び地方法務局の長による監督(以下「法務大臣等による監督」という。)に区別することができる。司法書士によるマネロン・テロ資金供与対策には、犯収法上の取引時確認等や会則上の依頼者等の本人確認等のように、法令又は会則に基づいて司法書士による遵守が義務付けられている対策(以下「法令等に基づく対策」という。)と、リスクベース・アプローチのように、法令又は会則に基づいて義務付けられているものではないが、ガイドライン等によって取組みが求められている対策(以下「ガイドライン等に基づく対策」といい、法令等に基づく対策と合わせて「司法書士によるマネロン・テロ資金供与対策」という。)が存在する。

 司法書士会による監督指導等は、法令等に基づく対策とガイドライン等に基づく対策の双方について行われるのに対し、法務大臣等による監督は、特に法令等に基づく対策の不遵守等を対象として行われることが想定されている。 司法書士会による監督指導等や法務大臣等による監督の方法は、いずれも監督上のリスクの内容及び性質、当該リスクの程度等に応じて決められるべきである。

2 司法書士会による監督指導等

  司法書士会は、司法書士によるマネロン・テロ資金供与対策が十分であるかについてモニタリングを行う。司法書士会によるモニタリングは、司法書士から提出された特定事件報告書に基づいて行うこととなる(特定事件報告書は、司法書士会によるモニタリング等の基礎となるものであるから、その記載事項は、その時点での社会的情勢等に反映した適切なものとされなければならない。そのため、必要に応じて、記載内容は改定されることとなる。)。

 司法書士会は、特定事件報告書の記載内容を通じて司法書士のマネロン・テロ資金供与対策について確認を行う。特定事件報告書に記載された内容に照らすと司法書士が行うべきマネロン・テロ資金供与対策として不十分な措置がとられていると認めた場合には、当該司法書士から事情聴取をした上で、当該司法書士に対して適切な助言及び指導を行うこととなる。 特定事件報告書の性質やこれに基づいた司法書士会による助言及び指導の実効性を確保する必要性があることを踏まえると、司法書士が特定事件報告書の提出に全く応じない場合、特定事件報告書の内容に基づく司法書士会による助言や指導に従わず、執務の内容等に改善がみられない場合、特定事件報告書に虚偽の記載をした場合には、監督上のリスクが高いものとして、司法書士会による注意勧告等の的確な対応をとることが要請される。 日司連は、司法書士会に対し、司法書士会による監督指導等の対応指針を示し、助言及び指導を行うこととする。

3 法務大臣等による監督

 司法書士会は、その会に所属する司法書士に対する指導権限があることから、まずもって司法書士会による監督指導等によって改善が図られることとなる。 しかし、司法書士会による監督指導が功を奏しない事案、法令等の違反の程度が重大である事案、司法書士会による自治的な取組みに委ねることが相当でない事案など、監督上のリスクが特に高いと認められる場合には、法務大臣等による監督が検討されなければならない。

 法務大臣等による監督は、犯収法上の監督権限(犯収法第15条以下)及び懲戒権限(司法書士法第47条及び第48条)の行使を通じて行われる。

 法務局及び地方法務局の長は、犯収法上の監督権限として、報告等を求める権限(同法第15条)、立入検査等の権限(同法第16条第1項)、指導等の権限(同法第17条)及び是正命令の権限(同法第18条)を有している(犯収法第15条以下、犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令(平成20年政令第20号)第35条。

 なお、罰則規定につき犯収法第25条、第26条及び第31条)。また、法務大臣は、司法書士法上、司法書士に対する懲戒権限を有しており、「司法書士及び司法書士法人に対する懲戒処分の考え方(処分基準等)」において、犯収法違反を伴う本人確認等義務違反が違反行為として明記されている(別表番号8及び15)。

  法務大臣等による監督は、対象となる事案の性質及び内容、法令等の違反の程度、それぞれの権限の性質や趣旨を踏まえて、どの措置をとるかが決定されるべきである。また、具体的な法務大臣等による監督の内容は、司法書士による法令等の違反の内容やその程度等から評価される監督上のリスクに応じて決定されるべきである。

第4 ガイドラインの実現に向けた取組み等

1 日司連による手引の策定

 司法書士がリスクの特定及び評価を適切に行い、実効的なリスク低減措置を可能とするためには、広くマネロン・テロ資金供与に関する最新の情報を収集し、分析することが有益である。そこで、日司連は、司法書士会と連携して参考事例を集積及び分析し、リスクベース・アプローチに基づく対応を行う上で参考となる事項をまとめた手引を策定し、司法書士に提供するものとする。

 リスクベース・アプローチに関する解説の内容は、社会情勢等が日々大きく変化することに伴うマネロン・テロ資金供与のリスクの変化等に機動的に対応するために、定期的に更新されることが想定される。

2 司法書士会によるアウトリーチ等

 司法書士会は、日司連及び法務省とも連携しつつ、リスクベース・アプローチその他のマネロン・テロ資金供与への対策に関する情報を、引き続き研修その他の機会を通じて司法書士に提供するものとする。また、日司連は、関係機関からの情報提供を受けたり、関係機関との間で意見交換等をしたりすることで、適時情報を把握して、司法書士会を通じて会員に情報提供をするものとする。

3 その他留意事項

 日本では、外国為替及び外国貿易法(昭和24年法律第228号)や国際連合安全保障理事会決議第1267号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法(平成26年法律第124号)に基づいてタリバーン関係者やテロリスト等に対し、資金その他資産の使用・資金の流れを防止するための資産凍結措置を実施している。司法書士においても、個々の依頼者に着目するほか、下記の対応をとることが求められる。

・取引の内容(送金先、取引関係者(その実質的支配者を含む)等)について最新の制裁リストと照合するなど、的確な運用を図ること

・制裁対象者が新たに指定された際には、遅滞なく、特定受任行為の代理等の依頼者に係る情報と照合するなど、国内外の制裁に係る法規制等の遵守その他リスクに応じた必要な措置を講ずること

月刊登記情報2024年5月号(750号)

「月刊登記情報2024年5月号(750号)」、きんざい

https://store.kinzai.jp/public/item/magazine/A/T/

 法窓一言 配偶者居住権の敷地をめぐる問題点

香川大学法学部准教授 辻上佳輝

 使用収益の方法(制限、裁量)。配偶者居住権の時効取得の可否。

企業価値担保権はどのように議論されてきたか

弁護士 冨川 諒、弁護士 小宮 俊

令和6年3月15日 衆議院 事業性融資の推進等に関する法律案

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g21309057.htm

令和5年2月10日金融審議会「事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループ」報告

https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20230210.html

 財団抵当制度の財団は、物的設備と物権的権利に制限。動産・債権譲渡担保制度は、担保価値が個別資産(動産・債権)の評価額が上限。

資産価値評価のコスト。担保権の信託(セキュリティトラスト)は執行、倒産手続きに関する論点が固まっていない、信託会社の管理報酬コスト。

 企業担保価値権は、株式による投資(エクイティ)と併せて、選択肢を増やすことを予定。再生局面で運転資金の融資を行うためには、借主の事業に対する正確な理解が必要なため、導入。運転資金の融資がしやすくなる、との想定は始まってみないと分からないと思いました。ガイドラインが整備されるのではないかと思います。

担保権の実行を通して企業再生を行うことを想定。経営の規律付けを、経営者の個人保証に依存することなく実現することを想定。融資額は、企業が保有する有形資産の価値を下回る可能性がある。

 無担保融資では、金融機関が借主支援に取り組まなくても、取り組んだ金融機関と比べて得られるリターンが同じ、という問題点があると指摘されていて、その視点はありませんでした。株式担保との比較として、倒産手続きの場面において抵当権とみなされ、別除権者として回収可能。株主が分散している場合、事業譲渡等の場面では同じく影響を受けるのではないかと思います。

 特徴として、企業価値担保信託契約を締結し、契約に基づいた融資、担保権設定が行われること。商業登記簿へ登記されることが効力要件。

「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律の施行に伴う

相続土地国庫帰属手続に関する事務の取扱いについて(通達)」の解説⑸

法務省民事局民事第二課補佐官 三枝稔宗、法務省民事局民事第二課補佐官 河瀬貴之、法務省訟務局訟務企画課訟務調査室法務専門官(前民事局民事第二課法務専門官) 手塚久美子、法務省民事局民事第二課不動産登記第四係長 清水玖美

 補正対象が承認申請書類の内容である場合で、作成代行者が司法書士、行政書士等の場合、承認申請者の意思を確認したうえで、作成代行者による補正を認める。承認申請の取下げによって審査手数料の還付・再使用は認められていない。負担金の納付期限の起算日は、初日不算入。共有者が申請した場合は、そのうちの1人に対して通知。

商業登記規則逐条解説 第17回

土手敏行

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=339M50000010023

(本店移転の登記)第六十五条

昭和41年8月11日民事甲第1759号民事局長回答「株式会社の本店移転の登記の際の企業担保権の登記等の取扱いについて」登記研究227号P70

大西勇:法務省民事局商事課係長(商業法人登記第一係担当)、樋比呂:法務省民事局商事課法規係員 【論説・解説】「管轄外への本店移転の登記申請があった場合における登記すべき事項の取扱いについて(平成29年7月6日付け法務省民商第110号商事課長回答)」の解説、登記研究838号P25

(株主総会の決議の不存在等の登記)第六十六条

昭和57年12月15日法務省民四第7583号民事局第四課長回答「取締役就任登記の抹消に伴う前任の取締役の回復について」登記研究 423号P114

目で見る筆界の調査・認定事例

第6回 過去の筆界確認情報により筆界点を認定した事案

法務省民事局民事第二課地図企画官 楠野智之(日本土地家屋調査士会連合会業務部協力)

 ブロック塀とL字側溝、石杭。隣地所有権登記名義人が休眠会社の場合。

法律業務が楽になる心理学の基礎第8回 改めてヒューマンエラーを考える

弁護士(認定心理士) 渡部友一郎

 人間を、システムの中の一つのシステムとして捉える。

西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本) 安全フォローアップ会議報告書

https://www.westjr.co.jp/safety/fukuchiyama/followup/

犯罪収益移転防止法の大改正と司法書士の実務⑻

司法書士 末光祐一

 既に取引時確認を行っている顧客などであることを確認。→取引時確認とほぼ変わらないのではないかと思いました。

犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=420M60000f5a001

(顧客等について既に取引時確認を行っていることを確認する方法)

第十六条 令第十三条第二項に規定する主務省令で定める方法は、次の各号に掲げることのいずれかにより顧客等(国等である場合にあっては、その代表者等又は当該国等(人格のない社団又は財団を除く。)。以下この条において同じ。)が確認記録に記録されている顧客等と同一であることを確認するとともに、当該確認を行った取引に係る第二十四条第一号から第三号までに掲げる事項を記録し、当該記録を当該取引の行われた日から七年間保存する方法とする。

一 預貯金通帳その他の顧客等が確認記録に記録されている顧客等と同一であることを示す書類その他の物の提示又は送付を受けること。

二 顧客等しか知り得ない事項その他の顧客等が確認記録に記録されている顧客等と同一であることを示す事項の申告を受けること。

2 前項の規定にかかわらず、特定事業者は、顧客等又は代表者等と面識がある場合その他の顧客等が確認記録に記録されている顧客等と同一であることが明らかな場合は、当該顧客等が確認記録に記録されている顧客等と同一であることを確認したものとすることができる。

中小企業とともに歩む企業法務のピントとヒント第61話 協働しよう①~中小企業診断士

司法書士法人鈴木事務所 司法書士 鈴木龍介

 株式による資金調達時など。

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